大学院・研究施設

脳神経外科学分野

概要

東京女子医科大学脳神経外科学講座 教授・基幹分野長 川俣貴一

東京女子医科大学脳神経外科は、脳腫瘍、脳血管障害、機能的疾患、脊椎脊髄疾患、小児脳神経外科、頭部外傷などの全ての領域におきまして本邦ではトップクラスの症例数と治療成績を誇っております。総勢で30名から成る各疾患別のグループでは複数のスペシャリストが診療にあたっており、各分野で最先端の技術・機器を駆使した安全で確実な脳神経外科手術により良好な治療成績をおさめています。2014年度の手術件数は1000例以上に及び、更にガンマナイフ治療を加えると約1300例の治療を行っており、日本でも有数の治療実績があります。また、化学療法や他の放射線治療を併用するなど、多角的治療により脳神経外科領域の全ての疾患に高いレベルで対応しております。単に開頭術だけではなく、患者様の体の負担を最小限にする低侵襲手術を心掛け、定位的治療法、神経内視鏡や血管内治療などをいち早く導入し、また、術中モニタリングなどにも力を入れることによりそれを実現しています。
患者様ならびにご家族への病状・治療に関するわかりやすい説明を常に心掛けております。すなわちインフォームドコンセントなどの医療倫理にも十分配慮した医療を推進しております。単なる病気の説明ではなく、患者様ならびにご家族と十分なコミュニケーションをとりながら治療選択枝についてお話しし、共に最良の治療法を見出していくことを重視しています。
教育については、学生教育、卒後教育にも力を入れており、当科が基幹病院となっている脳神経外科専門医教育プログラムは毎年優れた脳神経外科医を輩出しています。現在、全国の様々な関連施設で活躍している東京女子医科大学脳神経外科出身の脳神経外科医は250人を数えます。優秀な豊富な人材が東京女子医科大学脳神経外科学講座の大きな財産です。今後も技術と人間性を兼ね備えた国際的な人材を育成していく所存です。
研究については、上記の各脳神経外科分野で基礎研究、臨床研究が行われ、基礎研究では大学院生が中心となって研究を行っております。また、本学には先端生命医科学研究所が併設されており、その先端工学外科分野と共同で再生医療や外科治療戦略に関する研究を推進しています。
良き伝統を引き継ぎながら先端的技術や革新的な価値観も取り入れて、更なる講座の発展を図って参ります。大学病院・教育機関としての重要な責務として、教育ならびに研究にも全力で取り組む所存です。講座全体の日々の研鑽が最終的には患者様の治療に好循環を生む原動力になるものと確信し尽力して参ります。

研究可能テーマ

1.神経栄養因子を用いた神経機能障害の治療に関する研究
脳卒中の死亡率は近年減少しているが、その反面、生存し麻痺などの神経機能障害を残す患者の数は著明に増加しており社会的にも極めて重大な問題である。本研究では脳虚血後などの神経機能障害に対する全く新しい治療法として、神経栄養因子を導入し、臨床応用に向けて検討するとともに、アポトーシス抑制因子などとの関連からその基礎的な作用機序の検討を行う。
 
2.虚血性脳血管障害の血流の変化と機能回復に関する研究
虚血性脳血管障害に対してMRI(echo planner imagesを含む)とdynamic CTを用いて、発症後早期から経時的な画像解析を行い、局所脳血流量の変化と脳浮腫の程度、血流再開と梗塞巣内の出血との関係を検討し、適切な治療法の選択の手段とすることを目的とする。
 
3.髄膜腫の再発と増殖能との関係
髄膜腫は良性の腫瘍であるが、頭蓋底部に発生すると全摘出が不可能であり再発することがある。近年ガンマナイフの導入で局所放射線治療がなされることがあり、その増殖能の検討が必要である。腫瘍の再発因子として腫瘍側の病態を検討する。
 
4.悪性星細胞系腫瘍の病態と治療に関する研究
悪性星細胞系腫瘍はその治療予後がきわめて不良であり、その病態に関しても不明な点が多い。手術標本から本腫瘍の病理形態学的および免疫組織化学的検索を基礎に分子生物学的検索を行い、星細胞系腫瘍の中でどのような腫瘍が治療に抵抗性であるかをまたは、ここの腫瘍におけるなにかが治療抵抗性因子で有るかを検討し、治療に貢献することを目的とする。このことで腫瘍の研究における基礎的研究手法も会得できる
 
5.神経膠腫の増殖能、浸潤能と血管新生因子に関する研究
神経膠腫は浸潤性の強い腫瘍であり、これは血管新生因子との関係も指摘されている。臨床的には神経膠腫の画像所見における浸潤度の検索と手術標本より腫瘍の血管新生、腫瘍細胞浸潤、さらには皮質における神経細胞の形態学的検索を行い、手術における腫瘍摘出範囲の同定や補助療法に貢献することを目的とする。
 
