お知らせ
2026年06月29日 【プレスリリース】尿蛋白の減少が末期腎不全リスク低下と関連することを明らかに
国立大学法人 福井大学
公立大学法人 名古屋市立大学
兵庫県立西宮病院
学校法人 昭和医科大学
学校法人 東京女子医科大学
国立大学法人 大阪大学
国立大学法人 金沢大学
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
東海大学
一般社団法人日本腎臓学会
公立大学法人 名古屋市立大学
兵庫県立西宮病院
学校法人 昭和医科大学
学校法人 東京女子医科大学
国立大学法人 大阪大学
国立大学法人 金沢大学
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
東海大学
一般社団法人日本腎臓学会
尿蛋白の減少が末期腎不全リスク低下と関連することを明らかに
| Point
● 慢性腎臓病(CKD)患者において、2年間で尿蛋白が30%減少することが、末期腎不全(透析・腎移植を要する状態)への進行リスク低下と関連することを、日本人大規模コホートで明らかにした。
● 尿蛋白の変化は、従来の指標である尿アルブミンの変化と同等の関連を示し、日常診療で簡便・安価に使えるサロゲートマーカー(注1)となり得る。 ● ただしeGFR(注2)<15mL/min/1.73 m²の進行例では、尿蛋白の変化と末期腎不全リスクとの関連が弱まる傾向があるため、尿アルブミンの変化を併用することが望ましい。 |
【概要】
国立大学法人福井大学 学術研究院医学系部門(医学領域)腎臓病態内科学分野の遠山直志教授らの研究グループは、日本腎臓学会、協和キリン株式会社との共同研究である日本CKDコホート研究(CKD-JAC)のデータを用いて、尿蛋白クレアチニン比(UPCR)(注3)の2年間の30%減少が、尿アルブミンクレアチニン比(UACR)(注3)の30%減少と同等に、末期腎不全(透析や腎移植が必要な状態)(注4)への進行リスク低下と関連することを示しました。
尿アルブミンはCKD進行評価の確立したバイオマーカーであり、その普及・活用は引き続き重要な課題です。一方、日本では簡便かつ安価な尿蛋白測定が広く用いられています。本研究は中等度から進行したCKD患者を対象とし、このような段階において尿蛋白の変化が尿アルブミンの変化と同等に将来の腎不全リスクと関連することを、日本人大規模コホートで初めて体系的に示したものであり、CKDの臨床試験のサロゲートエンドポイント設計や、日常診療での予後評価への応用が期待されます。
本研究成果は、令和8年6月29日(日本時間)に、国際学術誌「Nephrology Dialysis Transplantation」に掲載されました。
Ⅰ 研究の背景と経緯 尿アルブミンはCKD進行評価の確立したバイオマーカーであり、その普及・活用は引き続き重要な課題です。一方、日本では簡便かつ安価な尿蛋白測定が広く用いられています。本研究は中等度から進行したCKD患者を対象とし、このような段階において尿蛋白の変化が尿アルブミンの変化と同等に将来の腎不全リスクと関連することを、日本人大規模コホートで初めて体系的に示したものであり、CKDの臨床試験のサロゲートエンドポイント設計や、日常診療での予後評価への応用が期待されます。
本研究成果は、令和8年6月29日(日本時間)に、国際学術誌「Nephrology Dialysis Transplantation」に掲載されました。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)は日本人成人の約5人に1人が罹患するとされる国民的疾患であり、進行すると透析や腎移植が必要な末期腎不全に至ります。末期腎不全に至るまでには長期間を要することから、CKDの臨床試験や観察研究では、末期腎不全の「代わり」となるサロゲートマーカーが重要視されています。
これまでに、尿アルブミンクレアチニン比(UACR)の短期間の変化が、将来の末期腎不全の発生と強く関連することが示され、国際的な臨床試験でサロゲートマーカーとして採用されてきました。一方、日本をはじめアジア・欧州の一部の国では、日常診療においてアルブミン尿ではなく尿蛋白(UPCR)の測定が広く行われています。これは、尿蛋白測定のほうが簡便かつ安価であることや、保険診療上の制約があることなどによります。
しかし、同一集団においてUPCRとUACRを直接比較し、短期間の変化が末期腎不全リスクと同等に関連するかを検討した研究は限られていました。
本研究では、日本CKDコホート研究(CKD-JAC)の参加者のうち、ベースラインおよび2年後の尿アルブミン・尿蛋白のデータが揃っていた603名を解析対象としました。平均年齢は60歳、平均eGFRは29 mL/min/1.73 m²、UPCR中央値は0.81 g/gCr、UACR中央値は601 mg/gCrでした。中央値4.9年の追跡期間中に、245名(40.6%)が末期腎不全へ進行しました。
