私は一貫して「どうしたら白血病を根治できるのか?」というResearch questionを持ち、主に血液悪性疾患の治癒・根治を目標として血液内科学に関する臨床研究を行ってきました。研究テーマの主たるものとしては同種造血幹細胞移植療法の最大の効果である移植片対白血病(Graft-versus-leukemia/ tumor, GVL/T)効果の誘導と代表的副作用である移植片対宿主病(Graft-versus-host disease, GVHD)の制御に関する研究とナチュラルキラー(NK)細胞を利用した新しい細胞療法開発に関する研究です。
当初はGVHD発症におけるサイトカインの役割について臨床検体を用いて解析を行い、炎症性サイトカインやTh1サイトカインの重要性を報告しました(Tanaka J, et al. Transplantation 55: 430, 1993 ; Bone Marrow Transplant 14: 695, 1994; Br J Haematol 87: 415, 1994; Blood 84: 3595, 1994)。
1996年から2年間造血幹細胞移植のメッカといわれる米国フレドハッチンソン癌研究所に留学し、骨髄とは異なるもうひとつの移植幹細胞であるG-CSFによって末梢血に動員された末梢血幹細胞(G-PBMC)の特性について研究し、G-PBMCには単球が多く含まれそれがGVHD発症に抑制的に作用していることを報告しました(Tanaka J et al. Blood 91: 347, 1998)。帰国後はGVHD 抑制/GVL効果誘導という究極の細胞療法を可能にしうる細胞として抑制性NK細胞受容体(CD94/NKG2A)発現細胞を同定し、この細胞を末梢血や臍帯血から増幅することができることを報告してきています (Tanaka J et al. Blood 104: 768, 2004)。また抑制性NK細胞受容体のリガンドはHLA-Cであるため、同種造血幹細胞移植におけるHLA適合度検索に際し重要な意味を有する可能性を指摘してきましたが (Tanaka J et al. BMT 26: 287, 2000; Br J Haematol 108: 778, 2000; Br J Haematol: 751, 2002; IJH 81: 6, 2005)、2009年8月より非血縁骨髄移植の際にはHLA-C検索が必須化されることとなりました。さらに白血病細胞におけるNKリガンド発現とその誘導に関する研究(Tanaka J et al. Leukemia 19: 486, 2005; Kato N, Tanaka J, et al. Leukemia 21:2103, 2007)や臍帯血からの抑制性NK細胞受容体(CD94/NKG2A)発現細胞と制御性T細胞の同時増幅に関する研究(Tanaka J et al. Transplantation 27: 1813, 2005; Exp Hematol 35: 1562, 2007)、臍帯血移植後のNK細胞回復動態の研究などを行ってきました(Tanaka J et al. Human Immunol 70: 701, 2009)。また移植後のドナータイプキメリズムと移植成績の解析についても実際の臨床現場に直結する研究として大学院の先生達と一緒に行ってきました(Tanaka J et al. Br J Haematol 86: 436, 1994; Tsutsumi Y, Tanaka J et al. Br J Haematol 118: 136, 2002; Miura Y, Tanaka J et al. BMT 37: 837, 2006; Sugita J, Tanaka J et al. Ann Hematol 87: 1003, 2008) 。
またT細胞とは全く細胞障害活性のベクトルが異なりHLA class Iの発現が低下しT細胞による免疫学的監視機構から逃れた白血病細胞や腫瘍細胞を障害することのできるNK細胞そのものを培養増幅する方法を開発し、企業と協力し特許出願を行っております(Tanaka J, et al. Leukemia 26:1149, 2012)。また慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害剤の治療効果とNK細胞の関連の可能性を示しました(Blood 119:6175, 2012)。さらに共同研究としてヒトリンパ球分画からiPS細胞を樹立し、このようにして培養した細胞を臨床応用する試みにも参加しました(Wakao H, Tanaka J, et al. Cell Stem Cell. 12:546, 2013)。また臍帯血移植におけるNK細胞受容体KIRの重要性を報告しました(Tanaka J, et al. Blood Cancer J 3, e164;2013)。
その後も造血細胞移植の成績向上に関する研究(Tanaka J, et al. BMT 48:1389, 2013; Arima N, Tanaka J, et al. BMT 48:1389, 2013; Mitsuhashi K, Tanaka J, et al. BBMT 22: 2194, 2016; Arai Y, Tanaka J, et al. Br J Haematol 178(1):106, 2017; Arima N, Tanaka J, et al. BBMT 24: 717, 2018など)や血液疾患の遺伝子異常に関する研究(Shiseki M, Tanaka J, et al. Int J Hematol. 102(5): 633, 2015; Imai Y, Tanaka J, et al. JCI insight 1(5): e85061, 2016; Mori N, Tanaka J, et al. Eur J Haematol 98(5): 467, 2017; Wang YH, Tanaka J, et al. Leuk Res. 67: 99, 2018など)を行なってきました。
最近ではNK細胞は造血器悪性疾患に対する抗体療法を行う際に抗体依存性細胞障害(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity:ADCC)を誘導するエフェクター細胞そのものであるされているため、NK細胞と抗腫瘍抗体を併用する新しい細胞療法として、私が開発したNK細胞培養増幅技術を利用して「CD20陽性B細胞性悪性リンパ腫に対する自家培養NK細胞とリツキシマブ併用化学療法の安全性と有効性に関する研究(臨床第I/II相試験)」(東京女子医科大学倫理委員会 平成26年4月11日承認、再生医療等提供計画 平成28年2月9日受理)と、「多発性骨髄腫の移植後残存病変に対するElotuzumab療法併用自家NK細胞輸注療法(臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験)」(再生医療等提供計画 平成30年 5月10日受理)を実施中であります。
今後も白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの難治性血液悪性疾患さらには固形腫瘍の根治を目標とした新しい細胞療法や分子標的療法の開発とその臨床応用を目指していきたいと思います。