降圧療法
高血圧
日本の高血圧人口は4000万人に及ぶとも言われ、生活習慣病の1つに位置づけられています。自覚症状はほとんど認められないものの、動脈硬化症を発症する原因となり、さらにそこから虚血性心疾患や脳卒中など種々の合併症の原因となります。
目標血圧は?
日本高血圧学会が提唱する目標血圧は若年、中高年で130/85mmHg未満、高齢者で140/90mmHg未満です。降圧薬は血圧を低下させる目的で用いられる治療薬ですが、この基準値は心筋梗塞や糖尿病などの基礎疾患の有無により異なります。
高血圧の治療目的は?
高血圧の最終的な治療目的は脳卒中や心不全などの二次的疾患を予防し、生命予後を改善することにあります。
降圧治療の基本は?
高血圧の発症には食生活や喫煙などの生活習慣が大きく関与することから、基本的にはこれらを改善することによる治療(非薬物療法)がまず試みられます。目標値が達成不可能である場合には薬物治療が導入されます。
主な降圧薬と注意点
1.アンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)
血圧はさまざまな要因により調節されていますが、最も大きな影響を与えるのがレニン‐アンジオテンシン(RA)系のホルモンです。その中でアンジオテンシンIIには強力に血圧を上昇させる作用があります。ARBはアンジオテンシン受容体を遮断することにより、血圧を下げます。
またアンジオテンシンⅡは、腎臓の糸球体の出口の血管(輸出細動脈)を狭くして、糸球体の中の圧力(糸球体内圧)を上昇させます。その結果、蛋白尿は増加し、糸球体過剰濾過を助長します。
ARBは、その作用も抑制するため、腎臓に対して保護的に働きます。ただ、糸球体濾過量は減るので、見かけ上、血清クレアチニン値が上昇することがあります。30%以上の上昇がなければ(Cr1.0だったのであれば、Cr1.3以上にならなければ)、飲み続けることによって腎保護作用が得られると考えられています。30%を超える場合は、両側の腎動脈狭窄の可能性があるため、減量または中止します。
2.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンIIに変換させる酵素です。
ACEIはこの酵素活性を阻害することにより、アンジオテンシンIIの産生を抑制し、血圧を下げます。ACEIもARBと同様に腎保護作用がありますので、一過性のクレアチニン上昇の危険もあります。
またACEIは心保護作用(心臓のリモデリング抑制作用、心筋梗塞の再発予防、心不全患者の予後改善効果など)も認められています。 ARBとの違いは、「空咳」「咽頭の違和感」などの副作用です。10%程度の患者さんに認められるので、症状がある場合には、主治医と相談してください。
3.カルシウム拮抗薬(CCB)
カルシウム拮抗薬は、血管の壁の細胞にあるカルシウム(Ca)イオン・チャネルを阻害する薬で、血管の筋肉の収縮を抑えて、血管を広げることにより、血圧が下がります。「動悸」や「ほてり」などの副作用がときに認められます。
4.利尿薬
循環血液量(体液量)が多い状態では血圧が高くなります。利尿薬は尿の中に塩分・水分を排泄させて体液量を減らし、その結果として血圧を下げます。ただし、脱水になると腎機能が悪化するため、その使用には注意が必要です。
5.その他
交感神経作動薬(α遮断薬、β遮断薬)、中枢神経作動薬、レニン直接阻害薬などが使用されることもあります。