UPCRおよびUACRの2年間の30%減少と、その後の末期腎不全の発生リスクの関連をCox比例ハザードモデルで解析した結果、以下の点が示されました。
① 2年間のUPCRの30%減少は、末期腎不全の発生リスクの有意な低下と関連しました(ハザード比 0.52、95%信頼区間 0.38–0.71)。
② 2年間のUACRの30%減少も、同等のリスク低下と関連しました(ハザード比 0.58、95%信頼区間 0.41–0.82)。
③ サブグループ解析では、eGFR<15 mL/min/1.73 m²の進行例において、UPCRの変化と末期腎不全リスクとの関連がUACRの変化に比べて弱まる傾向がみられました。
さらに1年間のUPCRの30%減少も、その後の末期腎不全の発生リスクの低下と有意に関連することが示され、より短い観察期間でも尿蛋白の変化がサロゲートマーカーとして活用できる可能性が示されました。
UPCRおよびUACRの2年間の30%減少と、その後の末期腎不全の発生リスクの関連をCox比例ハザードモデルで解析した結果、以下の点が示されました。
① 2年間のUPCRの30%減少は、末期腎不全の発生リスクの有意な低下と関連しました(ハザード比 0.52、95%信頼区間 0.38–0.71)。
② 2年間のUACRの30%減少も、同等のリスク低下と関連しました(ハザード比 0.58、95%信頼区間 0.41–0.82)。
③ サブグループ解析では、eGFR<15 mL/min/1.73 m²の進行例において、UPCRの変化と末期腎不全リスクとの関連がUACRの変化に比べて弱まる傾向がみられました。
さらに1年間のUPCRの30%減少も、その後の末期腎不全の発生リスクの低下と有意に関連することが示され、より短い観察期間でも尿蛋白の変化がサロゲートマーカーとして活用できる可能性が示されました。
Ⅲ 今後の展開
本研究は、日常診療で広く測定されている尿蛋白の変化が、尿アルブミンの変化と同等にCKDの将来リスクと関連することを、日本人コホートを用いて初めて体系的に示したものです。日本では保険診療上の制約から尿蛋白測定が広く用いられている現状があり、本研究はそのような状況下でも尿蛋白の変化が有用なマーカーとなり得ることを示したものです。本研究成果は、今後のCKD臨床試験におけるエンドポイント設計や、日常診療における予後評価の実装に寄与することが期待されます。
一方で、本研究ではeGFR<15の進行例において、尿蛋白の変化と末期腎不全リスクとの関連が弱まる傾向が示されました。この集団では尿アルブミンの変化を用いる、あるいは両者を補完的に用いることが望ましい可能性があります。今後、より多様な人種・病態を含む国際コホートでの検証を通じて、UPCR変化のサロゲートマーカーとしての位置づけをさらに明確化することが期待されます。
本研究は、日常診療で広く測定されている尿蛋白の変化が、尿アルブミンの変化と同等にCKDの将来リスクと関連することを、日本人コホートを用いて初めて体系的に示したものです。日本では保険診療上の制約から尿蛋白測定が広く用いられている現状があり、本研究はそのような状況下でも尿蛋白の変化が有用なマーカーとなり得ることを示したものです。本研究成果は、今後のCKD臨床試験におけるエンドポイント設計や、日常診療における予後評価の実装に寄与することが期待されます。
一方で、本研究ではeGFR<15の進行例において、尿蛋白の変化と末期腎不全リスクとの関連が弱まる傾向が示されました。この集団では尿アルブミンの変化を用いる、あるいは両者を補完的に用いることが望ましい可能性があります。今後、より多様な人種・病態を含む国際コホートでの検証を通じて、UPCR変化のサロゲートマーカーとしての位置づけをさらに明確化することが期待されます。
【参考図】
図1:
図1:

【用語解説】
(注1)サロゲートマーカー
臨床試験等で本来の評価項目(真のエンドポイント、ここではKFRT)の代替として用いられる指標。長期間の観察が必要な疾患では、短期間で評価可能なサロゲートマーカーが重要視される。
(注2)eGFR(推算糸球体濾過量)
腎臓のろ過機能を年齢・性別・血清クレアチニン値から推算した指標。数値が小さいほど腎機能が低下していることを示す。
(注3)UACR(尿アルブミンクレアチニン比)・UPCR(尿蛋白クレアチニン比)
尿中のアルブミンまたは蛋白の濃度を尿中クレアチニン濃度で補正した指標。蓄尿を必要とせず、随時尿(スポット尿)で測定できる。
(注4)末期腎不全(KFRT: Kidney Failure Requiring Replacement Therapy)
腎機能が著しく低下し、血液透析・腹膜透析・腎移植のいずれかの腎代替療法が必要となる状態。
【論文タイトル】
"Urinary Protein vs Albumin for Assessing Kidney Failure Risk in Chronic Kidney Disease: Findings from the CKD-JAC Study"
