研修体験報告

コンピタンシー評価小論文

自分自身の研修を振り返って、何ができたか、何を学んだか、将来どんな医師になりたいか

初期臨床研修医 第16期生

 私の医師人生は、それまでの人生で1番の悲しみとともに始まった。私は、幼い頃に自分の顔を縫ってくれた形成外科医に憧れて医師を志した。あまり素養が良くなかったため回り道をしたが、祖母をはじめとする家族に応援され、何とか医師国家試験に合格することができた。

 そんな長らく憧れた医師として研修を始める直前、4月5日に急性心筋梗塞で祖母が亡くなった。つい5日前に毎年恒例のお花見へ一緒に行き、翌日から始まる新生活への希望で浮かれていた私は、祖母が時折苦しそうに胸を押さえている様子を見ても正確な評価をせず、すぐに良くなるだろうと信じ込んでいた。最後に祖母から貰った言葉は「貴方がお医者さんになったから、具合が悪かったらすぐ病院に行くから大丈夫よ。明日から頑張ってね。」と私を励ます言葉だった。

  次に目にした祖母は、沢山の管とモニターに囲まれていた。担当医の説明は厳しい現実を語っており、つい数日前まで学生だった私でも祖母の命が数日も持たないことは直ぐに分かった。しかし、回復を望む家族には「時間はかかるけど家に帰れるよ。」と嘘をついてしまった。その翌日、祖母は帰らない人になった。それからの私は、医師であるのに祖母の病気に気付くことができなかった後悔と、家族に嘘をついてしまった罪悪感を抱えて研修を始めた。悲しみに浸っていた私は、日々の業務を経験するほど自分の無知さと経験のなさ、そして医学の深さを思い知らされ、更に落ち込んだ。指導医をはじめとする先生方は、そんな私に一から丁寧に仕事と知識を教えて下さったが、ある先生の「患者と共に悲しみに浸って泣くのではなく、患者を助けるために臨床・研究を続けるのが、医師の責務。」という言葉がとても印象的で、自分もそんな医師になりたいと憧れた。

  その後の研修では、自分の担当患者とそのご家族に、自分のような悲しい思いをして欲しくなくて、がむしゃらに知識と技術の勉強を続けた。正直、亡くなった患者さんを前にして涙が止まらなくなることも、残された命の時間をご家族とゆっくり過ごす時間のある患者さんの姿を見て羨ましく感じることもあり、自分は医師に向いていないのでないかと葛藤することが何度もあった。そんな私に「良い先生に巡り合えてよかった。」と声を掛けてくださる患者さん、「寄り添ってくれてありがとう。」と感謝の言葉を下さるご家族の方もいて、私の心を癒してくれた。医師という仕事は、与えるよりも与えられることの方が多いのだと気付かされた。

  私は、この1年半で何かができるようになったと、自信を持って言えることは何もないかもしれない。しかし、祖母のことを思い出して、苦しく感じながらも医師という仕事に向き合った日々を経て、今までより優しさを持てるようになったと思う。

 素晴らしい先生方との出逢いと学問的興味に惹かれ、私は初志貫徹して形成外科医になることを決めた。いつか祖母の墓前であの日憧れた一人前の医師になれたと胸を張って言える日が来るように、これからも精進していきたい。

初期臨床研修医 第16期生

 医師として働き初めた昨年の4月を振り返ってみると、正直大変で、辛く、仕事に行きたくないと思う日も多くありました。

  まず、長かった学生生活から抜け出して社会人となり、「毎日働く」ということに慣れるのに必死でした。白衣は一丁前に羽織るものの、まだ学生気分が抜けきらず、始めの頃は先生方や病院職員の方にご迷惑をおかけした部分も多々あったかと思います。医師国家試験に合格することを1つのゴールとして、特に医学部6年生の時は机上の勉強ばかりしていた私ですが、学生時代に勉強して蓄えてきた知識は、体感的にはほんの2割ほどしか仕事の役に立っていないような気さえしました。それよりも重要なのは、社会人として当たり前である挨拶、メディカルスタッフの方との密接なコミュニケーション、指導医をはじめとする上の先生方への要点をついた報告だということに気づきました。オーダーや、入院患者の管理といったカルテ業務、点滴の確保や採血といった手技に慣れるということに専念していると、あっという間に研修医1年目の半分以上が過ぎてしまっていたように思います。

