慢性腎臓病の合併症

慢性腎臓病(CKD)とは、何らかの腎障害が3ヶ月以上持続する場合と定義されています。 症状が出現することはほとんどなく、蛋白尿や腎機能異常(eGFRの測定)により診断されます。

(1)尿濃縮力障害
(2)高窒素血症
(3)水・電解質異常(体液過剰、高カリウム血症)
(4)代謝性アシドーシス
(5)腎性貧血
(6)二次性副甲状腺機能亢進症

など、さまざまな合併症が出現します。
合併症の出現は、腎機能低下に伴って、徐々に出現してきますが、その時期については個々の患者でさまざまです。


1.尿濃縮力障害 ~夜トイレに起きますか?~

尿は薄くなったり、濃くなったりします。これは、体内の水分量(体液量)に応じて、腎臓が調節しているからです。

朝起きたときや運動などでたくさんの汗をかいた後は、体から余計な水分が失われないように、尿を濃くします。しかし、腎臓の働きが低下してくると、その力(尿濃縮力)の障害が認められるようになります。

具体的には、たくさんの尿が出る(多尿)、夜中に起きてトイレに行くようになる(夜間尿)、などの症状が出てきます。症状の出にくい慢性腎臓病にあっては、早期から出現する症状です。


2.高窒素血症(老廃物の増加) ~食欲はありますか?~

糸球体の濾過機能が低下するために、血液中の尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、尿酸などが上昇します。

蛋白質の摂り過ぎやエネルギー摂取不足になると、BUNがクレアチニンに比べて高くなり(BUN/Cr比の上昇)、さらに腎臓の糸球体に負担をかけてしまいます(糸球体過剰濾過)。 高度になると、さまざまな尿毒症の症状が出現しますが、通常、透析を必要とするようなCKDステージ5(末期腎不全)まで無症状です。

最も多く認められるのが、食欲不振や悪心などの消化器症状で、その出現はしばしば透析開始のサインになります。

尿毒症の症状
消化器症状:
尿毒症性口臭(アンモニア臭)、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、消化管出血、口内炎
中枢神経症状:
頭痛、意識障害、精神症状(幻覚)、振戦、痙攣→尿毒症性昏睡
末梢神経症状:
左右対称の知覚障害、restless leg、burning feet 症候群
血液異常による症状:
貧血(動悸・息切れ、倦怠感、易疲労感)、出血傾向
その他:
皮膚・粘膜への色素沈着、かゆみ、尿素結晶析出(uremic frost)、網膜症、網膜剥離、結膜への異所性石灰化(赤目症候群;red eye)、免疫不全による重症感染症・日和見感染症など

3.水・電解質異常(体液過剰、高カリウム血症) ~むくみはないですか?~

水分だけでなく、電解質と呼ばれる、ナトリウム(Na)やカリウム(K)なども、腎臓が適切に計算をして調節しています。

体の中に入った塩分(ナトリウム)やカリウムは、そのほとんどが腎臓から排泄されます。そのため腎臓の機能が低下すると、その排泄が十分にできなくなります。排泄できる量より多く摂取してしまうと、塩分は水分と一緒になって「体液過剰」になり、カリウムは濃度が上がる「高カリウム血症」になります。

「体液過剰」はむくみや高血圧などをもたらし、進行すると「うっ血性心不全」「肺水腫」になることもあります。

「高カリウム血症」は手や口のしびれや不整脈が出現し、高度になると心臓が止まってしまいます。両者ともに命にかかわる危険なものであり、それゆえ塩分制限やカリウム制限は非常に大切なのです。


4.代謝性アシドーシス

人間の体は、弱アルカリ性です。体は酸性の物質を多く作っていますが、肺は呼吸により炭酸ガスとして排泄し、腎臓は尿を酸性にすることにより排泄しています。したがって、腎臓の働きが低下すると、体は酸性に傾きます。ほぼ無症状ですが、血液中のカリウムを上昇させたりします。


5.腎性貧血 ~動悸・息切れはしませんか?~

貧血とは、血液中の赤血球の数が少なくなることです。赤血球は、骨の中にある骨髄で作られますが、何らかの原因で赤血球が少なくなると、腎臓から造血ホルモン(エリスロポエチン)が出てきて、骨髄での赤血球の産生を増やすように働きかけ、貧血にならないようにします。

しかし、腎臓の機能が低下すると、貧血があってもエリスロポエチンを作ることができず、貧血が徐々に進行します。これを「腎性貧血」といいます。

主な症状は、労作時に感じる動悸や息切れです。特に、階段を上るときに感じることが多く、倦怠感を自覚することもあります。一般に良く使われる「貧血を起こして倒れた」などという表現で使われる「貧血」は「失神発作」や「起立性低血圧」のことが多いようです。


6.二次性副甲状腺機能亢進症 (腎性骨症)

体の中に必要なカルシウムは、腸管から吸収されます。そのとき、肝臓と腎臓で力をつけてもらった(活性化された)ビタミンDの力が必要です。

しかし、腎臓の機能が低下すると、ビタミンDの活性化ができなくなり、カルシウムの吸収が不足し、血液中のカルシウム濃度が低下します。

血中のカルシウム濃度を正常化するために、副甲状腺の働きが亢進し、副甲状腺ホルモン(PTH)が多く出てきて、骨からカルシウムを吸収します。また、腎臓からのリンの排泄が少なくなるために、高リン血症を認めますが、これも副甲状腺機能を亢進させます。

その結果、カルシウムとリンのバランスが崩れ、骨が弱くなってしまいます。


検査所見は?

  1. 血液検査では、BUN、クレアチニン、尿酸が高値になります。
  2. 血清カリウム(K)は高値(>5mEq/L)を示すことが多いですが、血清ナトリウム(Na)はほとんど正常です(濃度は正常ですが、体の中のNaは増えていることが多い)。
  3. 代謝性アシドーシスのため、血中重炭酸イオン(HCO3)は低下します(<20mEq/L)。
  4. 貧血(赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)の低下) を認めます。
  5. 副甲状腺ホルモン値(インタクトPTH)が高値を示します。血清リンは高値(>5mg/dl)を示すことが多いですが、血清カルシウム値は多くの場合代償されて正常です。

治療は?

  1. 尿濃縮力障害については、十分な水分補給が必要です。「尿が出たら、水分をとる」ような感覚です。
  2. 蛋白制限だけでなく、適切なエネルギー摂取も大切です。→食事療法
  3. 塩分もカリウムも摂取制限が必要です。→食事療法
  4. 代謝性アシドーシスに対しては、炭酸水素ナトリウム(重曹)で補正します。
  5. 腎性貧血に対しては、1ヶ月に1回程度のエリスロポエチンの皮下注射(静脈注射)を行います。治療中に鉄分が不足してきた場合には、鉄剤を服用します。
  6. 副甲状腺機能亢進症に対しては、活性化ビタミンD3製剤を服用し、高リン血症に対しては、食事中のリンを吸着するリン吸着薬(炭酸カルシウム)を服用します。