(日本語タイトル:「慢性腎臓病における腎不全リスク評価のための尿蛋白と尿アルブミンの比較 ― CKD-JAC研究からの知見」)
【著者】
Tadashi Toyama, Takahiro Imaizumi, Takayuki Hamano, Hirotaka Komaba,
Naohiko Fujii, Takeshi Hasegawa, Masahiko Ando, Masaomi Nangaku, Kosaku Nitta,
Yoshitaka Isaka, Takashi Wada, Shoichi Maruyama, Masafumi Fukagawa
遠山 直志(福井大学学術研究院医学系部門(医学領域)腎臓病態内科学分野教授)
今泉 貴広(名古屋大学大学院医学系研究科講師)
濱野 高行(名古屋市立大学大学院医学研究科教授)
駒場 大峰(東海大学医学部医学科内科学系腎内分泌代謝内科学教授)
藤井 直彦(兵庫県立西宮病院医療安全部長兼診療部腎臓内科部長)
長谷川 毅(昭和医科大学臨床疫学研究所所長・教授)
安藤 昌彦(名古屋大学医学部附属病院病院教授)
南學 正臣(東京大学大学院医学系研究科教授)
新田 孝作(東京女子医科大学 腎臓内科学客員教授)
猪阪 善隆(大阪大学大学院医学系研究科教授)
和田 隆志(金沢大学長)
丸山 彰一(名古屋大学大学院医学系研究科教授)
深川 雅史(東海大学医学部客員教授)
【発表雑誌】
雑誌名「Nephrology Dialysis Transplantation」(ネフロロジー ダイアライシス トランスプランテーション)
(令和8年6月29日14時にオンライン掲載予定)
DOI番号:10.1093/ndt/gfag122
【配信先】
文部科学記者会、科学記者会、福井県教育・スポーツ記者クラブ、名古屋教育医療記者会、
大阪科学・大学記者クラブ、名古屋教育記者会、厚生日比谷クラブ、本町記者会、厚生労働記者会
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
遠山 直志(とおやま ただし)
国立大学法人福井大学 学術研究院医学系部門(医学領域)腎臓病態内科学分野
〒910-8507 福井市文京3丁目9番1号
TEL:0776-61-8478 E-mail:ttoyama@u-fukui.ac.jp
猪阪 善隆(いさか よしたか)
国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
〒565-0871 吹田市山田丘2番2号
TEL:06-6879-3857 E-mail:isaka@kid.med.osaka-u.ac.jp
(報道担当)
国立大学法人福井大学 広報センター
〒910-8507 福井市文京3丁目9番1号
TEL:0776-27-9733 E-mail:sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp
名古屋市立大学 病院管理部経営課
〒467-8602愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地
TEL:052-858-7529
E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp
学校法人昭和医科大学 総務部総務課 大学広報係
〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8
TEL:03-3784-8059 E-mail:press@ofc.showa-u.ac.jp
学校法人東京女子医科大学 総務部広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8番1号
TEL:03-3353-8111 E-mail:kouhou.bm@twmu.ac.jp
名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係
TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785
E-mail:iga-sous@t.mail.nagoya-u.ac.jp
東海大学医学部付属病院事務部事務課(広報)
〒259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋143
TEL: 0463-90-2001 E-mail: prtokai@tokai.ac.jp
遠山 直志(とおやま ただし)
国立大学法人福井大学 学術研究院医学系部門(医学領域)腎臓病態内科学分野
〒910-8507 福井市文京3丁目9番1号
TEL:0776-61-8478 E-mail:ttoyama@u-fukui.ac.jp
猪阪 善隆(いさか よしたか)
国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
