痙縮(脳性麻痺など)
痙縮とは、筋肉に力が入りすぎて、手足が動かしにくかったり、勝手に動いてしまったりする状態のことです。
わずかな刺激で筋肉に異常な力が入ってしまうため、動きにくいだけでなく、眠れないことや痛みを引き起こすこともあります。
原因として、脊髄損傷や脳血管障害,頭部外傷,脳性麻捧など様々ですが,痙縮を緩和することで日常生活動作(ADL)の改善などが期待できます。内科的治療やリハビリテーションと合わせて、以下のような外科治療の有効性が確立されています。
1.小児脳性まひによる下肢痙縮に対する選択的脊髄後根遮断術(SDR)
SDR は 1913 年に Foerster によって初めて報告され,1960 年代にGros,1970 年代に Fasano らによって術中の電気刺激をもとに脊髄反射の求心路を遮断するように改められ,1980 年代の Peacock らにより広められました。SDR は主に脳性麻痺による痙性対麻痺に対して下肢機能を改善することを目的に過去 20年以上にわたって全世界で広く行われている脳神経外科手術であり,脊髄反射弓の求心路を遮断することで痙性の緩和が得られます。成人では感覚障害が問題となるため適応は少ないものの,小児では術後の筋力低下や感覚障害,直腸膀胱障害も回避できるため第一選択です。
手術適応
脳性麻痺による比較的軽度~中等 度の痙性対麻痺を呈する小児が絶対的な手術適応となり,筆者たちは Gross Motor Function Classification System(GMFCS)レベル 2 ~ 4 に該当する患児に行っています。年齢は,8 歳以下であれば術後の感覚障害の出現が少なく安全に手術が行えますが,できれば腱の短縮や関節の拘縮の完成していない 6 歳以前に行うほうが効果は高いと考えます。重度の四肢痙縮を呈する患者さんは ITB の適応ですが,5歳以下の小児では ITB ポンプの埋め込みが困難なため,成長を待つ間の治療として SDR が行われることがあります。下肢の痙縮が軽度で片側の場合には SPN を考慮します。2009 年に策定された脳性麻痺リハビリテーションガイドライン 12 )では,SDR は GMFCS レベル 3 と 4 の機能を有する 3 ~ 8 歳の小児に対して,グレード B で推奨されています。
手術の実際
脳性麻痺による比較的軽度~中等 度の痙性対麻痺を呈する小児が絶対的な手術適応となり,筆者たちは Gross Motor Function Classification System(GMFCS)レベル 2 ~ 4 に該当する患児に行っています。年齢は,8 歳以下であれば術後の感覚障害の出現が少なく安全に手術が行えますが,できれば腱の短縮や関節の拘縮の完成していない 6 歳以前に行うほうが効果は高いと考えます。重度の四肢痙縮を呈する患者さんは ITB の適応ですが,5歳以下の小児では ITB ポンプの埋め込みが困難なため,成長を待つ間の治療として SDR が行われることがあります。下肢の痙縮が軽度で片側の場合には SPN を考慮します。2009 年に策定された脳性麻痺リハビリテーションガイドライン 12 )では,SDR は GMFCS レベル 3 と 4 の機能を有する 3 ~ 8 歳の小児に対して,グレード B で推奨されています。
手術の実際
SDR はその歴史から,いくつかのバリエーションが存在します。大きくは① 第1腰椎 ~ 第1仙椎 の6椎弓切除で行う方法と,②第1腰椎 の1椎弓切除で行う方法です。
当院では,術後の脊椎変形や創部痛を避けるために②の1椎弓切除で手術を行っています。術前に L1のマーキングを行い,両下肢の筋肉に多チャンネル筋電図を置き( 図4 ),3 cm ほどの皮切を置いて 1 椎体の椎弓切除を行います。硬膜を切開すると脊髄円錐,馬尾神経が確認できます( 図5 )。電気刺激により前根と後根を確認し,L2 ~ S1 の後根を選択的に 50 ~ 90%程度切断します( 図6 )。切断する神経の選択やその程度は,術中の電気刺激による筋電図で判定します。1 本の神経を刺激しているのに筋電図上で両側の下肢の筋肉に反応が出るものや,刺激を中止しているのに反応が持続するものは,異常な神経であると判断します(図7 )。術中にクローヌスの消失や足関節,膝関節の痙縮の消失を確認して,術後疼痛予防として髄腔内にフェンタニルを注入して手術を終了します。
看護のポイント:SDR の効果および術後合併症
