看護学部

卒業生のコメント

第1回卒業生 田中彩子

看護学部、第1回卒業生です。
現在、東京女子医科大学の中央手術室に勤務し、3年目となりました。手術室を希望したのは、疾患のある患者さまを全人的に捉えるためには、まず体の中を理解したいと考えたからです。
1年目は当院のプリセプターシップ制度(*1)に基づき、まず職場に慣れることを目的とし、基本的看護技術から手術室特有の器械出し、外回り看護など、マンツーマンで先輩看護師が新人に合わせた教育を行い、必要な知識や技術を習得できる体制をとっています。

手術看護は器械出し看護、外回り看護と大きく二つに分けられます。器械出し看護にはメスや鉗子(かんし)(*2)などの手術器械(*3)を外科医に渡す役割があります。ただ器械を渡すだけではなく、解剖・病態生理・手術操作手順・器材の取り扱いを熟知し必要な器械を予測しながら、術者に迅速かつ確実に渡します。
また、外回り看護は術前訪問(*4)を行い、身体・精神・社会面から個別性に合わせた看護計画を立案し、麻酔科医と協働しながら患者さまの状態を事前情報から予測し実施していきます。看護師はより手術が円滑に進むために手術全体の調整を行うようにしています。
例えば体位(*5)をとる場合、外科医は手術操作を行いやすい体位を優先にとりますが、看護師は患者さまにとって安楽で安全な体位になっているか考えることが大切です。

ところで、手術室にはコミュニケーションはないと思う人が多いと思います。
確かに患者さまは全身麻酔下におかれるので、コミュニケーションの時間は少ないです。しかし、手術を受ける患者さまは不安や緊張、また手術後の期待など複雑な心境の中で手術室に来ます。短い時間の中でも、できる限り患者さまの立場になって気持ちを考え、不安や緊張を軽減しようと努力しています。
患者さまは意識のない状況下で自分の生命を医療従事者に信頼し委ねます。その中で、一人ひとりの患者さまの気持ちの代弁者となり、手術が成功し問題なく退室していくこと、また不安や緊張がある患者さまが時折見せる笑顔は自分の行った看護への達成感に繋がり手術看護の責任ややりがいを感じます。

現在、自分が新人を指導する側となり、人に物事を教えることやリーダーシップを発揮する難しさ、手術看護が奥深い分野であることを実感しています。
また学生時代の経験を活かし、研究に取り組み論文発表を行いました。

今後は看護実践能力を高めるだけでなく、専門的知識を増やし根拠ある看護が行え、またマネジメント能力を高めることにより手術看護の専門性を追求できるように努力していきたいと思います。私は看護師になってよかったと素直に思います。

注訳

  1. プリセプターシップ制度:ある一定期間、一人の新人看護師に一人の先輩看護師がつき、新人看護師の意見を尊重しながら問題や課題が解決できるように関わります。そして、職場環境に適応し看護師としてやっていける自信を持てるようにすること、新人看護師の能力が発揮できるように導く体制のことです。結果として、リアルティ・ショック(学校で学んだ理想と職場の現実との間にギャップを感じて起こすショック)を克服し、学生から看護師という専門職への役割移行ができることをねらいとしています。
  2. 鉗子(かんし):手術のときに組織、臓器などをしっかりとつかんだり、固定したり、剥がしたりする器具のことです。鉤があるコッヘル鉗子、鉤がないペアン鉗子が有名です。
  3. 手術器械:手術を行う術者の手の延長として、切る・剥がす・挟む・縫う等のために使う器具類のことを器械と言います。
  4. 術前訪問:手術室看護師や麻酔科医が手術予定の患者さまの部屋に訪問して、麻酔のこと、手術の流れ、手術室の環境について話をすることです。また、患者さまの今までの病気や生活習慣(アレルギー・お酒・たばこの量)などを聞き情報を得ながらコミュニケーションを図り、患者さまの不安を少しでも軽減できるように考えています。可能な限り実際に手術に立ち会う看護師が訪問することで、患者さまと看護師が「顔見知り」になることが望まれます。
  5. 体位:身体の位置・姿勢のことです。手術では、手術での十分な視野が確保されること、手術部位が動かないことが大切なので身体をしっかり固定します。しかし、麻酔のかけられた患者さまは自分で身体を動かすことができないので様々な工夫をしながら、負担が最小限ですむように行っています。上手な体位の取り方が手術看護の腕の見せ所でもあります。