〒565-0871 吹田市山田丘2番2号
TEL:06-6879-3857 E-mail:isaka@kid.med.osaka-u.ac.jp
(報道担当)
国立大学法人福井大学 広報センター
〒910-8507 福井市文京3丁目9番1号
TEL:0776-27-9733 E-mail:sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp
名古屋市立大学 病院管理部経営課
〒467-8602愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地
TEL:052-858-7529
E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp
学校法人昭和医科大学 総務部総務課 大学広報係
〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8
TEL:03-3784-8059 E-mail:press@ofc.showa-u.ac.jp
学校法人東京女子医科大学 総務部広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8番1号
TEL:03-3353-8111 E-mail:kouhou.bm@twmu.ac.jp
名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係
TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785
E-mail:iga-sous@t.mail.nagoya-u.ac.jp
東海大学医学部付属病院事務部事務課(広報)
〒259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋143
TEL: 0463-90-2001 E-mail: prtokai@tokai.ac.jp
2026年06月22日 「大学見本市2026~イノベーション・ジャパン」に出展します

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する展示会「大学見本市2026~イノベーション・ジャパン」において、医学部病理学 教授 倉田 厚先生の研究シーズの出展が決定いたしました。
本展示会は、全国の大学・研究機関が有する最先端の技術シーズを一堂に集め、産学連携・共同研究の促進を目的として開催されるものです。
ご関心をお持ちの皆さまにおかれましては、ぜひ会場にお越しいただき、本学の研究内容に直接触れていただければ幸いです。
■ 開催概要
展示会名:大学見本市2026~イノベーション・ジャパン
開催日:2026年8月27日(木)、28日(金)
会場:東京ビッグサイト 南展示棟 南1ホール(東京都江東区有明)
【展示内容】
出展分野:健康・医療
出展タイトル:梅毒トレポネーマ培養成功、診断洗練やワクチン開発へ
代表研究者:倉田 厚(医学部病理学 教授)
代表研究者:倉田 厚(医学部病理学 教授)
ブース番号:H-084
※開催1日目の11:49からピッチステージBにて、ショートプレゼンテーション(5分)も行います。
※展示会の公式サイトは、7月中旬にオープン予定です。
※展示会の公式サイトは、7月中旬にオープン予定です。
2026年06月08日 2027年度(令和9年度)医学部・看護学部の学納金改定(減額)および入学金に係る学生の負担軽減のお知らせ
学校法人 東京女子医科大学
2027年度(令和9年度)医学部・看護学部の学納金改定(減額)および
入学金に係る学生の負担軽減のお知らせ
学校法人 東京女子医科大学(東京都新宿区/理事長清水 治)は、2027年度(令和9年度)入学者および在学生を対象とした医学部・看護学部の学納金改定(減額)、および文部科学省からの「私立大学における入学料に係る学生の負担軽減等について」の通知を受け、学生の経済的負担軽減に向けた措置を講じることといたしました。つきましては、以下の通り詳細をご案内いたします。
1.学納金(授業料・入学金等)の改定(減額)について
2027年度(令和9年度)以降の新入生および在学生の全員を対象として、学納金の入学金および授業料の減額改定を行います。
(1)医学部
初年度納入金:改定後の入学金1,600,000円(現行 2,000,000円から 400,000円減額)
改定後の授業料2,500,000円(現行2,800,000円から300,000円減額)
※初年度は合わせて700,000円減額
2年目以降(年額):改定後の授業料2,500,000円(現行2,800,000円から300,000円減額)
6年間の減額:現行から計 2,200,000円の負担軽減となります。
(2)看護学部
初年度納入金:改定後の入学金400,000円(現行450,000円から50,000円減額)
