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2020年07月25日「研究支援員制度」で女性研究者を応援
東京女子医科大学女性医療人キャリア形成センターの女性医師・研究者支援部門は、これまでにないユニークな取り組みを行っている。女性研究者のもとに、研究をサポートする補助要員を配置することができる「研究支援員制度」がそれである。
● 研究を後押しするユニークな制度
東京女子医科大学総合研究棟3階の血液内科研究室。その一角で、白衣をまとった女性が一心に作業を行っている。血液疾患の患者さんの保存検体からDNAを抽出し、それをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という手法を用いて大量に複製するという作業内容である。
作業に携わっているのは小林美津子さん。血液内科の田中紀奈医師の研究をサポートする“研究支援員”である。田中医師は、女性医療人キャリア形成センターの女性医師・研究者支援部門が2018年度に創設した「研究支援員制度」の利用者であり、小林さんは田中医師の指示に従って作業を行っているのである。毎週月・水・木・金の4日間、午前11時から午後3時まで研究室に通っている小林さんは、ずっと作業に没頭する。その姿は生き生きしていて、いかにも楽しげである。
「研究支援員制度」は、妊娠・子育て・介護などで時間の確保が難しい女性医学研究者と、高い学術レベルの研究を行っている将来有望な女性医学研究者を対象に、1日4時間・週4日を上限として研究の補助作業を行う支援員を配置することができる(研究者1人につき支援員1人)という画期的なものである。支援員の人件費は女性医療人キャリア形成センターが負担する。女性研究者にとっては、研究の継続やキャリアアップが期待でき、利用価値のある制度といえよう。
小林さんは「研究支援員制度」がスタートした2018年度から支援員として採用され、今年3月まで後述する生理学講座(分子細胞生理学分野)の若林沙耶香講師の研究を支援してきた。そして4月から、田中医師の研究支援員を務めることになったのである。
● 研究する時間が取れないジレンマ
田中医師は、「本邦の血液疾患におけるKIR genotypeの意義の検討」というテーマで2018年度からの科研費(科学研究費助成事業)を得て研究に取り組んでいる。KIRとは、キラー細胞免疫グロブリン様受容体のことで、がんをはじめとするさまざまな疾患の免疫の調節に関わっている。このKIRは人種によって差があり、日本人のKIR genotype(遺伝子型)と血液疾患の発症や経過におよぼす影響は、まだあまり解明されていないという。
「基礎研究と臨床の近さが血液内科の魅力の一つ」という田中医師だが、研究に費やす時間がなかなか取れないというジレンマを抱えていた。「血液内科の特性上、重症患者さんが多く連日のように緊急入院もあり、昼間はその治療や患者さんへの説明などで忙しく、業務の合間をぬって研究を行うことはとても困難です。そのうえ、2人の子どもがまだ小さい(8歳と5歳)ため、夜間や休日に研究を進めるというわけにもいきません。ですから、研究は少しずつしか進められませんでした」。
そんな中、田中医師は「研究支援員制度利用者募集」のポスターを目にし、「これだ!」と思ってすぐさま応募。選考委員の審査を経て、今年4月から来年3月まで制度を利用することが可能となった。支援員は制度利用者が探すのを原則としているが、今年3月まで支援員を務めていた小林さんを佐藤麻子部門長(上段の囲み記事参照)から紹介され、研究の良きパートナーを得たわけである。
● 感動を覚えたすばらしいシステム
もともと研究や実験が好きで、研究所勤務が長かったという小林さんは、「働く女性を応援したいと考えていましたので、研究支援員制度を知ったときは感動しました。なんてすばらしいシステムなのだろうと。引き続き支援員として働くことができ、感謝しています。田中先生は爽やかでかわいらしく、孫がいる私にとっては娘のような存在です。子育てをしながら頑張っていらっしゃいますので、1年という短い期間ですが精一杯支援していきたいと思っています」という。
田中医師も、「小林さんはとても誠実な方で、安心して仕事を任せられます。1日4時間・週4日間お手伝いいただいているおかげで多くのデータを入手することができ、着実に結果を出せるようになってきています」と、笑みを浮かべながら支援員制度のメリットとその効果を強調する。
そして、「今の研究をまとめ上げることによって、次のステップが見えてくると思います。臨床現場で患者さんに信頼される診療をしつつ、未来の患者さんに有益な知見が得られるような研究を続けていきたいですね」と抱負を語った。
●シンポジウムで研究の成果を発表
去る6月1日、「女性医師・研究者支援シンポジウム2019」が開催された。シンポジウムは女性医師・研究者支援部門が主催し、2011年からスタート。今年は「研究支援員制度」初年度の利用者2人の研究発表がプログラムに組み入れられた。
最初に発表したのは循環器内科の佐藤加代子講師(現・准教授)で、テーマは「動脈硬化進展と心腎連関におけるCD4 T細胞の役割」。冒頭に「臨床、病院業務、教育などで研究が停滞していましたが、研究支援員制度が研究進展の糸口になりました。また、シンポジウムで発表する機会までいただき、ありがとうございます」と述べ、研究成果の報告に入った。
次に発表したのが生理学講座(分子細胞生理学分野)の若林沙耶香講師で、テーマは「逃避行動様式の決定に関する分子遺伝学的研究」。前述の小林美津子さんが支援員を務め、「実験や資料の整理などをしていただいて明らかに研究が加速したのを実感しました」と語った。熊本出身の若林講師はさらに、「私の出産が熊本地震と重なり、実家が倒壊したり子育てで悩んだりしていたときに支援員制度を適用していただき、とても感謝しています」とも述べた。
