前立腺がん

Prostate cancer

治療法

治療法としては手術療法、放射線療法、内分泌(ホルモン)療法、化学療法があります。病期や年齢、全身状態、合併症などを考慮して治療方針を決定します。

前立腺癌の病期による治療方針

前立腺癌の病期(ステージ)によって、治療法が少しずつ違ってきます。ここでは4つの病期分類による治療選択の大きな違いを示します。

  • 病期A

    良性病変の診断(多くは前立腺肥大症)または他の臓器と一緒に切除した前立腺組織のなかに偶然発見された癌のこと。通常症状はなく待期療法(PSA監視療法)、ホルモン療法、手術療法、放射線療法のいずれか、または組み合わせて行います。手術や放射線療法で完全に治す(根治的治療)ことができる可能性が高い段階です。

  • 病期B

    癌が前立腺のなかに限局している場合で、直腸診で診断できることもあります。症状はないことも多く、この段階でも治療によって根治できることが多いと考えられます。ホルモン療法、手術療法、放射線療法のいずれか、または組み合わせて行います。

  • 病期C

    癌は前立腺の外に広がっているが、転移はしていない状態で、近接する精嚢や膀胱に浸潤していることもあります。排尿困難や血尿などの症状を伴うことがあります。ホルモン療法、放射線療法を単独または組み合わせて行います。手術単独での治療効果は乏しく、病理診断の結果と併せて放射線治療を併用することも有ります。

  • 病期D

    癌がリンパ節や骨、肺、肝臓といった前立腺から離れた臓器にも広がっている状態です。排尿困難、転移部の痛み、倦怠感、体重減少などの症状が認められることが多い段階です。治療としてはホルモン療法を中心に放射線療法や化学療法を行うこともあります。

手術療法

癌が前立腺の中に限局している場合には前立腺摘除術といって、前立腺を取る手術で癌を取り除きます。前立腺と一緒に精嚢という精子を一時的に貯める部分も取り除き、精管という精子を運ぶ管を切ってしまいます。前立腺を摘出した後に膀胱と尿道を縫ってつなぎます。

悪性度が高い、PSAが高い、浸潤している可能性があるなどの条件により、同時にリンパ節郭清といって癌が転移しやすいリンパ節を摘除して、癌がないかどうかを顕微鏡で調べます。

手術の方法としては

  • 下腹部を切ってお腹を開ける方法(開腹手術)
  • 内視鏡を使って小さな傷で行う方法(腹腔鏡手術)
  • 手術支援ロボットを用いる方法(ロボット支援手術)

があります。全てに長所、短所がありますが、当院では2006年より腹腔鏡下前立腺全摘除術に取り組み、2011年よりロボット支援前立腺全摘除術を開始しています。現在では100%の症例でロボット支援前立腺全摘除術を行っています。(詳しくは手術と実績をご参照ください)

前立腺は周囲に血管が多く、開腹手術においては出血しやすいため輸血を必要とすることが多く、自己血貯血といって自分の血液を前もって保存しておくことで輸血を回避することが出来ます。また、腹腔鏡手術・ロボット支援手術ではともに出血量が非常に少ないため、現在では自己血貯血は行っていません。

前立腺のわきには勃起に関係する神経があるため、手術で神経を切らなければならないと勃起障害(ED)になります。この神経を残しても(神経温存手術)完全に勃起障害を予防することは出来ません。また前立腺を取ることで尿が漏れやすくなり(尿失禁)ますが、多くの方は3〜6ヶ月程で日常生活には問題ない状態に回復します。くしゃみをしたり、急におなかに力が入ったときに少量もれる(腹圧性尿失禁)ことが続くこともあります。リンパ節郭清を行うと、リンパの流れが悪くなって下肢がむくむこともあります。

放射線療法

放射線療法には体外照射があります。

  • 体外照射(強度変調放射線療法)

    高エネルギーの放射線を体外から前立腺に当てて癌細胞を殺す方法です。一般的には週に3〜5回、6〜8週間かけて放射線を当てます。手術療法に比べて勃起不全や尿失禁は起こりにくいといえます。

