尿失禁

Urinary incontinence

こどもの排尿障害

昼間のおもらし、尿をちびる、おしっこががまんできない、といった尿失禁症状がこどもの排尿障害の主な症状です。
夜のおねしょも伴っていることが多いのですが、夜尿症のように夜間のおねしょだけの場合とは区別して考えます(夜尿症の項参照)。昼間のおもらしは膀胱・尿道の神経や形態、機能に何らかの問題がある場合が多いのです。
神経の障害としてこどもに見られる病気で最も多いのは二分脊椎という先天的な脊髄の病気です。また尿道の病気では後部尿道弁といって先天的に尿道の形態が狭い場合があります。しかし明らかな神経や形態の異常がなくて、膀胱の機能に異常をきたしてしまう排尿障害が昼間のおもらしでは最も多いのです。
昼間のおもらしは放置しておくと尿路感染の反復や腎障害を起こすこともあるので専門医による診断と治療が必要です。
しかし残念なことに昼間のおもらし、すなわち排尿障害と夜尿症が一緒に扱われてしまっていることが少なくありません。

夜尿症について

頻度や時期

わが国でどの程度の頻度があるのかはわかっていません。先天的な病気を別にすれば幼稚園から小学校に上がる5~7歳頃から問題になってくることが多いといえます。つまりトイレットトレーニングが終わったころから問題になってきます。男児より女児に多く見られます。忘れてならないのは昼間のおもらしでは尿路感染と便秘を伴うことが極めて多いということです。

排尿障害の種類

排尿障害には次にあげるいくつかのタイプがあります。
しかし厳密に分類することは難しく、多くの場合はいくつかのタイプが混ざった状態といえます。

  • 切迫症状型

    おしっこがしたいと思ったらトイレが間に合わない、あわててトイレにかけこむお子さんです。さっきおしっこしたばかりなのにすぐまたトイレに飛び込みます。これは膀胱が不安定で尿をためている間にリラックスしきれないタイプです。ただし排尿時は全部出し切れることが多く残尿をともなうことはあまりありません。

  • 排尿中断型

    おしっこをしている最中に中断するタイプです。これは膀胱の出口で漏れを防いでいる括約筋という筋肉の不適切な働きのために起きます。おしっこをする場合は括約筋をゆるめるのですが、排尿途中で括約筋を緊張させてしまうために尿が止まってしまいます。このため排尿は出たり止まったり断続的になり時間がかかるだけでなく、しばしばおしっこが全部出きらないで残尿が生じます。

  • 排尿回数減少型(Lazy Bladder)

    こどもの排尿回数は起床時から寝るまでの間に6回(朝、午前中、昼、午後、夕方、寝る前)以上が妥当ですが、3回ぐらいしかおしっこに行かないお子さんがいます。尿意を感じている場合と、尿意を感じてない場合があり膀胱容量は平均的容量の2~3倍に増加しています。全部出せずに残尿がある場合は尿路感染や腎障害の危険が高くなります。

排尿障害の診断

まず日常の排尿状態、おもらしの状況についてご両親から詳しくお話を聞きます。ウンチの状況(便秘の有無、便の硬さ、形状)も大事な情報です。また尿路感染の病歴がないかどうかもポイントです。尿検査も必ず行います。おなかの触診、背中とお尻の形態、とりわけ尾てい骨の部分は膀胱に行く神経が集まっており皮膚や形のチェックは大事です。これらで排尿障害が疑われた場合は次の検査をすすめます。

  • エコー

    腎臓と膀胱の形を見ます。

    排尿障害が継続している場合、水腎症や膀胱の形態異常を伴ってくることがあります。

  • 尿流量測定

    排尿パターンと残尿の有無をみます。

    くだ(カテーテル)を使わないので子どもが痛みをともなう検査ではありません。ただし尿がたまっていないと出来ません。

  • 排尿時膀胱尿道造影およびウロダイナミクス

    これはレントゲンと圧測定装置を用いて検査します。膀胱の形だけでなく膀胱が尿をためているあいだに収縮したりしないかどうか、膀胱がいっぱいになるときに腎臓に尿が逆流しないかどうか、おしっこを出すときに無理な力が加わっていないかどうか、尿道に狭窄がないかどうか、といった数々の情報が得られるきわめて有用な検査です。ただし尿道口からくだ(カテーテル)を入れる必要があり、いくら細くてやわらかい管をつかっても幼児期以降のお子さんは嫌がります。男の子は尿道が長くて途中でまがっているため管をいれるときに痛がりますが、痛みより恐怖心が強いと思われます。可能な限り通常の排尿状態を再現しなければならないので麻酔や鎮静剤は使えません。当科ではお子さんを安心させるため妊娠中でないお母様にはレントゲン予防衣を着ていただき、検査に付き添っていただくこともあります。

