(11) 後天的欠失誘導型コンディショナルノックアウトマウスを用いたヒストン脱メチル化酵素KDM6A(UTX)の造血系制御機構の解析
ヒストンH3の27番目のリジン残基の脱メチル化酵素KDM6A(UTX)は、固形腫瘍や種々の造血器腫瘍で機能欠失変異が数多く見出されている。UTXの正常造血と造血器腫瘍発症におけるUTXの役割を明らかにする目的で後天的にUTXを欠失したマウスを作製した。UTX欠失マウスは、末梢血中の骨髄球とよばれる細胞が増加しており、種々の血液細胞で異型成が認められた(図1A)。また、骨髄以外には通常存在しない造血幹細胞がUTX欠失マウスでは脾臓や末梢血で数多く存在しており、骨髄以外での造血である髄外造血が起こっていることが示された(図1B)。さらに、マウスに白血病を誘導するウイルスを感染させたところ、コントロールマウスに比較してUTX欠失マウスは短期間で全てのマウスが白血病を発症し、UTX欠失は白血病発症感受性を亢進させることが明らかになった(図1C)。さらに、コントロールマウスとUTX欠失マウスから造血幹細胞を単離し放射線を照射した同系マウスに移植したところ、UTX欠失造血幹細胞は造血を再構成する機能である骨髄再構築能が低下していることが示された(図1D)。UTX欠失マウスに認められた骨髄球の増加、血球の異型成、髄外造血、白血病発症感受性の亢進、骨髄再構築能の低下は、老化した血液細胞に特徴的な表現型として知られる。そこで、UTX欠失による造血幹細胞における遺伝子発現変化と、生理的な加齢により老化した造血幹細胞における遺伝子発現変化を比較したところ、両者の発現変化には有意な相関を認め、UTX欠失は表現型のみでなく遺伝子発現も老化に誘導することが明らかになった。さらにUTX欠失造血幹細胞は、細胞表面抗原発現変化や、活性酸素種の蓄積や、DNA損傷に対する応答性の遅延など、これまで老化した造血幹細胞で報告されている変化を呈するも示された。次にUTXがその脱メチル化活性によってどの遺伝子の発現を制御しているかを検証するため、UTX欠失造血幹細胞のヒストンメチル化状態の網羅的な解析を行い、その結果と遺伝子発現パターンを組み合わせた解析を行った。その結果、UTXによるヒストン脱メチル化によってTGF-βシグナリングに関連する遺伝子の発現が制御されていることが明らかとなった。その一方で、その他の老化関連遺伝子はUTXのヒストン脱メチル化によって制御されている証拠は得られなかった。UTXはそのヒストン脱メチル化活性以外にも、ヒストンメチル化を行うCOMPASS-like 複合体やヒストンの開閉状態を制御するSWI/SNF複合体といったエピジェネティックな発現制御を行う複合体の構成因子として遺伝子発現制御に関わることが知られている。そこで、既存のNGSデータを利用して解析を行った結果、老化関連遺伝子群の多くはCOMPASS-like複合体やSWI-SNF複合体の制御下にある可能性が示された。以上の結果は、UTXはその脱メチル化活性依存的、非依存的な発現制御機構の両方を介して、老化関連遺伝子群の発現を制御することで造血幹細胞の維持に貢献していることを強く示唆している(図2)。
Publication
UTX maintains the functional integrity of the murine hematopoietic system
by globally regulating aging-associated genes.
Blood.2021 Feb 18;137(7):908-922. doi: 10.1182/blood.2019001044.
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