脊椎脊髄外傷
椎体圧迫骨折
椎体圧迫骨折とは
骨粗鬆症や転移性腫瘍などで骨がもろくなると、しりもちなどの軽い衝撃で容易に骨が折れてしまうことがあります(脆弱性骨折、病的骨折)。もろくなった骨が加重に耐えかねてつぶれてしまうのが「椎体圧迫骨折」で、高齢者では多く見られ70歳代の約30%に椎体骨折が認められると報告されています(Fig.1)。
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Fig.1
圧迫骨折の症状
(1)急性期症状
背中や腰の強い痛みが急に起こりますが、外傷を伴わないこともあります。寝起きや動作をするときに特に痛みが強くなり、安静にしていれば軽減するという特徴があります。腰背部の骨折部位を軽く叩くと、痛みが誘発されます(叩打痛)。一方で、動けなくなるほどの痛みは無く、「いつの間にか骨折」している場合もあります。
(2)慢性期症状
骨折部が固まると痛みは次第におさまってきますが、つぶれた状態で骨が固まってしまうため、背中が丸くなって身長が低くなります(後弯変形)。後弯変形を来たすと立位バランスがとりにくくなり、杖やシルバーカーなどに頼らないと、歩行が困難になってきます。また骨折した骨がうまく固まらず(偽関節:ぎかんせつ)、腰痛や背部痛が長引く原因となることがあります。骨折を放置した結果、骨が変形して脊髄や馬尾神経に圧迫が及ぶと、難治性のしびれ・痛みや下肢麻痺などの神経症状が出現してしまうことがあります。
保存的治療
一般的に椎体圧迫骨折はコルセットを用いた2〜3ヶ月の保存的治療により、約80%の患者さんでは骨癒合が得られるといわれています。しかし圧迫骨折は高齢者に多く、保存的治療による長期間のベッド上安静により認知症や廃用が進行して、痛みが取れても寝たきりのままになってしまうことがあります。また、治療開始が遅れると椎体の圧潰が進行して神経を圧迫し、足のしびれや麻痺が生じてしまう可能性があります。
バルーン椎体形成術(BKP)
十分な保存的治療(通常2週間から3ヶ月)を行っても痛みが取れない場合には、経皮的椎体形成術(「Balloon Kyphoplasty(BKP) バルーン カイフォプラスティ」)の適応となります。BKPはアメリカで開発された比較的新しい治療法で、日本でも2011年1月より公的保険が適用されるようになりました。BKP施行の条件として「脊椎外科の専門知識を有し、BKPシステム特定のトレーニングを受けた医師のみが行うこと」と薬事法で定められており、当院でも所定のトレーニングを終了して治療を行っています。
BKPは簡単に言うと、圧迫骨折によってつぶれてしまった椎体を、風船を椎体の中で膨らませて、できたその空洞にBKP専用の骨セメント(メチルメタクリレート)を充填し、椎体を安定させ痛みをやわらげる治療法です(Fig.2)。BKP治療の特長は、短時間の手術(30分程度)で早期に痛みの軽減が可能で、生活の質(QOL)の向上が期待できることです。最短で2泊3日の入院(手術前日に入院、手術翌日に退院)で治療が可能ですが、術後のリハビリが必要な場合にはその分入院期間が長くなります。
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Fig.2
バルーン椎体形成術(BKP)
治療は手術室で全身麻酔下、腹臥位(うつぶせの姿勢)で手術を行います。レントゲン透視をみながら皮膚に小切開をおき(5mm程度を2か所)、専用の穿刺針を椎体内に挿入し、深さを確認しながら徐々に針を進め、椎体への細い経路を作ります。そこへ小さなバルーン(風船)のついた器具を入れ徐々に膨らませ、つぶれた骨を持ち上げて、できるだけ骨折前の形に戻します。バルーン(風船)を抜くと、椎体内に空間ができるので、そこを満たすようにBKP専用の骨セメントを充填します。骨セメントが脊椎骨の外に出て神経を圧迫したり、静脈に詰まったりしない様に、慎重に観察しながら充填し、十分に骨セメントが入ったら、針を抜いて治療は終了です。骨セメントが脊椎骨の外にでていないかを確認するためにCTスキャンを行い病室に戻ります(Fig.3)。充填した骨セメントは約15分〜20分程度で固まりますが、安全のために術後2時間は安静にします。
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Fig.3
退院後は、手術後の骨の状態を確認するために、定期的にレントゲン、CTスキャンなどの画像検査と、骨粗鬆症に対する投薬治療を外来で継続する必要があります。日常生活に大きな制限はありませんが、無理な姿勢や重たい荷物を持つなどの動作はできる限り避け、転倒には特に気をつけてください。また、治療した椎体以外に新たに骨折を起こすリスクがありますので、医師の指示があるまでコルセットの着用を継続します。より快適な生活を送るためにも、日頃からバランスの取れた食事や適度な運動を心がけてください。