  少し仕事に慣れ始め周囲を見る余裕が出てからは、医師として患者さんと向き合う、寄り添うことの難しさに直面しました。患者さんと向き合って診療するということは、教科書に載っている通りに、1つの疾患に対応した治療をするというように一筋縄ではいきません。患者さんが百人いれば、百通りの人生があり、バックグラウンド・信仰・死生観等も異なります。それを考慮した上で、インフォームドコンセントを繰り返しながら、個々のニーズに沿った治療方針を決定して医療を施していく、これがいかに難しいかを身を以て体感しました。医療が発達した現代において、患者さんには様々な選択肢が与えられています。患者さんにとって、どの治療法や選択肢がより良いものであるのかを考え・選択するということは、私のこれからの医師人生の上での大きなテーマとなりました。また、患者さんに寄り添った医療をするためには、患者さんの立場に立って考えることが必要です。私は患者さん自身ではないため、痛みも苦しみも絶望など全てを理解することはできません。患者さんの本心を知ることもできません。救急外来等、日々の診療業務が忙殺されるような診療科では、どうしてもそのことを忘れて、患者さんの気持ちや立場を慮ることを蔑ろにしてしまうこともありました。改めて、患者さんの痛みや苦しみを分からないなりに考えて、真心や誠意を持って、いつでも患者さんの心に寄り添う医療を忘れずに心がけたいと思います。

 これまでの研修生活において、熱心に指導してくださった上級医の先生や親身になって協力して下さったメディカルスタッフの方達、関わって下さった病院関係者の方には感謝の気持ちでいっぱいです。これからも自分が理想とする医師像に近づけるよう、精進して参りたいと思います。

初期臨床研修医 第16期生

 初期研修の2年間で、初期研修医として身に付けるべき基本的な知識や手技は習得できたと思う。その他には、患者さんや多職種とのコミュニケーションの大切さ、患者さんと向き合う姿勢を学ぶことができた。

  医師となって実際の臨床の現場で働くようになり、コミュニケーションの大切さに気が付いた。処方や指示などは医師が決定するが、カルテ上でオーダーして終わりではなく、それを患者さんに伝えて、実際に配薬やケアを行う看護師にもその旨を伝えなくてはならない。当たり前のことではあるが、日々の業務に追われているとその当たり前のことを疎かにしてしまったことがあった。実際にあった病棟で経験した出来事であるが、処方の変更を看護師に伝え忘れ、看護師が変更前のものを配薬しそうになったことがある。幸い、配薬前に気づいてアクシデントとはならなかったが、アクシデントに十分繋がる可能性があり、事の重大性を身に染みて感じた。コミュニケーション不足はインシデントやアクシデントに繋がりかねないので、今後も気をつけていかなければならない課題である。

  次に、患者さんと向き合う姿勢について学んだことを述べる。私が尊敬する上級医は、時間があるときはベッドサイドに行くように心がけ、積極的に患者さんと対話し、患者さんからの信頼を得ていた。様々な診療科での研修を振り返ると、患者さんと話す時間に比べ、モニターでバイタルの把握や血液検査・画像検査などのデータを見る時間のほうが明らかに長いということを感じた。しかし、実際にベッドサイドへ行って診察を通して患者さんの状態を把握すること、患者さんと会話することでしか得られない情報は非常に多く、それは治療方針を左右するカギとなる。限られた時間の中で患者さんとの信頼関係を築き、傾聴を通して必要な情報を聞き出すことが非常に重要であると学んだ。

 将来は、自身の技術の鍛錬に集中するだけでなく、患者さんやその家族、メディカルスタッフと信頼関係を築いて、患者さんの意思を尊重したより良い治療を提供できる医師になりたい。

初期臨床研修医 第16期生

 2年間の初期研修を振り返ると数多くのことを学んだが、その中でも特に印象的だったのは地域医療研修である。私は、地域医療研修で済生会栗橋病院の呼吸器内科をローテートしたが、そこでの研修は2年間の中でも、医療知識や手技はもちろんのこと、何よりも患者さんへの接し方を学ぶことができた。

  栗橋病院では1人の医師に対して患者数が多く、研修医である私が医療に主体的に参加する機会が多かった。輸液や栄養、検査予定などICや大筋の治療方針以外に関しては、上級医への相談のもとにかなり自由に方針を立てることができた。しかし、自由に診療に参加する中で、医療的にその治療や検査などのオーダーが間違っていないかはもちろんであるが、その患者さんにとってそのオーダーが本当に必要であるのかを考える必要があることに気づいた。呼吸器内科では担癌患者が多く、中にはベストサポーティブケア(BSC)の方針になっている末期癌患者も多く入院していた。その中で、どこまで積極的に検査をして治療をしていくか、どうやって苦痛となっている症状を取り除いていくかということを考えなければならなかった。大学病院ではもちろん緩和的な治療方針である患者さんもいるが、多くは積極的に治療をするために入院している患者さんが多い。そのため、それまではあまり積極的治療をせず、対症療法を行う場合について、あまり考えたことがなかった。緩和的な治療を行う場合、採血データや画像所見なども大切ではあるが、何より患者さん本人の主訴と患者さん家族の社会的な状況が重要だと感じた。患者さん本人の希望や家族が介護などに、どの程度介入できるかなどを踏まえ、データから必要と考えられる検査や治療を全て行うのではなく、その患者さんにとってのゴールを設定し、薬剤は環境の調整を行っていくことが必要であった。今まで、患者さんの所見から最大限必要な検査や治療を行っていた大学病院と異なり、患者さんの社会環境も踏まえた治療を考えていかなければならないことに気づき、今までは患者さんを「患者」としてしか見ていなかったことに気がついた。いかに接すれば、患者さんや家族の希望を知ることができるのか試行錯誤して、患者さんやその家族への接し方について学ぶことができた。