    放射線の副作用としては放射線があたった場所の皮膚がただれたり(皮膚炎)、尿の回数がおおくなったり(頻尿)、尿をするときに痛みが出たり(排尿痛)、下痢をしたりといった急性期障害や、血尿、下血、尿道狭窄などといった晩期合併症が知られています。

    前立腺自体の治療以外にも、転移をした部位(特に骨)の症状を和らげるために放射線療法を行うこともあります。

ホルモン療法

前立腺癌は精巣(睾丸)で作られるテストステロンという男性ホルモンに刺激されて大きくなります。このテストステロンを減少させることで前立腺癌の増殖を抑えたり、小さくしたり、一部を死滅させることが出来ます。現時点では最も有効で基本となる治療です。ホルモン療法には以下のようにいくつか種類があり、組み合わせて使うこともあります。

  • 精巣摘除術

    男性ホルモンが多く作られている精巣を両側摘る手術で、外科的去勢とも呼ばれます。局所麻酔または下半身の麻酔(腰椎麻酔)で陰嚢の皮膚を切って精巣を摘出し、3〜7日の入院が必要です。

    副作用:男性ホルモンが減少するため性欲減退、勃起障害(ED)や体がほてるといった女性の更年期障害に似た症状などがおこります。

  • LH-RHアナログ

    視床下部から分泌されるLH-RHというホルモンがテストステロンの合成を刺激するのですが、これを体の外から大量に与えると、逆にテストステロンの合成を抑制できるという方法です。4週間に1回外来で注射を行うことで、精巣摘除術と同様の効果が得られ、薬物的去勢とも呼ばれます。

    副作用:注射を始めた直後は一時的に男性ホルモンが増加して、排尿困難、骨転移部の痛みなどが出現することがあり、抗男性ホルモン剤を併用することで症状が抑えられます。長期的には精巣摘除術と同様に性欲減退、勃起障害、女性化現象などがおこります。

    12週間に1回の注射もあり、効果が確認されれば通院回数を減らすことも可能です。

  • LH-RHアンタゴニスト

    LH-RHが結合する受容体と結合することでLH-RHによる刺激が伝わらなくなり、テストステロンの合成を抑制する方法です。4週間に1回外来で注射を行うことは同じですが、LH-RHアナログと比較して皮膚反応がおこりやすいと言われています。また、テストステロンを抑制することによる長期的な合併症は、精巣摘除術、LH-RHアナログと同様に性欲減退、勃起障害、女性化現象などがあります。

  • 抗男性ホルモン剤

    精巣で作られるテストステロン以外にも副腎という臓器でも少量のテストステロンが作られており、抗男性ホルモン剤は両方の作用を抑えることが出来ます。

    副作用:勃起障害、悪心、嘔吐、女性化乳房、肝障害などがあります。

  • 女性ホルモン剤

    女性ホルモンであるエストロゲンを投与することで精巣を刺激するホルモンを押さえ、結果的にテストステロンの産生が減少します。薬剤によっては前立腺癌に直接作用する働きを持っているものもあります。乳房の腫大や疼痛といった女性化現象、浮腫、胃部不快感、嘔気が起こることがあります。また血管が詰まりやすくなったり(血栓症)、心臓に疾患のある人は心臓発作を起こしたりすることもあります。

化学療法

抗癌剤を使う方法で、通常はホルモン療法が有効でないか、ホルモン療法が効かなくなった場合(去勢抵抗性前立腺癌)に用いられます。現在タキサン系といわれる抗がん剤が前立腺癌に有用であることが示され、日常的に使用されています。こうした薬剤は食欲不振や全身倦怠、脱毛、手足のしびれ感、骨髄抑制などの副作用が見られることがありますが、投与量により副作用のコントロールが可能な事が多く、外来治療で施行できる方が多くいらっしゃいます。

生活様式

生活上の注意点としては、食事では動物性脂肪を多く摂ることや、緑黄色野菜の摂取不足は前立腺癌の発生頻度を高くする原因の一つと考えられています。また喫煙やストレスも前立腺癌の発生を増加させるといわれています。これらの点に注意して生活することによって、出来ている癌を治すことは出来ませんが、ある程度は癌の発生を予防できる可能性があります。