SDRの効果については多くの報告があるが、そのほとんどは長期的にも良好な成績が報告されており5, 9,10)、欧米では小児痙性対麻痺の第一選択的治療と位置づけられている8)。SDRにおける術後合併症は下肢感覚障害、直腸膀胱障害、痙縮の改善に伴う一時的な筋力低下である。われわれの経験では下肢感覚障害や直腸膀胱障害、筋力低下はほとんどが一時的なものである。感覚障害については患児の年齢が高いほどその出現頻度が高くなるといわれているため、10歳以上の脳性麻痺児にSDRを行うにはその適応を慎重に選ばなければならない。直腸膀胱障害は術後に認められたとしても通常数日間であるが、膀胱カテーテルを留置したままでは症状の増悪、改善が評価できないため、我々の施設では術後膀胱カテーテルの留置は行わず、間歇的導尿で排尿障害の評価を行っている。看護する上で手間はかかるが、手術における効果、合併症の判定のためには必要であると考える。術後は痙縮の改善により見かけ上は麻痺が悪化したように見えるが、数週間から数か月のリハビリテーションにて術前の状態に改善するので、看護師も十分理解して患者さんのケアを行う必要がある。
2.バクロフェン髄注持続療法
バクロフェンはGABAのアナログで20年以上前から抗痙縮薬として経口で用いられてきたが、血液脳関門をほとんど通過しないため、実感できる効果は乏しかった。一方、経口投与の1/1000程度の量のバクロフェンを脊髄髄液腔内に投与すると、著明な効果が得られる。体内に植え込んだポンプから持続注入する髄腔内バクロフェン投与治療(ITB)は本邦でもようやくITBが2006年4月から保険適応となり、最近では小児への適応も追加された。適応に関して痙縮の原因疾患に制約はなく、他の治療法で緩和できない重度の痙縮であれば対象となる。一般的には脊髄損傷、外傷性脳損傷、無酸素脳症、脳性麻痺などがあげられる。意識障害という観点からは本治療はいまだ解明されていない非常に興味深い要素をもっている。脊髄硬膜外電気刺激が意識障害の改善に有用であることが知られているが、脊髄刺激の作用機序として脊髄での分節性のGABAの増加によることが知られている。バクロフェンはGABA-B受容体のagonistであり、作用の軽重はあるものの脊髄刺激とおなじような作用をもっている。自験例でも、海外からの報告でも、予期せず本治療により意識が改善したとの報告が散見され、本剤の意識障害改善効果には注目すべきものがある。また最近では痙縮にとどまらず、ジストニア、反射性交感性ジストロフィー、振戦などに対する劇的な効果も知られつつある。
現在では日本全国で重度の痙縮に対して保険医療として広く行われるようになった。
詳細は下記をご参照ください
http://www.itb-dsc.info/
3.末梢神経縮小術
1概要、対象疾患
脳卒中や頭部外傷、脳性麻痺などの脳損傷や脊髄損傷が起きた後に、よくみられる痙縮として肘の屈曲や足の内反尖足があります。とくに内反尖足は、典型的には踵を地面につく事が困難でつま先だけで歩くことになり、正常の歩行の支障になり、また長期になると関節自体が固まってしまったり(拘縮)、膝や股関節など他の関節にも負担がかかります(Fig1)。そこで、突っ張った筋肉をやわらげるために内服治療や最近はボツリヌス毒素注射などが行われます。内服は全身に効くため、多量に使用すると眠気などの副作用が問題となり、ボツリヌス注射は使用量の制限や数か月に一回の投与、費用などから、特に長期に治療が必要な若年者には大きな負担になります。そこで、当科では次の方法として、痙縮の原因となっている神経を直接細くして、過剰な筋肉の緊張を緩める手術を行っており、それを選択的脛骨神経縮小術といいます。一回の手術でボツリヌス注射と同等の効果を半永続的に効かすことができるのがメリットですが、デメリットとしては注射のように細かい調整はできず、また術後に傷の痛みや痺れが出ることがあります。術後のリハビリが重要であり、リハビリが意欲的に行える年齢、意識状態であることが良い適応と考えられます。ボツリヌス療法と組み合わせることも可能です。提示した症例では術前、踵が付かなかったのが、術後、踵がついて通常の靴で歩けるようになりました。(Fig2)肘の屈曲痙縮には筋皮神経縮小術を行うこともあります。上下肢、両下肢など広範でまた重度な痙縮にはバクロフェン髄注ポンプ埋め込み術(ITB療法)を検討します。また目安として10歳未満の脳性麻痺に対しては神経縮小術は再発率が高いと言われており、選択的脊髄後根遮断術(SDR)を検討します。
-
Fig1
-
Fig2
2手術方法、入院中の経過
手術は全身麻酔で、うつぶせになった状態で行います。片方で1時間30分くらいが手術時間の目安です。膝の裏に3〜4㎝の傷をつくり、その下にある脛骨神経を露出します(Fig3)。脛骨神経からは内反尖足に関わるヒラメ筋神経、腓腹筋神経、後脛骨神経などが枝として出ていますので、顕微鏡で見ながらそれらを丁寧に分離し、弱い電気を流して、どれがどの筋肉へいく神経かを確かめます(Fig4)。その後、神経を一本ずつほぐして細くしていき、手術中に筋肉が柔らかくなったことを確認して、手術を終了します。術後は翌日から歩行練習が可能で、一週間くらいで傷の治りを確認すれば退院可能です。術後の痛みの状況やリハビリの必要性などから、もう少し長期になる場合もあります。その後、自宅や通所施設でリハビリを継続して頂き、当院でも外来で定期的に診察します
-
Fig3
-
Fig4