コンピタンシー評価小論文
自分自身の研修を振り返って、何ができたか、何を学んだか、将来どんな医師になりたいか
初期臨床研修医 第14期生
私にとって初期研修の2年間は、日々自分の無力さとの戦いであった。
医師国家試験に晴れて合格し、たくさんの患者と向き合い救うことが出来るのだと驕った自分を情けなく思う程に、自分一人で出来ることは限られており、自身の知識不足や実力不足を痛感させられる日々であった。患者さんやご家族に検査結果を説明するためには、それぞれの検査を施行する意義を理解し、そしてその異常値となっている原因や背景を解明する必要があり、まずは自分自身の知識の引き出しを増やすことが重要であると再確認した。
どれだけ学んでも100%の知識量とは言えず、もどかしさを感じる日々であったが、私が理解するまで常に優しく指導し、学ぶことの喜び・楽しさを教えてくださる先生方に囲まれて2年間の研修を行うことができた。そんな折、ひとりの患者さんが「先生は、私が疑問に思ったことや分からなかったことを、理解できるまで時間をかけて、簡単な言葉で説明してくださるから、治療を受けることが怖くなくなった。先生が私を受け持ってくれて嬉しい、ありがとう。」と言ってくださった。その言葉に救われ、どんなに日々の業務で疲れていようとも、必ず患者さんとのコミュニケーションを大事にしようと再度決意を固めることができた。
私達は、患者さんの“病”だけと向き合うのではなく、一人ひとり違う人生を歩んできた患者さんと向き合うことが必要とされている。どれだけ一生懸命働いても業務は多く忙殺される日々の中で、つい患者さん自身と向き合うことを忘れ、疾患にばかり目が行きがちになるが、誠意をもって仕事を行うということは、すなわち常に一人ひとりと向き合うことであると学びを得た。毎日患者さん一人ひとりのためにできることを考えて力の限りを尽くしていても、救えない命は確かにあり、医療の限界を思い知るばかりであった。また、自分自身の無力さに悔しくて涙した日もあったが、この2年間で感じた自分の無力さを忘れることなく、少しでも多くの知識・技術を身に付けるべく経験を積み重ね、驕ることなく、疾患ではなく人の命と向き合う仕事であることを常に忘れずに、学び続ける気概で今後の医師生活を歩みたい。
出来が良いわけでもない、右も左も分からないような私を見放すことなく指導してくださった先生方、スタッフの方々、また経験も浅く頼りない私に診療を行わせてくださった患者さんへ感謝したいと思う。
初期臨床研修医 第14期生
2年間の初期臨床研修は、今までの人生で経験したこともないような様々なことに遭遇し、新鮮で興味深い日々でした。
研修が始まったころは、カルテの使い方はおろか、患者さんへの接し方もぎこちなく、採血結果の説明をすることさえ緊張していました。血液検査ひとつでも、医師という立場から重要視する項目と、患者さんが気にとめる項目は違っており、担当患者さんからは思いもよらない質問をされることもありました。医学部で6年間勉強しただけでは補えないような知識がたくさんあり、医師として患者さんに納得してもらえるように説明するためには、そのような細かい知識も必要なのだということを強く認識しました。
医学的なことは国家試験を受ける際にある程度は勉強し、また、診療に必要な知識は日々勉強して知識を得ていくことはできますが、患者さんが気にすることは病状のことだけでなく、「退院したらどのように日常生活を送り、どのようなことに気を付ければ良いのかや、何を食べていいのか、何を食べてはいけないのか」ということが多く、改めて、医学的知識をつけるだけでは医師の役割は務まらないのだということを学びました。
さらに、研修医になって社会に出ることで、今まで出会ったことのないような様々な境遇の方と関わるようになりました。社会的な問題を抱えた方も多く、社会支援部の方を含め他職種での連携の必要性を感じました。また、人生観は人それぞれであり、家族内でも異なった考え方の人ももちろんいるということも学びました。特に終末期では患者さん本人や、ご家族の思い、また医療職の思いや感じ方といった様々な感情が交錯することもありました。それを言葉として表現するのは難しいのですが、現場に出て実際に肌で感じた、なんとも形容しがたい、やりきれないような感覚でした。色々な思いが交錯する中、医学的な判断をしながらも、患者さんやそのご家族にできるかぎり寄り添うことの大切さを学びました。
学生時代に良く耳にした、『病を診るのではなく、患者を診る』ということは、治療だけではなく、『目の前の患者さんの人生』を考えることであり、これからこの患者さんがどのように生き、日常生活を送っていくのか、どのような人間関係の中で今まで生きてきて、どのように人生を終わらせたいと考えているのか、また、家族や周りの人がその患者さんのことをどう思っているのかなどを良く観察し、考え、支えていくことなのではないかと、この2年間の研修で理解し、解釈しました。