    ウロダイナミクス検査について

治療

排尿障害のタイプによって治療方針は変わりますが、全体に共通して行う指導は以下のようになります。

全体に共通して行う指導

  • 十分な水分の摂取

    水をたくさんとらないと尿量は少なくなります。子どもは大人以上に体が水分を必要としており十分な水分摂取が基本です。ただし膀胱を刺激するようなお茶などのカフェイン飲料やビタミンC、酸の多いフレッシュジュースばかりを摂るようなことは避けてください。炭酸飲料も避けます。

  • 時間を決めてトイレに行く習慣

    少なくとも起床から寝るまでの間に6回はトイレに行く習慣をつけてください(起床時、午前、昼、午後、夕方、就寝前)。2~3時間ごとの排尿を、尿意がなくても時間を決めていくようにすることも有用です。トイレに行ったら残さず全部出し切るように本人に伝えてください。

  • 便秘をなおす

    毎日十分な量の硬すぎないウンチが出ることはとても大事です。排尿障害のお子さんでは便秘を伴う頻度が極めて高く、ウンチがでてもころころした硬いウンチが少しだけという場合も少なくありません。十分な水分のほかに食物繊維の多い食事と運動が大事です。

  • 尿路感染の治療と予防

    熱は出なくても尿を調べるといつも白血球や細菌が見つかる場合は尿路感染をなくす努力がとても大切です。細菌に効く抗菌薬を短期投与する場合と、少量の抗菌薬を1日1回もしくは1日おきに1回長期的に服用するような投与をおこなう場合があります(尿路感染の項を参照)。

  • 抗コリン薬

    尿をがまん出来ない切迫症状型の場合は膀胱をリラックスさせる薬を用います。この薬は膀胱に働いて膀胱の収縮を抑制します。それにより膀胱がためられる尿量が増えるとともに排尿前の意図しない膀胱収縮を抑制してトイレに行く前のちびり症状をなくします。こどもでの副作用は少ないのですがときに頭痛、めまい、のどの渇きを訴えます。ただし便秘のお子さんでは便秘を悪化させることがあり使用方法を調整します。

  • 交感神経抑制剤(アルファ・ブロッカー)

    排尿時に残尿が残るようなお子さんでは膀胱出口を開けない場合が多いといえます。この出口に分布している神経は自律神経の中の交感神経といわれるもので、この抑制剤を使うことで排尿が勢いよくスムースに出るようになる場合があります。血圧を下げる効果がありこどもでは少量から状態を見ながら使用します。薬剤名としてはエブランチル、ハイトラシン、ミニプレスなどが使われます。

  • 導尿指導(自己導尿法:CIC)

    以上の治療・指導をしても残尿が多く尿路感染を繰り返すような状況では本人およびご両親に自宅でくだを使用した定期的導尿を指導する場合があります。尿道の痛みが少ないお子さんの場合は比較的容易に導尿ができるようになります。管の扱いは簡単で、必要な場合はけっして困難な治療方法ではありません。

  • ※参考:バイオ・フィードバック

    これは当科ではまだ実施できていません。排尿中断型では尿道の括約筋をうまくコントロールできないために排尿時に括約筋をゆるめられず中断してしまいます。排尿筋を自分でしめたりゆるめたりコントロールできるように、おしりにはった筋電図のワッペンとテレビの画面を連動させてテレビゲームを楽しみながら理解させます。

こどもの排尿障害はその原因やメカニズムが現時点でくわしくわかっているとはいえません。尿路や神経の障害を伴っている場合もありますが、情緒や精神面でのトラブルが原因となっていることも考えられます。単一治療でよくなる場合もありますが、長い期間を担当医とご家族が協力しながら根気よくお子さんの治療・指導にあたる場合が多いのです。お子さんの気持ちを明るくたもち、叱らずはげます方向へ考えていくことが大切です。