尿道下裂

Hydrospadias

尿道下裂とは

尿道下裂とは先天的な男の子のおちんちん(陰茎)の形態異常です。軽い異常も含めるとだいたい1,000人に3人ぐらいで見つかります。尿の出口が陰茎の先端(亀頭先端)までとどかずその手前に出口が開いています。軽度の場合は亀頭部手前のくびれあたり、高度になるとおちんちんのつけねや陰嚢に出口があり、おちんちんは下向きにおじぎした形をとっています。

原因

原因はわかっていません。男性外性器の発育分化に胎児期の性ホルモンの作用が必須なことより、ホルモンの分泌や作用に問題があったと考えられていますが解明されてはいません。最近よくいわれる環境ホルモンの関与も現時点でわかっているとは言えません。父親や兄弟に高度な尿道下裂が認められる場合、発生頻度は通常より高くなるといわれていますが単一遺伝子で起きる異常とは考えられていません。

出生時に高度の尿道下裂を生じるお子さんの中に性分化疾患の可能性をもつお子さんがいます。もし高度の尿道下裂に加えてきわめて陰茎が小さい(ミクロペニス)とか両側の精巣(睾丸)を触知しないような場合は染色体検査による性の確認を行う場合があります。

尿道下裂の問題点

3歳ごろまでそのままにしておくと、立っておしっこをする時に尿が下向きに飛ぶために男子トイレでの排尿が難しくなります。また成人期まで放置されると、勃起時に陰茎が下向きに曲がって性行為が困難になる場合があります。生殖器の形態異常は他人に相談することが困難であり、成長とともに本人の精神面に性的コンプレックスなどの問題を生じる可能性もあります。合併する先天異常としては停留精巣がよくみられます(停留精巣の項を参照してください)。

停留精巣について

治療

外科手術が必要となります。手術の目的は

  • 陰茎をまっすぐにすること
  • 尿の出口(尿道口)を亀頭の先端部にもってくること

にあります。
可能な限り正常な形態に形成しますが、術後は包茎の手術をした形(亀頭が露出している)になります。日本のお子さんは通常包皮が亀頭を被っている包茎の状態のままなので、いってみれば大人のかたちのおちんちんになるわけです。尿道下裂ではもともと包皮(亀頭周囲の皮膚)の発育が十分でないので包茎の形に直すことはできません。子どもの包茎は無害ですが術後は包茎の状態より亀頭の清潔が保ちやすくなり、思春期になって包茎について考えることはありません。
手術時間は程度によりますが、ルーペをかけておこなう大変細かい手術ですので2時間から5時間ぐらいかかります。通常は1回の手術で完全に治しますが、何度も手術を受けたあとなどでは特殊な術式を選ぶために2回に時期をわけて行うこともあります。おちんちんがとても小さい場合は手術の前に男性ホルモンを少量投与することで手術をやりやすくする場合があります。当科では1~3回注射(1ヶ月間隔)で投与しますが現時点でこのような幼児期の少量のホルモン投与はきわめて安全と考えられており、長期的に副作用を生じたという報告はありません。ホルモンの注射をしたあとは一時的に体内の男性ホルモン濃度が上がりますので赤ちゃんでも勃起する回数がふえます。

手術の時期

基本的には生後6ヶ月から1歳6ヶ月の間がよいと考えています。これは安全に全身麻酔がかけられて、本人もおちんちんのことを意識する前だからです。ただし心臓の病気などほかの重大な病気をお持ちのお子さんでは、その解決が済んで安全に麻酔がかけられるようになってから行います。また未熟児で生まれたお子さんなどでは陰茎のサイズも考慮して多少遅めに行うこともあります。