脳動静脈奇形 (AVM)
担当医
川俣 貴一(教授・基幹分野長)
脳動静脈奇形(AVM)とは
脳動静脈奇形(AVM)とは、脳内で動脈と静脈の直接吻合を生じている先天性疾患です。吻合部には異常な血管塊(ナイダス)が認められます。通常の脳循環では、動脈ー毛細血管ー静脈の順に血流が流れますが、AVMでは毛細血管が欠損しており、流入動脈ーナイダスー導出静脈の順に血流が流れます。動脈の圧が直接静脈に加わるため、ナイダスが徐々に増大することがあり、ナイダスが増大して破裂すると、クモ膜下出血や脳出血などの出血を起こします。また、破裂しなくても、痙攣発作、精神症状、痴呆症状、頭痛、脳虚血発作、心不全を引き起こすことがあります。
AVMのエビデンス
AVMは出血で発見されることが70%と言われています。未出血AVMの年間出血率は2.2%、出血例では4.5%、全体では3.0%、生涯出血率は近似値で(105-年齢)%とされています。出血した場合、命に関わるリスクが29%、後遺症のリスクが27%であり、予防的治療を考慮する必要性が示唆されています。一方、最近の海外研究では、内科的治療の優位性も指摘されていますが、長期の効果については未だ結論が出ていないのが現状です。
治療としては、①開頭手術、②定位放射線治療、③血管内治療などの外科的治療があります。脳動静脈奇形は、①大きさ、②周囲脳の機能的重要性、③導出静脈の流れ方によりグレード分類(Spetzler-Martin分類)されており、分類の結果により、外科的治療の組み合わせが決められています。大きなAVMの治療後には、周囲脳に浮腫や出血が起こるリスク(Normal perfusion pressure breakthrough ; NPPB)があると報告されており、慎重な対応が必要になります。
AVMの検査
脳動静脈奇形の検査として、一般的に①MRI・MRアンギオグラフィー(T2* gradient echoやsusceptibility-weighted imaging などを含む)、②血流動態反応視覚化MRI(ファンクショナルMRI)、③三次元CTアンギオグラフィー、④脳血管撮影を適宜行います。また脳血流の評価として⑤ゼノンCTを行っています。
開頭手術(ナイダス摘出術)
開頭手術(ナイダス摘出術)では、全例にSEP(体性感覚誘発電位)、MEP(運動誘発電位)と呼ばれるモニタリングや術中の血流測定を行い、安全性と確実性の両立を目指しています。術前に血管内治療を併用する場合には、ハイブリッドルームを使用します。術中には蛍光造影を出来る限り使用し、より安全性の高い治療を心がけています。また、術直後に脳血流評価を行い、周囲脳に浮腫や出血が起こるリスク(Normal perfusion pressure breakthrough ; NPPB)を予防しています。当院では、Spetzler-Martin分類でグレードの高い手術困難例に対しても、開頭手術の必要性がある場合には対応できる体制を整えています。
血管内治療(塞栓術)
血管内治療(塞栓術)単独治療によるAVMの完全消失率は6〜40%とされており、本邦では外科的手術または定位放射線治療前の流入動脈閉塞またはナイダス体積減少を目的として施行されています。塞栓物質としては、液体塞栓物質である①Onyxと②NBCA(N-butil cyanoacrylate)が使用可能です。また適宜、プラチナコイルや粒子塞栓物質(エンボスフィア)も併用します。
定位的放射線治療(ガンマナイフ)
定位放射線治療による脳動静脈奇形の閉塞率は、大きさや容積に依存するとされています。容積が小さいほど閉塞率が上昇し、4ml未満では76〜88%、4〜10mlでは52〜74%とされています。当院では、院内にガンマナイフ装置を備えており、適宜ガンマナイフ担当医と話し合いを行いながら治療方針を決定します。
当院の方針
脳動静脈奇形の治療として、当院では開頭手術・血管内手術・定位放射線治療(ガンマナイフ)での対応が全て同一病院内で可能です。脳動静脈奇形の①大きさ、②周囲脳の機能的重要性、③導出静脈の流れ方を考慮し、開頭、血管内治療、ガンマナイフのそれぞれの担当医が話し合った上、より良い治療法を選択しています。他院では対応が困難な、「ガンマナイフと開頭手術」や、「ガンマナイフと血管内手術」という組み合わせにも対応可能です。直達手術と血管内治療を合わせて、年間約10〜20例の治療を行っています。
診断には、①MRI・MRアンギオグラフィー(T2* gradient echoやsusceptibility-weighted imaging などを含む)、②血流動態反応視覚化MRI(ファンクショナルMRI)、③三次元CTアンギオグラフィー、④脳血管撮影を適宜使用しており、術中はSEP(体性感覚誘発電位)、MEP(運動誘発電位)と呼ばれるモニタリングや術中の蛍光造影を併用し、より安全な治療を心がけています。手術室にはハイブリッドルームを備えており、術中脳血管撮影にも対応しています。開頭手術を行う場合には、予め血管内手術による塞栓術の併用を検討し、より安全性の高い治療を行うことを心がけています。術後のNPPB対策としては、術直後にゼノンCTを撮像することで対応しています。
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A:MRIで左前頭葉に脳動静脈奇形のナイダスを認める
B:脳血管撮影でナイダスを確認
C:術野画像、矢印の範囲がナイダス
D:術中蛍光造影でナイダスの範囲を確認
E:摘出術後、術中蛍光造影で残存ナイダスのないことを確認
F:術直後のゼノンCTでNPPBの有無を確認
G:術後CT、良好な摘出を確認
H:脳血管造影で残存ナイダスがないことを確認
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