慢性腎臓病の食事療法

ここでは、慢性腎臓病、特にステージ3~5における食事療法について説明します。 腎機能障害が進行してきた場合には、蛋白制限、塩分制限、カリウム制限などの食事療法を行うことにより、腎機能障害の進行を抑え、慢性腎臓病の合併症を予防します。

食事療法は、もとの疾患の種類、病状、腎機能によって異なります。間違った食事制限は、病状を悪化させることもありますので、内容に関しては、主治医に相談しながら行いましょう。 腎臓を守るためには、無理のない範囲で食事療法を継続することが一番大切です。


慢性腎臓病では、なぜ蛋白制限が必要なの?

食事蛋白は老廃物の一種である窒素代謝物を作ります。正常の腎機能であれば、それを処理するのに十分な糸球体があります。しかし腎機能が低下していると、残った糸球体1つ1つがその能力を超えて処理をしようとします(糸球体過剰濾過)。この状態は長くは続かず、徐々にそれぞれの糸球体の濾過機能も落ちてきてしまうと考えられています。その負担を軽減するために行われるのが食事蛋白の摂取制限です。


どのくらいの蛋白制限が必要なの?

日本腎臓学会のガイドラインでは、標準体重当たり0.6~0.7g/日が推奨されています。 例えば、標準体重が60kgの患者さんでは、36~42gの蛋白制限となります。一般的には80g程度の蛋白質を摂取しているので、カロリー摂取不足による栄養不良にならないように徐々に行っていくことが大切です。また、蛋白価の高い蛋白質を摂ることも大事です。


カロリーは増やしたほうがいいの?

蛋白制限を行うと、その分の摂取カロリーが減ります。カロリー不足になると、人間は筋肉から痩せていきます。筋肉は蛋白質であり、それが分解されるということは「自分の肉を食べている」(蛋白異化亢進)ことになり、むしろ窒素代謝物が増えて(BUNが増えます)、上述の糸球体過剰濾過に拍車をかけてしまうことになります。 そこで、蛋白質以外の栄養素である「糖質」と「脂質」でカロリーを補給します。

調理方法なども工夫(「腎臓病食品交換表」などを参照)し、また「カロリーアップ食品」(ゼリーやビスケットなど)も使うことも奨められます。

具体的な目標摂取カロリーは、標準体重(身長m×身長m×22)当たり30~35 kcal/日です。糖尿病、肥満がある場合はこれより低めの設定をします。


塩分制限は?

高血圧に対しては、早くから塩分制限を指導されていると思います。しかし、腎臓病では、それも含めて、人間の「体液量」の観点から「塩分制限」を行います。

人間の体の60%は電解質(塩分やカリウム)などを含んだ体液からできています。その体液量を調節しているのが塩分であり、その排泄を担っているのが腎臓です。したがって、腎機能が低下すると塩分の排泄機能が鈍り、塩分を摂りすぎると排泄できずに体に溜まります。

もともと塩分は水と一緒になるので、それが「体液(塩水)」として体に溜まり(体液過剰)、むくみ(浮腫)、高血圧をもたらし、さらに進めば、心不全、肺水腫にもなります。 具体的に、塩分は1日6g以下を目標にします。


カリウム制限は?

腎機能が低下すると、電解質の1つであるカリウムの排泄も減少し、「高カリウム血症」が認められます。したがって、カリウム制限が必要になります。血清カリウム値5.5mEq/L以下を目標に1日カリウム摂取量を1500mg以下に制限します。

なお、カリウムは細胞の中に存在し、水やお湯に溶けるので、野菜などは小さく切って「湯でこぼし」「流水にさらす」などを行い、カリウム成分を少しでも除くことができます。また、果物は缶詰から取り出した実はカリウムが少なくなっています。 カリウム含有量の多い主な食品を示します。

1. カリウムの多い食品
果物 バナナが最も多く、なつみかん、メロンなどが続きます。干し柿、100%ジュースも多く、注意が必要です。
野菜・いも いも類は全体的に多く、特に里芋が一番多く含みます。かぼちゃ、にら、水菜、なす、白菜、セロリ、キャベツも比較的多く、切干大根やかぶなども多く含みます。
肉・魚 すべて比較的多く含まれます。特にお刺身などは注意が必要です。
主食 麺(茹でたあとに湯きりをします)
海藻類など とろろ昆布、干しひじき、納豆
調味料 黒砂糖、だし
乳製品 牛乳
お菓子 スィートポテト、あんみつ
飲み物 トマトジュース、野菜ジュース、豆乳、日本茶(玉露)、黒ビール ペットボトルのお茶やスポーツドリンクはそれほど多くありません。

食事療法の適正な評価方法は?

食事療法を行っていても、それが適正なのかどうか迷う方も多いと思います。日々の体調や体重の変動をチェックし、月1回の検査結果を参考に修正していきます。特に蓄尿検査は有用な情報を与えてくれます。食事療法は今までの食生活を変更するので、最初からうまくいく人はほとんどいません。主治医や栄養師と相談しながら、修正していくことが大切です。

1.摂取蛋白量や摂取カロリーは適正か?

摂取蛋白量と摂取カロリーのバランスを適正にすることが目標です。 体重、血清尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cr)の比(BUN/Cr比)、蓄尿検査での摂取蛋白量、などがチェックポイントになります。

体重の変化がない
体重減少がなければ、摂取カロリーが正しいことを確認します。ただし、むくみがある場合は、それも加味して評価する必要があります。
BUN/Cr比が10倍未満
例えば、体重減少がなく、BUN 38 mg/dl, Cr 4.3 mg/dlであれば、摂取蛋白と摂取カロリーのバランスは取れていると考えます。逆にBUN/Cr>10であれば、摂取蛋白過剰あるいは摂取カロリー不足と考えます。
蓄尿検査での推定摂取蛋白量が適正
蓄尿の定量検査から推定摂取蛋白量を計算します。
2.塩分摂取量は適正か?

体液量が指標になります。
血清のNa濃度は、塩分摂取が多くても正常範囲のことが多く、指標にはなりません。

むくみや血圧上昇、急な体重増加がない
むくみや血圧の上昇は塩分の過剰摂取を示すサインです。
蓄尿検査での推定塩分摂取量が適正
蓄尿を行うと塩分排泄量から推定塩分摂取量を計算することができます。蓄尿を行うと塩分排泄量から推定塩分摂取量を計算することができます。

推定塩分摂取量(g)=尿中ナトリウム(U-Na)(mEq/日)÷17(g/mEq)

3.カリウム摂取量は適正か?

血清カリウム(K)値がチェックポイントになります。 慢性腎臓病では、K 5.5以上であれば、カリウムの摂取が多いと考えられます。

血清カリウム濃度が1mEq/Lの上昇は200~300mEq(15~23g)の体内カリウムが過剰であるといわれています。尿中へのカリウム排泄量は限られており、血清カリウム濃度を1mEq/L下げるためには、カリウム制限をしばらく継続することが必要になります。 例えば、血清K 6.0→5.5 mEq/Lに減少させたい場合は、約10gのカリウムを多く排泄する必要があります。1日の尿中カリウム排泄量を2000mgと推定し、摂取量を1500mgに制限した場合、1日0.5gしか減少させられないので、10g溜まっているとすると約20日間かかることになります。