来年からは消化器内科の内科専攻医として勤務します。将来は、患者さんの人生に寄り添えるような医師になりたいと思っています。
初期臨床研修医 第14期生
以下の文章は、正面から自分と向き合い、真剣に書いたものである。
自分に何ができたのか2年間の研修を振り返って考えてみたが、何もできなかったという感想が正直なところである。最初は、採血を行うことさえ人体に侵襲を加えることに強い恐怖心を抱いていた。基本的手技、鑑別診断、疾患や病態に対する知識と理解は、徐々に深めていったつもりであるが、上級医のfeedbackをもらう度に、まだまだだと思い知らされるばかりであった。
自分の知識・技術の無さ、人格の未熟さ、仕事に対する姿勢と責任感とモラルの大切さなど、学んだことはたくさんある。しかし、2年間の初期研修で私にとって最も大きな出来事はお看取りであった。呼吸器内科を研修した時、ある肺癌末期の患者さんを担当した。その患者さんの呼吸回数が徐々に減少し、意識もなくなりつつあるときに、奥さんが患者さんに「もっと呼吸してよ、ちゃんと返事してよ、嫌だよ。」と、泣きながら訴えていたのを今でも鮮明に覚えている。お看取りは、医師として、また人として、どのように生き、どのように死ぬのかという死生観について考えるきっかけを与えてくれた。医学的知識や技術、社会人としての態度や責任感だけでなく、自分なりの人生哲学を構築することも大切だと考えさせられた。
私は将来、医学的な知識や技能に長けると共に、人間的魅力のある医師になりたいと思う。具体的には、症例を経験する中で、プロ意識と向上心を持って積極的に学び、知識と理解を深めて技能を高める。学ぶ時は素直であることが大切である。そして、幅広い興味関心を持って教養を深め、先を読み、目的を明確にしてplanningし、多角的な視点で人や物事を捉え、優先順位をつけて真摯に仕事をし、謙虚かつ誠実な態度で笑顔を心がけ、安心感のある穏やかな雰囲気を醸し出し、すべての人や物事に感謝と敬意の気持ちを持ち、いかなる時も相手の気持ちを尊重し、話を傾聴して理解に徹し、相手の立場に立って思いやり、多様性を受け入れて寛大な心を持ち、人のために動こうとするgive&giveの精神を持ち、伝えたいことは適切に伝え、間違った時は心から謝り、刺激と反応に間があることを自覚し、衝動を抑えて感情をコントロールし、紳士かつ冷静に対応し、善悪の区別をつけ、価値観に基づいて主体的に選択し、自分の選択に責任を持つ。これが私の考える魅力であり、美学である。言葉、声の大きさやトーン、表情、しぐさ、態度、行動、一つひとつに人となりは現れる。なりたい自分になるために上記を有言実行し、人格を磨き、自己を成長させる。そして、良好な信頼関係を築いて、他の人の人生に意味のある貢献をしていきたい。
ずっと自問し続けてきた。「俺は、どんな人になりたいのか?どんな人に魅力を感じるのか?」この問いに自分なりの答えを出したことは、今後の人生において盤石な基盤となるだろう。
生き方の軸が定まった。もうブレない。医師という職業が天職と感じられるように、実りある人生を歩んでいきたい。
初期臨床研修医 第14期生
研修を振り返って学んだ事は、大きくわけて三つある。
一つは、相手の立場に立って考え、適切に伝えることの重要性を学んだ。研修を始めたばかりの頃は、自分のことだけで精一杯で、自分の発言が患者さんにどのような印象を与えるかを考えている余裕がなかった。例えば、ルートを確保する際、失敗する可能性があることを伝える場面で「だめかもしれないけれど、3回失敗したらすぐに別の医師に変わります。」と言ってしまったことがあった。この発言は、患者さんからすると、自信がない医者に針を刺される恐怖・不安を抱かせる発言であったと反省した。それからは自信がなかったとしても、「点滴のお管がなかなかとれなかったら別の血管を探させていただくことがあるかもしれませんが、まずは一番良いと思う血管を探させていただきますね。」など、言い方を工夫して、誠実に向き合って最善を尽くす態度を相手に示すように心掛けるようになった。その他にもバッドニュースの告知や検査の同意を得る時など、できるだけ多くの場面に立ち合って、様々な指導医の伝え方を観察し、事実を曲げることなく、受け入れやすい形で伝える技術を習得するように努めた。その経験を踏まえて、たとえ結果が変えられなかったとしても、伝え方や態度に配慮できる医師になりたいと感じた。
二つ目に、調べることを怠らない事が重要であることを学んだ。患者さんの病歴や生活歴、また疾患についての標準的治療、治療効果判定の方法、治療変更の時期など、調べることは山のようにあるが、優先順位をつけて、できるだけ多くの情報を調べ、他の医師やメディカルスタッフと情報を共有し、根拠をもって治療を行うために努力したことが、私の研修の大半を占めていたと感じる。責任をもって患者さんと向き合う上で大切なことは、患者さんを知ろうと努力し、診断や治療法について知識を取り入れながら考えることだと考える。今後も、その努力を怠らない医師でありたいと感じた。