  初期研修修了後は、大学病院のような急性期病院だけでなく、慢性期病院や療養病院で勤務することもあるため、患者さんの背景をふまえた治療方針の決定について研修できたことは大変有意義であった。医療知識や手技についても本研修では大いに学ぶことができたが、それよりも患者さんへの接し方や社会調整の重要性などを学ぶことができたことが、この研修で得られた財産であると感じた。この経験を生かして、後期研修以降も患者さんに寄り添った医療を行うことができる医師になりたいと感じた。

初期臨床研修医 第16期生

 初期研修を開始して2年が経とうとしているが、研修を開始したばかりの頃には、基礎的な医学知識すら欠落している状態で、患者さんのことを一人一人把握するだけで精一杯だった。上級医の先生方は、そんな私に多数の症例を通して一つ一つの知識と臨床像を照らし合わせながら指導していただき、経験を重ねることができた。

  この初期研修では、様々な疾患を主治医・チームとして経験することができた。大学病院ならではの先天的な疾患、難病指定の疾患、今まで健康であった健常な方が様々な疾患を抱える状況、合併症を多く持つ高齢者が年齢経過とともに慢性疾患が進行していく状況など、医学的な経験を積むだけでなく、そのような人達の社会的背景、医師に求めているもの等、各々複雑に絡み合っていることも多い中、他には代えられない経験をすることができたと思っている。女子医大の先生方は患者さんの病気だけでなく、その後の人生まで責任をもって診療にあたっていると感じることが多く、学ばせていただいた部分の一つである。

  特に意識して頑張ってきたことは、もちろん適切な医療を提供することである。エビデンスの豊富な治療を提供できるよう、勉強を重ねていくこともあったが、何より、患者さんのお話をよく聞き、何を求めているのか、何がベストな選択なのか、それを患者さんと一緒に考えて、上級医と共に意思決定できることを目標にした。まだまだ理解の乏しい部分ではあるが、今も大事に実践できていることだと思っている。

  また、日々の業務に追われていると、患者さんの身体的、精神的な痛みを理解しようとしなくなる瞬間が訪れることがある。認知症だから、寝たきりだから、もう不可逆的な状態だからとか、そういった理屈で患者さんの痛みを理解するプロセスを医師として、止めてはいけない。今後も医師としての生活は続いていく。医学知識や能力を高めることは、最低限努力し続けなければいけないことで、必ず身に着けていく気概である。そして、前述した患者さんの痛みを理解できる医師となって、初期研修で大事にしてきた患者さんの訴え、話をよく聞き、患者さんと共に、患者さんにとって適した医療を共に選んで提供できるような医師になりたい。

初期臨床研修医 第16期生

2年間の東京女子医科大学病院での研修はとても充実した研修生活でした。
研修でお世話になりました全ての診療科に感謝しています。ありがとうございました。どの診療科にも感謝の気持ちを述べたいところですが、今回は特に印象に残っている診療科について書かせていただきたいと思います。

  まずは、1年目の4月~6月まで研修させていただきました、総合診療科です。K先生、S先生にお世話になりながら、医師としての基礎である内科疾患を総合的に診療する経験を持つことができました。また、基本的な業務の進め方や、採血の方法などの基本的な手技も教えていただきました。3か月間のじっくりとした研修で先生方からも丁寧にご指導いただき、女子医大で働く上での土台の期間となりました。本当にありがとうございました。

  次に、10月~12月と2年目の7月~8月の計5か月間研修させていただいた脳神経外科です。脳神経外科では病棟での対応、ICUでの対応、脳梗塞の患者さんの緊急カテーテルや、脳動脈撮影のカテーテル検査、髄液検査や手術の手技、また論文の査読や執筆にも携わらせていただき、1番研修期間が充実した診療科でした。同期や後輩の話を聞くと、他の外科での研修は補助が多く、その期間の意義を感じる人が多いという話を聞きました。自分の進む診療科がそう思われないよう、自分が先輩になったときの反面教師にしたいと思いました。脳神経外科で外科研修を行うことができた自分はとても恵まれていたと思います。これもひとえに脳神経外科の先生方が研修医の医師としての成長を考えて、教育面までしっかりと配慮している素晴らしい診療科だからだと思いました。大変お世話になりました。先生方の教育方法を間近で学べて大変勉強になりました。