6.下垂体腫瘍の分泌能と増殖能についての研究
下垂体腺腫は近年大部分がホルモン分泌能を有すると言われている。下垂体腺腫におけるホルモン分泌能を共焦点レーザー顕微鏡にて検索し、これらの各々の増殖能を検索する。この結果は残存腫瘍の術後の治療の選択に貢献すると考える。
 
7.下垂体腺腫におけるホルモン産生能とQOL 向上のためのホルモン予備能について
下垂体腺腫は外科的に摘出されその予後は良好である。近年下垂体腺腫におけるホルモン分泌能に関して検索がなされつつある。従来の非機能的下垂体腺腫においても大部分が何らかのホルモン分泌能があるといわれてきている。手術摘出標本におけるホルモン分泌能を免疫組織化学的および分子生物学的手法にて検索する。さらに、臨床的に本腫瘍症例の術前術後のホルモン予備能を詳細に検索し、適切な補充療法の指標を検索し、QOLの向上を図ることを目的とする。
 
8.脳血管疾患の遺伝子学的検討
脳動脈瘤やもやもや病などで遺伝子レベルでの研究が進められているが、発生機序に関してはいまだ不明な点が多い。豊富な臨床例のうち家族性発症例で脳動脈瘤ともやもや病の発生機序に関して遺伝子レベルでの解明を進める。
 
9.新しい脳動脈瘤塞栓用コイル、塞栓物質の開発
現在、脳動脈瘤の治療法の一つに血管内手術がある。これらの治療に用いるコイルや塞栓物質の開発を目的とし、臨床応用に向けて基礎研究動物実験を行う。
 
10.髄芽腫における細胞死と神経細胞様分化に関する研究
我々は小児悪性脳腫瘍である髄芽腫の細胞に神経成長因子(NGF)受容体(Trk)を遺伝子導入し、NGF添加により細胞死と神経細胞様分化をおこすことを示した。この現象において、分化と細胞死の運命決定のため重要な因子の同定を行う。特にRbやp53などの癌抑制遺伝子、ICE familyやFasなどのapoptosis関連タンパク、gcmなどをtargetにして、NGF添加後の経時的変化を見ていく。
 
11.てんかんの治療に関する基礎的・臨床研究
てんかんの病態を生理学的、核医学的に検討すると共に、実験的にてんかんを作成し、生化学的・生理学的手法を用いて病態を臨床像と比較検討し、治療に結びつけることを目的とする。
 
12.てんかん患者における辺緑系の機能
側頭葉てんかん患者における、深部脳波及び硬膜下電極による事象関連電位P300の発生源の検討。海馬刺激時の脳研式対語検査を利用した記憶と海馬の側方の検討。GSRを利用した扁桃体の情動における役割・側方性の検討。
 
13.脳性麻痺の尖足患者に対する内視鏡支援選択的脊髄後根遮断術
選択的脊髄後根遮断術では、術者が神経根レベルを確認できないことがほとんどであり、どの神経根をどれだけ切除するかは術者の経験によるところが多い。我々は術中に神経内視鏡(軟性鏡)を用いることで、ある程度神経根レベルを確認しているが、短時間に神経根を確認する新たな内視鏡デバイスの作成により、手術に応用する事を目的とする。
 
14.脊髄神経鞘腫の発生神経根による術後合併症予測の研究
脊髄神経鞘腫はもっとも頻度の高い脊髄腫瘍であるが、腫瘍摘出による麻痺が10-15%程度と報告されている。これは腫瘍の前根起源、後根起源の違いやダンベル型腫瘍による神経節の腫瘍化に関係していると思われる。術前CISS MRIや術中神経根刺激によって神経根の温存が可能であるかを評価、検討する。
 
15.集束超音波およびガンマナイフによる非侵襲的脳内介入治療に関する研究
内科的治療では効果不十分な本体性振戦、ジストニアなどに対して、集束超音波およびガンマナイフを用いて経頭蓋非侵襲的に頭蓋内視床破壊術を行って、その病態や治療効果を検討することを目的とする。

スタッフ紹介

川俣貴一 教授・基幹分野長
林 基弘 教授
藍原康雄 准教授
天野耕作 講師
山口浩司 講師
齋藤太一 講師
石川達也 講師
堀場綾子 助教
江口盛一郎 助教
船津尭之 助教
都築俊介 助教
茂木陽介 助教
千葉謙太郎 助教
堀澤士朗 助教
郡山峻一 助教
清水 篤 助教
小田侑一 助教
岡 美栄子 助教
金 吉秀 助教
呂 聞東 助教


兼任スタッフ
赤川浩之 統合医科学研究所准教授
 

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