三つ目に、発信することの大切さを学んだ。大学病院ならではの先進的な治療や稀少な疾患に出会う機会が多く、症例報告を行う事やデータを蓄積することが医学の進歩に繋がることを経験することができた。特に印象に残ったのは、胸腺腫の既往があり、悪性黒色腫に対してオプジーボを投与した患者さんであった。オプジーボは新薬であったが、その患者さんは、報告例の少なかった重症筋無力症を発症し、一時はICUで挿管管理が必要となる重篤な状態となった。重篤な副作用を経験したことを無駄にせず、症例報告を発信していくことで、次にその薬を使用する患者さんに活かせるかもしれないと感じ、発信することの重要性を身をもって感じることができた。この経験を通じて、貴重な経験をした際は、自ら情報を発信していける医師になりたいと思った。初期臨床研修医 第14期生
初期研修医として東京女子医科大学病院で働き始めて、早くも1年半が経過しました。初期研修医としての生活の中で、元気に退院していくたくさんの患者さんをみてきましたが、その一方で命を終える瞬間に立ち会うことも何度もありました。
2年間の初期研修の中で最も印象に残っている出来事は、膵腎同時移植のための臓器を受け取りに九州の大学病院に赴いたことです。ドナーは小脳出血となり脳死と判定された、まだ若い20代の女性でした。手術室に入り、まだ体動や心拍の残るドナーに黙祷を捧げた時は、本当にこのままドナーとして臓器を取り出すことが果たして正解なのだろうかと複雑な心境になった事が今でも思い出されます。ドナーの体から、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓と順に臓器が取り出されていき、最後はきれいに閉創され手術は終了しました。手術終了後、ドナーのご家族と面会した際に述べていた、「娘の臓器が誰かの役にたてて嬉しいです。」という言葉は忘れられません。ドナーの父親が医師であったため、なおさらその言葉に重さを感じたのかもしれません。その時のレシピエントは、今では元気に生活されています。脳死移植は、ある意味究極の医療なのかもしれないと感じ、医療や生命について深く考えさせられた経験でした。
東京女子医科大学病院にはたくさんの医師・患者がおり、2年間で様々な経験ができました。その中で私が一番感じたのは、医師にとっては初歩的でよく行っている処置であっても、患者にとっては特別なことだということです。例えば眼科の白内障手術は、眼科医にとっては1日に何件も行うこともあり、最も初歩的な手術であると感じているかもしれません。しかし、患者にとっては一生に1度、もしくは2度の大きな出来事であり、不安もかなり大きいということを改めて感じました。
初期研修2年間での経験を生かし、患者にとって身体面だけでなく、精神面のケアも出来るような医師になるため、今後の医師生活の研鑽を積んでいく必要があると感じました。初期臨床研修医 第14期生
1年半の初期研修を振り返って、学んだことは大きく分けると瞬発力・思考力・全人的医療の実践の3つである。
ICUやCCUといった集中治療現場では、目の前の命を救うための瞬発力の大切さを学んだ。一方、緊急性が和らぐ場面では、主訴に対して漠然と治療にあたるのではなく、思考力を活かして鑑別を挙げた上で、根本的な主訴の原因を取り除くことの大切さを学習した。3つ目に挙げた全人的医療に関して今回最も重きを置きたく、以下に具体例を挙げたいと思う。
医療現場での様々な出会いの中で、特に印象に残っている一人の患者さんについてここで述べる。その方は、手術可能とされていた悪性腫瘍が2週間足らずで急速に増大し、手術不能となってしまった。ご本人及びそのご家族と向き合って、残された生命により良い判断を尽くそうとする中で、治療は医療の中のほんの一部でしかなく、本質的な医療は限られた身体能力と時間の中で、その患者さんにとっての「満足」にできる限り近いものに到達できるよう、共にもがくことだと感じた。「病気を治す」という観点から最新のガイドラインの化学療法を推奨することが必ずしも正解とは限らず、「人を治す」という観点から積極的治療を行わないという患者さんの選択を尊重して寄り添うことも、大切な医療の役割なのである。この患者さんと出会い、流した涙は生涯の医師人生を通して忘れることはないであろう。
このような経験を心に深く刻んで、今後医師として「全人的医療」を実践していきたいと感じた。また、このような形の医療を実践するには自分一人では困難なことがしばしばあり、「トータルペイン」を理解して寄り添うには、多職種との協力が非常に重要である。初期研修において多職種間でコミュニケーションをとる機会が多かったことは、大学病院という規模の大きい施設で研修できたことの利点のうち一つだと感じている。
十分な知識を備えた上で患者さんの“声”に耳を傾け、evidence based medicine とpatient based medicineを確実に両立させていくことが、私の内科医としての今後の目標である。