(10) 尿路上皮特異的コンディショナルノックアウトマウスを用いたヒストン脱メチル化酵素KDM6A(UTX)の膀胱がん発症機構の解析

ヒストンH3の27番目のリジン残基の脱メチル化酵素KDM6A(UTX)は、全てのがんのなかでも膀胱がんで突出して遺伝子変異頻度が高く、p53変異と高頻度に合併することが知られている。我々は膀胱がんの発生母地である尿路上皮特異的に、KDM6Aを欠失させたコンディショナルノックアウトマウスを作製し、p53変異マウスと掛け合わせたKDM6A欠失・p53変異マウスを作製した。Kdm6a・p53変異マウスは尿路上皮の異形成~上皮内がんを形成したのに対し、それぞれの単独変異マウスでは異常は認められなかった。さらに発がん物質BBNを一定期間投与したところ、Kdm6a・p53変異マウスにのみ、筋層浸潤がんを認めた(上図左)。遺伝子発現解析などの結果から、Kdm6a欠失により惹起された炎症とp53変異により促進された細胞増殖が協調することにより膀胱がんが発症すること、BBNは炎症を悪化させることでがんの進行に関与することが明らかとなった。Kdm6a欠失による炎症の中心となるサイトカイン、IL6とCCL2それぞれの受容体阻害剤を併用することにより、移植したKdm6a欠失膀胱がん細胞の成長を抑制することに成功した(上図中)。実際にヒトのKDM6A欠失膀胱がんではIL6とCCL2の発現上昇と炎症の亢進がみられ(上図右)、これらの薬剤の併用療法はヒトKDM6A欠失膀胱がんに対しても治療効果が期待される。


Publication
Kdm6a Deficiency Activates Inflammatory Pathways, Promotes M2 Macrophage Polarization, and Causes Bladder Cancer in Cooperation with p53 Dysfunction.
Clin Cancer Res. 2020 Apr 15;26(8):2065-2079. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-19-2230. Epub 2020 Feb 11.
Kobatake K, Ikeda KI, Nakata Y, Yamasaki N, Ueda T, Kanai A, Sentani K, Sera Y, Hayashi T, Koizumi M, Miyakawa Y, Inaba T, Sotomaru Y, Kaminuma O, Ichinohe T, Honda ZI, Yasui W, Horie S, Black PC, Matsubara A, *Honda H.

2020年10月06日