腎移植

Renal transplanation

ドナーについて

ドナーの条件

生体腎移植において、腎提供者(ドナー)になれる方は、患者さんのご家族の方(夫婦間も含む)で自らの意思で腎臓の提供を希望されている方になります。年齢は20歳以上で、片方の腎臓を提供いただくので腎臓の機能が正常であることはもちろん、心身ともに健康であることが必要になります。
生体腎移植のドナーとなられる方はご自身の病気のために手術を受けるわけではありませんので、提供後に健康が損なわれることがないよう、あらかじめ病気がないかどうか外来で検査を受けていただくことになります。

腎臓を提供できる方

  • 倫理的条件

    腎臓を提供できる方はご家族の方です(父、母、子供、兄弟姉妹、祖父母、伯父伯母、夫、妻等)。日本移植学会の倫理指針では、生体臓器移植では親族からの提供に限るとされており、親族とは6親等以内の血族、3親等以内の姻族と定義されています。本人の承諾が得られていたとしても、友人や善意の第3者等からのご提供はお断りさせていただいています。

  • 腎機能

    腎機能が良好であることが必要です。片側の腎臓を提供すると、腎機能は提供前の70%程度に低下しますが、その後は悪化することなく、長期に維持されることがわかっており、日常生活に支障をきたすことはありません。

  • 血液型

    血液型が異なっても移植できます。東京女子医大では血液型が異なる腎移植を多数手がけています。提供されるご家族の方が複数いらっしゃる場合は、血液型が合っているご家族からの移植を優先する場合があります。

  • HLA(白血球の血液型)

    HLA は外来で検査させていただきます。HLAの適合性が悪いため移植できないということはありません。

  • リンパ球クロスマッチ

    外来で採血して行う検査です。この検査が陽性の場合は移植した後に拒絶反応が出やすいことがわかっています。そのためリンパ球クロスマッチが陽性の場合は、陰性の提供者を探すか、移植を受ける方が、脱感作療法を受けていただいて、陰性になった時点で移植術を行います。

  • 心身ともに健康であること

    ドナーは心身ともに健康であることが必要です。しかし、以下の軽度の持病をお持ちであっても腎臓の提供は可能です。

    • 高血圧、脂質異常症

      外来検査での腎機能検査で問題なければ腎臓の提供は可能です。しかし腎臓を提供した後は、高血圧や脂質異常症の治療を継続し健康的な生活に心がける必要があります。これは動脈硬化が進行することにより、残った腎臓の機能が悪化する恐れがあるためです。

    • 糖尿病

      糖尿病によって腎機能が低下することはよく知られています(糖尿病性腎症)。薬物治療が必要である糖尿病がある場合は原則として腎臓の提供はできません。しかし糖尿の気があるといわれた程度であれば、外来でよく検査し問題なければ腎臓の提供は可能です。

    • 悪性腫瘍(がん)

      悪性腫瘍がある方からの腎臓提供はできません。移植された腎臓といっしょに悪性細胞が移植されるためです。しかし、悪性腫瘍の治療を受けた後、一定期間経過し再発していない場合は腎臓の提供は可能です。不幸にもがんが見つかったとしても、治療し、再発しなければ可能です。詳しくは外来でお尋ねください。

    • 感染症

      現在、感染症にかかっている場合は腎臓提供はできません。しかし、感染症が完治した場合は腎臓提供可能となります。

  • 年齢

    上記の条件に合えば、腎臓を提供できないことはありません。しかし、高齢になるにつれ自然に腎機能は低下しますので、外来で移植可能かよく腎機能を調べます。

摘出する腎臓の決定

左右どちらの腎臓を摘出するかは入院前の腎機能検査、CT検査やレントゲン検査を考慮して決定します。摘出しやすく移植しやすいため左の腎臓を摘出することを原則としています。しかし、腎臓の動脈が複数あったり左右の腎臓の大きさが異なったりしているときは、場合によって右の腎臓を摘出することもあります。

手術

腎臓を提供する手術は、全身麻酔で行うので眠っている間に約3時間で終わります。現在は全ての症例で内視鏡による腎臓の摘出を行っています。この場合、従来の手術(下図)と比較し、傷が小さくすむため手術後の回復が早く、術後3~5日で退院できます。

内視鏡によるドナー手術

おなかに開けた小さな穴から内視鏡を挿入し、内視鏡用の器具を用いて、腎臓を剥離し摘出する方法です。傷が小さいため、術後の痛みが少なく、術後の回復が早いことが特徴です。

特徴

傷が小さい

これまでの開放手術では、腰部に大きな切開を加えて(上図)手術していました。ところが内視鏡を用いた手術では、内視鏡と鉗子などを挿入する1cm大の傷が3か所、下腹部の腎臓を取り出す傷が約5~7cmと大変に傷が小さいため(上図)、術後の痛みが少なく、回復が早いことが特徴です。入院期間は4〜5日で、退院後の日常生活やお仕事への早期の復帰も可能となりました。

下腹部に設けた創部より、腎臓を取り出します

この方法を採用することにより、恥骨上に腎臓の取り出す創部を設けるより、傷が目立たず、痛みも少なくなりました。

腹腔内臓器を操作しないため、消化器合併症がない

われわれが採用している方法は、後腹膜鏡を用いた腎摘出です。この方法は、腹腔内(小腸や大腸がある空間)をまったく開けずに、後腹膜といわれる腹腔の背中側の部分に空間を作成し、腎臓を摘出します。そのため胃や腸を傷つけたりする心配がなく、手術後の腸閉塞などの合併症が起こる可能性はほとんどありません。

欠点

本方法は、開放手術や他の内視鏡腎摘出と比較して、上記のような利点がありますが、いくつかの点で、他の方法が優れている場合があります。

手術時間

後腹膜鏡を用いた内視鏡手術は、どうしても狭い空間で操作します。以前は、開放手術と比較した場合、手術時間が長くなる傾向がありましたが、習熟の結果、現在では全体で2時間前後で終了するようになっています。

手術手技の難しさ

前述した様に狭い空間で手術操作を行いますので、手術操作が開放手術や他の内視鏡手術に比べ難しい手術となっています。そのため摘出する腎臓が剥離操作でダメージを受けたり、出血などの手術中の合併症が起きる可能性が、他の方法より高いと考えられます。しかし、われわれの施設では内視鏡手術に精通した熟練した医師が本手術を行っており、大きなトラブルなく、また摘出した腎臓も移植後、全て良好に機能しています。

以上の点で開放手術などと比較した場合、後腹膜鏡による内視鏡手術は劣る部分もあります。しかしながらまったく健康体である腎臓提供者に手術を受けていただく以上、いかに提供者の負担を減らすかがわれわれの最大の使命と考えています。そのため少々手術時間が延長したとしても、術後の痛みが少なく、社会生活への早期の復帰が可能である本方法をわれわれはあえて採択しています。
これまでも他施設での内視鏡手術におけるいくつかの事故が報道されていますが、われわれは提供者の安全を第一に考え、慎重に慎重を期し手術を行っています。
本法におけるドナー手術に不安を感じられる患者様もいらっしゃると思います。疑問点や不安な点は、いつでも納得いくまでご説明いたしますので、お気軽に本ホームページの連絡先にご連絡ください。もちろん患者様のご希望があれば、開放手術による腎臓摘出術も選択できます。