大学院・研究施設

高血圧学分野

概要

高血圧は脳心血管疾患発症の重大な危険因子であるのみならず、その罹患者数はわが国においては4,300万人と非常に多い。このため、高血圧治療の質の向上を目的とした高血圧研究が極めて重要である。そのため当分野では、
(1)高血圧の発症・進展機序に関する研究(高血圧の撲滅を目指して)
(2)高血圧の臓器障害発現機序に関する研究(臓器障害抑制を目指して)
(3)IoTを用いた新しい血圧評価法に関する研究(より質の高い血圧管理システム構築を目指して)
(4)高血圧に対する新規治療法の探索研究(より質の高い血圧低下療法の開発を目指して)
などを精力的に行っている。当分野の大学院の卒業生の中から、将来、ノーベル医学・生理学賞を受賞できる人材を育成することを目指している。

研究可能テーマ

(1)高血圧発症・進展機序に関する研究
 a. 高血圧および高血圧臓器障害の発症・進展における(プロ)レニン受容体・可溶性(プロ)レニン受容体の役割検討(森本准教授、市原教授)
 b. 妊娠高血圧の発症・進展における(プロ)レニン受容体・可溶性(プロ)レニン受容体の役割検討(森本准教授、市原教授)
 c. 頭側延髄腹外側への動脈性圧迫による高血圧の病態生理に関する検討(森本准教授)
 d. 高血圧の発症・進展におけるアルドステロン非依存性ミネラルコルチコイ受容体活性化の役割検討(森本准教授、市原教授)
 
(2)高血圧の臓器障害に関する研究
 a. 高血圧臓器障害の発症・進展におけるアルドステロン非依存性ミネラルコルチコイド受容体活性化の役割検討(森本准教授、市原教授)
 b. 原発性アルドステロン症関連遺伝子変異と臓器障害の関連検討(渡辺講師、森本准教授、市原教授)

(3)IoTを用いた新しい血圧評価法に関する研究
 a. 患者指導アプリを用いた高血圧患者管理システムの構築(森本准教授)
 b. カフレス血圧計を用いた血圧管理システムの構築(森本准教授)
 c. 医師不足地域における高血圧遠隔診療システムの構築(森本准教授)
 
(4)高血圧に対する治療法に関する研究
 a. (プロ)レニン受容体阻害薬の創薬研究(森本准教授、市原教授)
 b. 側延髄腹外側野への動脈性圧迫による高血圧の治療法に関する検討(森本准教授)
 c. 腎除神経術の有効性およびその機序に関する検討(森本准教授、市原教授)

スタッフ紹介

教授・基幹分野長 市原 淳弘  
准教授 森本 聡
講師 渡辺 大輔



 

研究紹介

1.(プロ)レニン受容体の役割とその発現調節機構に関する検討 [研究可能テーマ(1)a,b,(4)a]
(プロ)レニン受容体[(P)RR] はレニンの非活性型前駆体であるプロレニンを活性化し、組織レニンーアンジオテンシン系を調節する。また、細胞のpH環境の調節をつかさどるVacuolar H+ ATPase(V-ATPase)や細胞の増殖・分化・運動を制御するWntシグナルの発現に必須であることが判明し、極めて多機能で重要な蛋白として注目を浴びるようになった。当分野では、本態性高血圧、妊娠高血圧における(P)RRの病態生理的役割や発現調節機構に関する検討、および(P)RR機能阻害の意義解明、創薬に関する基礎的研究・臨床研究を行っている。

2.頭側延髄腹外側野への動脈性圧迫による高血圧の病態生理および治療法に関する検討 [研究可能テーマ(1)c,(4)b]
われわれは交感神経活動(SNA)の制御中枢である頭側延髄腹外側野(RVLM)への動脈による圧迫が、SNAの亢進を介して高血圧の原因となり得ること、および圧迫解除術によりSNAが抑制され高血圧が治癒する症例が存在することを報告してきた。これらよりRVLMへの動脈性圧迫による高血圧が新しい二次性高血圧の一つとして認識されるようになった[高血圧治療ガイドライン(JSH)2019]。現在、RVLM圧迫による高血圧の病態生理や同高血圧に対する有効な治療法に関する検討を行っている。

3.ミネラルコルチコイド受容体刺激を介する高血圧・臓器障害の発症・進展機序に関する検討 [研究可能テーマ(1)d,(2)a,b]
アルドステロン過剰のモデル病態である原発性アルドステロン症では、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の刺激亢進により、高血症、低カリウム血症に加え、心血管系の肥大、線維化を生じ、脳血管障害や心不全をもたらす。近年、アルドステロンは腎尿細管への作用に加え、心血管系非上皮性組織に作用することが示され、アルドステロンと臓器障害作用の関連が注目されるようになった。さらに、アルドステロン非依存性のMR活性化が高血圧や臓器障害をもたらすことが報告されている。当分野では、高血圧および高血圧臓器障害の発症・進展におけるアルドステロン非依存MR活性化の役割についての詳細な検討、および原発性アルドステロン症関連遺伝子変異と臓器障害の関連検討を行っている。

4.​IoTを用いた新しい血圧評価法に関する研究 [研究可能テーマ(3)a,b,c]
近年、高血圧患者指導用のアプリが開発され、臨床応用されるようになった。当分野では本アプリを用いた効率的な高血圧患者管理システムの構築を試みる。また、カフレス血圧計の開発が進み、時々刻々の血圧を測定し、管理することができるようになってきている。カフレス血圧計を活用し24時間にわたる適切な血圧管理を行うためのシステム作りを進める。さらに、医師不足地域に質の高い高血圧治療を供給すべく、高血圧遠隔診療システムを構築する。

5.​腎除神経術の有効性およびその機序に関する検討 [研究可能テーマ(4)c]
高血圧の成因や臓器障害の発症・進展にSNAの亢進が関与することが知られている。このため降圧治療においてはSNAの制御が極めて重要である。近年、カテーテルを用いた腎除神経術(renal denervation;RDN)が開発され、その降圧における有効性が報告されてきた。わが国でも近々施行が可能となる見込みであり、次世代の優れた新しい降圧治療法として期待されている。しかし、RDNによる降圧機序の詳細や、降圧以外の有効性(代謝や臓器障害に及ぼす影響など)については、まだ明らかにされていないのが現状である。そこで、われわれはRDNの有効性およびその機序についての基礎的研究・臨床研究を行う予定である。

医学研究科