(8) トランスジェニックマウスを用いた白血病発症に関わるヒストン脱メチル化酵素Fbxl10の造血器腫瘍発症機構の解析

7q-症候群責任遺伝子として同定したSamd9Lノックアウト(KO)マウスの解析(主な研究テーマ(7))の中で、Samd9L欠失と協調して白血病発症に寄与する過剰発現遺伝子として、ヒストン脱メチル化酵素をコードするFbxl10を同定した。我々は、白血病発症におけるFbxl10過剰発現の意義を解明するため、造血幹細胞でFbxl10を過剰発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製し解析を行った。作製したFbxl10 Tg マウスは全例で白血病を発症した(上図左:Fbxl10 Tgマウスの生存曲線と発症した白血病所見)。Tgマウスの造血幹細胞は自己複製能が活性化しており、通常神経系細胞で発現するNsg2の過剰発現と酸化的リン酸化経路の活性化によるATP量の増加が確認された。Nsg2を骨髄細胞に導入すると未成熟な細胞が増加することから、Nsg2の過剰発現によって分化障害が起こることが示唆された。さらに、クロマチン免疫沈降を用いた解析から、Fbxl10がNsg2と酸化的リン酸化経路に関わる遺伝子の制御領域に結合していることが確認された。以上の結果から、Fbxl10はその過剰発現によって、代謝経路の活性化による自己複製能の活性化とNsg2の異所的な過剰発現に起因する分化異常という2つの経路を介して、白血病発症に寄与する新規がん遺伝子であることを明らかにした(上図右)

Publication
Fbxl10 overexpression in murine hematopoietic stem cells induces leukemia involving metabolic activation and upregulation of Nsg2. Blood. 2015 May 28;125(22):3437-46. doi: 10.1182/blood-2014-03-562694.
Ueda T, Nagamachi A, Takubo K, Yamasaki N, Matsui H, Kanai A, Nakata Y, Ikeda K, Konuma T, Oda H, Wolff L, Honda Z, Wu X, Helin K, Iwama A, Suda T, Inaba T, *Honda H.

2020年10月02日