もやもや病
担当医
川俣 貴一(教授・基幹分野長)
もやもや病とは
もやもや病は本邦で最初に発見された疾患であり、ウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれています。内頚動脈、前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈といった脳内の主幹動脈が進行性に閉塞していき、脳血流を維持するために脳内の細い血管(穿通枝)が拡張、側副路を形成していく(もやもや血管と呼ばれます)疾患で原因は詳しくはわかっていません。進行していく過程で様々な症状を呈し、頭痛、てんかん、脱力発作、しびれ、失語症などの一過性脳虚血発作、脳梗塞、脳内出血で発症します。小児では難治性頭痛、あるいは一過性脳虚血発作で、成人では出血で発症する例も多く報告されています。近年は高次脳機能障害も注目されています。
もやもや病の検査
術前の検査は、原則として①MRI・MRA、②脳血管撮影、③脳血流評価としてゼノンCTを行います。術前の症状や脳の状態を検討し、極力侵襲的な検査は控えるようにしています。ゼノンCTでは時にアセタゾラミドを使用します。アセタゾラミド(ダイアモックス)については、適正使用指針が作成されています(http://www.jsts.gr.jp/img/acetazolamide.pdf)。
MRI、MRA
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左大脳半球に虚血性変化を認めます
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両側中大脳動脈が狭窄し、
もやもや血管を認めます
脳血管撮影
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内頚動脈撮影(正面)
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総頚動脈撮影(側面)
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内頚動脈撮影で、中大脳動脈が描出不良となっており、もやもや血管を認めます。
バイパス術には浅側頭動脈を利用します。
ゼノンCT
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右大脳半球の血流低下が確認できます
もやもや病の治療
もやもや病の治療としては、①内科的な治療と②外科的治療があります。内科的治療では、抗血小板療法(血をさらさらにすること)や抗けいれん薬などの処方を行います。外科的治療には、直接バイパス術(動脈を直接脳表の血管に吻合、主に浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)と間接バイパス術(硬膜や筋膜などを脳の表面に敷く)があります。
術中所見
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A:脳表にバイパス血管を吻合した後の所見です
B:バイパスは髪の毛のように細い糸を使用して行います
C:バイパス血管吻合前、脳表の血流がやや弱い状態です
D:バイパス血管吻合後、脳表に多くの血流が流れています
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術前(左)は中大脳動脈は確認できず、もやもや血管が増生しています
術後(右)はもやもや血管が消失し、中大脳動脈が確認できます
当院の治療方針
内科的な治療として、抗血小板療法(血をさらさらにすること)を中心に行います。さらに脳血流の低下や内科的治療にも関わらず症状を認める方には、積極的に外科的治療を行います。外科的治療には、直接バイパス術と間接バイパスのうち、効果が早く現れる直接バイパス術を中心に、年間約40~50例の手術を行っています。また近年では、出血発症の成人もやもや病に対するバイパス術の出血予防効果が証明さており(JAM trial)、当院では出血発症の方にも積極的に外科的治療を行っています。手術ではSEP(体性感覚誘発電位)、MEP(運動誘発電位)と呼ばれるモニタリングやバイパスの流れを確認するために術中の蛍光造影を併用し、より安全な治療を心がけています。当院の直接バイパス術の特徴は、吻合時のシリコンステントにあります。吻合時に、特殊なシリコンステントを一時的に血管内に入れ、血管の内腔を十分に確認しながら吻合することで、細くて壁の薄いもやもや病の血管に対してもほぼ100%のバイパス開存率を得ることができます。また、もやもや病の治療においては、術後の対応が重要であり、過灌流症候群(バイパスから血が流れすぎて出血や痙攣発作を起こすこと)が一般的に危惧されます。当院では術後早期(主に当日)に鎮静下で脳血流の評価を行うことが可能で、過灌流症候群の予防に努めています。
シリコンステントを用いた微小血管直接吻合術
ゼノンCT
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術直後
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術翌日
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術直後には著明な過灌流を認めていますが、適切な治療により翌日には改善しています。
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小児もやもや病の治療方針
当院では、効果が早く現れる直接バイパス術を中心に手術を行っています。しかしながら、お子さんの場合は間接バイパスが発達する場合も多いため、直接バイパス術と間接バイパス術を組み合わせた手術を行っています。また、近年では高次脳機能評価の重要性が指摘されており、当院では専属の神経心理士と協力し、高次脳機能の評価を行っています。入院中の対応として、小児専用の病床を準備しており、院内学級なども充実させています。小児病棟には、専属の小児専門脳神経外科医がおり、血管障害のチームと小児専門チームの共同チームで入院中の対応をしております。