  地域医療研修では、新宿石川クリニックにお世話になりました。透析に関してはあまり馴染みがなかったのですが、この期間でデータ値や患者さんの様子などを経時的に判断し、DWを調整するタイミングや、内服の薬を調整していくといった内科的な判断の仕方を学ばせていただきました。

 そのほか血液内科、麻酔科、産婦人科、小児科、循環器内科、神経精神科、そして研修中の画像診断・核医学科、これから研修予定のリハビリテーション科、脳神経内科、整形外科等でも充実した研修ができるように頑張りたいと思います。 総じて大変学びの多い研修でした。女子医大で研修をすることができて良かったです。ありがとうございました。

初期臨床研修医 第16期生

 この2年間の初期研修の中で一番学んだのは、医師だけで病院は回らないということだ。研修を行うまでは、おこがましいながらも医師が病院を回していると思っていた。しかし、看護師さんが毎日担当患者さんの vital や測定、異変などを知らせてくれるおかげで、細かな変化から急変まで気づくことができた。また、OT·ST の方々がいるおかげで、患者さんのADL改善のためのリハビリなど、学生時代に学ぶことができなかった知識を得ることができた。透析などでも技師さんが欠けると行うことができないし、医師だけでは医療自体を回すことができないという現実を知ることができた。

  病院という多くの職種の方が働く特殊な環境で一番大切なことは、コミュニケーションだと考えられる。看護師さんやレジデントなどが相談しやすい上級医であれば、細かな患者さんの変化を報告しやすく、インシデントを防ぐことができる。私自身、完壁にできたとは思わないが、他職種の方とできるだけコミュニケーションをとって、相談されやすいような医師になるように心がけた。例えば、基本的なことだが挨拶をしたり、何か分からないことや興味があることがあれば、積極的に他職種の方に話しかけたりした。おかげで、何回かインシデントになりそうなことを回避できた。

 その中で私がなりたい将来の医師像は、患者さん・他職種の方に尊敬される医師である。尊敬=技術・知識的に卓越している、ということが最初に考えられる。それも大切だとは考えるが、私が尊敬しているT先生は多くの患者さんから尊敬され、看護師さんや他職種の方からも相談を多く受けている。そのおかげで病棟内の問題の共有や、インシデントをヒヤリ・ハットで押さえることができている。この研修期間で、他職種の方とコミュニケーションはできたと考えるが、今後は患者さん他職種の方に尊敬されるような医師を目指していきたい。そのためにも、技術的·知識的にも精進し、コミュニケーションスキルに長けた医師を目指していきたい。

初期臨床研修医 第16期生

 研修医になって1番強く感じた事は、私達には患者さんに誠意と責任をもって接する義務があるということです。
初期研修医として働き始めた頃は、慣れない業務に苦戦して勤務時間のほとんどをパソコンの前で過ごし、患者さん本人と向き合うことがなかなか出来ていませんでした。しかし、ある医師と出会ってからは、患者さんに会う事が1番大切で、それこそが医師の仕事の主であると考えるようになりました。その医師は、業務の多い中でも毎日必ず1人1人の患者さんと長めの会話の機会を設けており、患者さんの病気とは関係がなさそうな訴えに対しても何か対処はできないかと真摯に考えていました。また、病状の説明や治療方針に関してのICなどもひときわ丁寧でした。そのせいか、その医師に対しては患者さんが言いたいことを遠慮せず、何でも話しているように感じました。
病院で働いていると、同じ疾患を何度も持たせて頂く機会があります。私たちにとっては何回も見る病気ですが、患者さんにとっては初めて自分に起きた病気です。無意識のうちに説明を省いてしまっていたり、分かっているものと思い込んでしまったりすることもありますが、患者さんが医師を信頼して病院に来ている以上、誠意と責任をもって行動しなければなりません。

 今年は新型コロナウイルスの流行により女子医大の経営悪化がニュースで取り沙汰され、他の病院で研修をしている同期から「入局を迷っているのだけど、実際にどうなのか? 」と尋ねられることが多々ありました。実際、このニュースにより女子医大への入局を考え直した医師もたくさんいたと思います。ただ、実際に2年間研修を行って感じたのは、この病院には誠意と責任をもって患者さんに接する先輩医師がたくさんいるということです。私が後期研修も当院で研修をしようと思った理由は、そういった先生方のもとで勉強したいと思ったからです。これから先、私も誠意と責任をもって患者さんに接することのできる医師となり、この病院の医療の質を上げることに力を添えられたらと思います。