来年のシンポジウムでは、前出の田中紀奈医師が支援員制度利用者の1人として研究発表を行うことになろう。
● 研究を後押しするユニークな制度
東京女子医科大学総合研究棟3階の血液内科研究室。その一角で、白衣をまとった女性が一心に作業を行っている。血液疾患の患者さんの保存検体からDNAを抽出し、それをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という手法を用いて大量に複製するという作業内容である。
作業に携わっているのは小林美津子さん。血液内科の田中紀奈医師の研究をサポートする“研究支援員”である。田中医師は、女性医療人キャリア形成センターの女性医師・研究者支援部門が2018年度に創設した「研究支援員制度」の利用者であり、小林さんは田中医師の指示に従って作業を行っているのである。毎週月・水・木・金の4日間、午前11時から午後3時まで研究室に通っている小林さんは、ずっと作業に没頭する。その姿は生き生きしていて、いかにも楽しげである。
「研究支援員制度」は、妊娠・子育て・介護などで時間の確保が難しい女性医学研究者と、高い学術レベルの研究を行っている将来有望な女性医学研究者を対象に、1日4時間・週4日を上限として研究の補助作業を行う支援員を配置することができる(研究者1人につき支援員1人)という画期的なものである。支援員の人件費は女性医療人キャリア形成センターが負担する。女性研究者にとっては、研究の継続やキャリアアップが期待でき、利用価値のある制度といえよう。
小林さんは「研究支援員制度」がスタートした2018年度から支援員として採用され、今年3月まで後述する生理学講座(分子細胞生理学分野)の若林沙耶香講師の研究を支援してきた。そして4月から、田中医師の研究支援員を務めることになったのである。
● 研究する時間が取れないジレンマ
田中医師は、「本邦の血液疾患におけるKIR genotypeの意義の検討」というテーマで2018年度からの科研費(科学研究費助成事業)を得て研究に取り組んでいる。KIRとは、キラー細胞免疫グロブリン様受容体のことで、がんをはじめとするさまざまな疾患の免疫の調節に関わっている。このKIRは人種によって差があり、日本人のKIR genotype(遺伝子型)と血液疾患の発症や経過におよぼす影響は、まだあまり解明されていないという。
「基礎研究と臨床の近さが血液内科の魅力の一つ」という田中医師だが、研究に費やす時間がなかなか取れないというジレンマを抱えていた。「血液内科の特性上、重症患者さんが多く連日のように緊急入院もあり、昼間はその治療や患者さんへの説明などで忙しく、業務の合間をぬって研究を行うことはとても困難です。そのうえ、2人の子どもがまだ小さい(8歳と5歳)ため、夜間や休日に研究を進めるというわけにもいきません。ですから、研究は少しずつしか進められませんでした」。
そんな中、田中医師は「研究支援員制度利用者募集」のポスターを目にし、「これだ!」と思ってすぐさま応募。選考委員の審査を経て、今年4月から来年3月まで制度を利用することが可能となった。支援員は制度利用者が探すのを原則としているが、今年3月まで支援員を務めていた小林さんを佐藤麻子部門長(上段の囲み記事参照)から紹介され、研究の良きパートナーを得たわけである。
● 感動を覚えたすばらしいシステム
もともと研究や実験が好きで、研究所勤務が長かったという小林さんは、「働く女性を応援したいと考えていましたので、研究支援員制度を知ったときは感動しました。なんてすばらしいシステムなのだろうと。引き続き支援員として働くことができ、感謝しています。田中先生は爽やかでかわいらしく、孫がいる私にとっては娘のような存在です。子育てをしながら頑張っていらっしゃいますので、1年という短い期間ですが精一杯支援していきたいと思っています」という。
田中医師も、「小林さんはとても誠実な方で、安心して仕事を任せられます。1日4時間・週4日間お手伝いいただいているおかげで多くのデータを入手することができ、着実に結果を出せるようになってきています」と、笑みを浮かべながら支援員制度のメリットとその効果を強調する。
そして、「今の研究をまとめ上げることによって、次のステップが見えてくると思います。臨床現場で患者さんに信頼される診療をしつつ、未来の患者さんに有益な知見が得られるような研究を続けていきたいですね」と抱負を語った。
●シンポジウムで研究の成果を発表
去る6月1日、「女性医師・研究者支援シンポジウム2019」が開催された。シンポジウムは女性医師・研究者支援部門が主催し、2011年からスタート。今年は「研究支援員制度」初年度の利用者2人の研究発表がプログラムに組み入れられた。
最初に発表したのは循環器内科の佐藤加代子講師(現・准教授)で、テーマは「動脈硬化進展と心腎連関におけるCD4 T細胞の役割」。冒頭に「臨床、病院業務、教育などで研究が停滞していましたが、研究支援員制度が研究進展の糸口になりました。また、シンポジウムで発表する機会までいただき、ありがとうございます」と述べ、研究成果の報告に入った。
次に発表したのが生理学講座(分子細胞生理学分野)の若林沙耶香講師で、テーマは「逃避行動様式の決定に関する分子遺伝学的研究」。前述の小林美津子さんが支援員を務め、「実験や資料の整理などをしていただいて明らかに研究が加速したのを実感しました」と語った。熊本出身の若林講師はさらに、「私の出産が熊本地震と重なり、実家が倒壊したり子育てで悩んだりしていたときに支援員制度を適用していただき、とても感謝しています」とも述べた。
来年のシンポジウムでは、前出の田中紀奈医師が支援員制度利用者の1人として研究発表を行うことになろう。
「Sincere(シンシア)」12号(2019年7月発行)