教授・基幹分野長 市原淳弘
わが国の内分泌学のリーダーの一つである内分泌内科学講座は、さらなる飛躍と発展を求めて、高血圧・内分泌内科として診療を行うこととなりました。私は、その初代教授として、内分泌疾患の診療をさらに拡大し発展させるとともに、高血圧という症状を内分泌疾患に位置付けて、「管理する」から「治療する」ため、世界を先導する攻めの医療を展開しています。
私は、前職である慶應義塾大学抗加齢内分泌学講座の時代より内分泌疾患を主に診療してまいりました。内分泌疾患は、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、性腺などのホルモンを産生する臓器別に疾患が分類され診療されてきました。しかし、ホルモンは、臓器や細胞の間での調和を保つために働いて、生体が健全に機能するために必須な液性因子です。それゆえ実際には、一つのホルモン異常が、他のホルモン分泌や生体維持機構に影響を及ぼし、その総合効果がホルモンの病気である内分泌疾患の症候として発現します。高血圧・内分泌内科は、ホルモン産生臓器間の連携を考慮しながら総合的に内分泌疾患を診療していくことを目指します。具体的には、例えば先端巨大症患者さんにおいて、成長ホルモンの過剰がもたらす甲状腺腫瘍、糖尿病、高血圧や、経過や治療によって生じる可能性がある副腎皮質機能低下症や性腺機能低下症を総合的に診療し、一人一人の患者さんを生涯に渡って丁寧に診療することを最も大切に考えて診療をおこなっています。
また、当科では、本態性高血圧ですら複数のホルモン異常が集積した疾患として捉え、大胆にも「治療する」ことにチャレンジしています。これは、高血圧を臓器障害のリスクファクターとして捉えて血圧を「管理する」ことを目指す心臓内科医、腎臓内科医、神経内科医とは異なり、内分泌学を専門とする医師だけが有する独特な視点による診療です。具体的には、当科を受診した患者さんは、まず採血や採尿検査でホルモンプロフィールの評価を受けます。その上で、患者さん個々に異なる複数のホルモン異常を是正するための戦略(食事・運動・嗜好・生活習慣)を立てます。同時に、ホルモン異常の結果生じる全身の動脈硬化や代謝異常を非侵襲的に評価し、薬物などを用いて治療を行う「ホルモンを標的とした診療」を展開しています。
研究活動も活発であり、近年発見された内分泌因子であるプロレニン/(プロ)レニン受容体研究では日本一を自負し世界をリードしています。また、原発性アルドステロン症や副腎腫瘍性疾患(クッシング症候群、褐色細胞腫など)は、その症例数の多さでは日本において特筆すべき医療施設の一つであり、その臨床研究成果を毎年のように輩出しています。当講座で育った後期臨床研修医・大学院生は、内分泌疾患を通して全身を診療できる医師となるだけでなく、社会に対する使命感を持った医学研究者として第一線で活躍しています。スピリッツは、「子曰く、人能く道を弘む。道の人を弘むるに非ず」です。一緒にチャレンジしましょう。
略歴
昭和61年 | 慶應義塾大学医学部 卒業 |
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同年4月 | 慶應義塾大学病院内科 研修医 |
平成7年 | 米国Tulane大学医学部 留学 |
平成9年 | 米国Tulane大学医学部 講師 |
平成13年 | 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 助手 |
平成19年 | 慶應義塾大学医学部 抗加齢内分泌学講座 講師 |
平成21年 | 慶應義塾大学医学部 抗加齢内分泌学講座 准教授 |
平成23年 | 東京女子医科大学 内科学(第二)講座 主任教授 |
平成27年 | 東京女子医科大学 内科学(第二)講座 教授・講座主任(名称変更) |
平成30年 | 東京女子医科大学 内分泌内科学講座 教授・講座主任(講座名変更) |
令和3年 | 東京女子医科大学 内科学講座 教授・基幹分野長 現在に至る。 |
受賞歴
平成9年 | 米国生理学会賞 |
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平成9年 | 米国Tulane大学リサーチフェロー最優秀研究賞 |
平成10年 | J Walter Libby賞(米国心臓学会) |
平成11年 | 若手研究奨励賞(米大陸高血圧学会) |
平成16年 | Hypertension Research Novartis Award(日本高血圧学会) |
平成18年 | Renin Academy Award(国際高血圧学会) |
平成23年 | 慶應医学賞医学研究奨励賞 |
学会活動
日本内科学会評議員、日本高血圧学会理事・評議員、日本内分泌学会評議員・関東甲信越支部幹事、日本心血管内分泌代謝学会理事・評議員、日本動脈硬化学会評議員、日本妊娠高血圧学会理事長、日本母性内科学会理事、日本腎臓学会学術評議員、米国心臓学会高血圧部門評議員、日本臨床分子医学会監事・評議員
他に日本循環器学会、日本糖尿病学会、日本抗加齢医学会、日本神経内分泌学会、日本甲状腺学会、日本血管生物医学会、米国内分泌学会、欧州内分泌学会、国際高血圧学会、日本透析医学会、米国生理学会に所属。
臨床資格
日本内科学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本高血圧学会特別正会員・専門医・指導医、日本動脈硬化学会専門医・指導医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医、日本抗加齢医学会専門医