改定後の授業料1,020,000円(現行1,100,000円から80,000円減額)
※初年度は合わせて130,000円減額
2年目以降(年額):改定後 1,675,000円(現行 1,755,000円から 80,000円減額)
4年間の減額:現行から計 370,000円の負担軽減となります。
2.入学金に係る学生の負担軽減について
受験生の皆様の併願や進路選択における経済的負担を軽減するため、文部科学省の通知を受けて
以下の通り対応いたします。
(1)入学金を減額いたします。
医学部:改定後1,600,000円(現行2,000,000円から400,000円減額)
看護学部:改定後400,000円(現行450,000円から50,000円減額)
(2)入学手続き後、期限までに入学を辞退した方に対し、入学金の一部(半額)を返還いたします。
対象学部:医学部および看護学部
入試種別:一般選抜
適用条件:2027年度(令和9年度)入学試験に合格し、所定の入学手続きを完了された方のうち、
期日までに入学辞退の申請を完了された方
返還金額:医学部800,000円 (入学金 1,600,000円の2分の1)
看護学部200,000円 (入学金 400,000円の2分の1)
申請期日:2027年(令和9年)3月20日(土)まで
以上
2026年06月03日 【プレスリリース】末梢神経損傷後の視床ニューロンの過興奮を遠隔性に調節するミクログリアと抑制性メカニズムの解明
学校法人 東京女子医科大学
末梢神経損傷後の視床ニューロンの過興奮を遠隔性に調節する
ミクログリアと抑制性メカニズムの解明
| Point
● 末梢神経の切断後、視床ニューロンは過興奮しやすい状態に変わっていました。この変化には膜電位の過分極化、入力抵抗の減少、HCNチャネルの機能低下が関与していました。
● この視床ニューロンの状態変化には、末梢神経切断後の視床ニューロンにおける持続性抑制性入力の増強が必要でした。 ● 末梢神経切断は視床へ感覚情報を送る脳幹領域でミクログリア凝集を引き起こしますが、このミクログリアは視床ニューロンの発火特性変化だけでなく、視床の持続性抑制の増強にも必要でした。 ● よって、末梢神経切断は、(1)損傷神経が入力する脳幹領域でのミクログリア凝集・活性化、(2)視床ニューロンでの持続性抑制増強、(3)視床ニューロンの膜特性の変化を介して、視床ニューロンが過興奮となりやすい状態に変えることが示唆されました。 ● 末梢神経損傷に伴うこの連鎖的な変化は、直接損傷を受けない脳神経回路機能の可塑的変化を引き起こし、神経障害性疼痛の発現に関わる感覚伝導路の過興奮に寄与すると考えられます。 |
末梢神経損傷後のアロディニア(通常は痛みとならない程度の弱い刺激が痛みとなる)や、四肢切断後に高頻度で生じる幻肢痛のような神経障害性疼痛は、末梢部が治癒した後も長く持続される難治性の慢性疼痛です。罹患率は数%が見込まれており、本邦でも数百万人規模の患者がいると推定されています。痛みの発現には末梢の損傷で誘導される中枢神経回路や機能の可塑的変化が関与します。その一つとして、脳や脊髄の過興奮によって痛みの信号が増強される中枢性感作と呼ばれる変化があります。これまで、国内外で脊髄の中枢性感作や、それを引き起こすメカニズムについての研究が盛んに進められてきました。一方、脊髄の研究と比較すると、より上位の中枢神経系である脳における中枢性感作のメカニズムは不明な点が多く残されています。特に、末梢部での変化が、どのようなメカニズムで直接損傷を受けない中枢神経系に変化をもたらすのかはまだよくわかっていませんでした。
末梢神経損傷のモデルとして、ヒゲ感覚を支配する眼窩下神経(三叉神経の枝)を切断したマウスを用いました。マウスのヒゲ感覚は眼窩下神経→脳幹→視床→大脳皮質の順番に伝達されます。この中で、視床は脳幹からの入力を大脳皮質に中継する役割を持ちます。視床ニューロンは持続的かつリズミックな活動電位の発生となるトニック発火と、短い間に高頻度の活動電位が連発するバースト発火の二つの発火モードの遷移によって大脳皮質への出力を調整しています。発火モードの遷移には膜電位が関係しており、視床ニューロンの膜電位が脱分極側に移行するとトニック発火が、過分極側に移行するとバースト発火が表れやすくなることが知られています。また、視床ニューロンでバースト発火が増強すると、大脳皮質により強い興奮を引き起こすと考えられています。
実際の実験では、眼窩下神経を切断したマウスの脳スライス標本を作製し、細胞が生きている状態で単一の視床ニューロンからホールセル・パッチクランプ法により電気応答を記録しました。神経切断2/3日後から1週間後にかけ、体性感覚視床ヒゲ領域のニューロンの静止膜電位は過分極側に移行し、入力抵抗は低下していました。この状態のニューロンは、活動電位が発生する閾値まで膜電位が脱分極するのに強い入力が必要になります。ニューロンに長い(1秒)の持続した脱分極電流を注入すると、正常マウスに比べ、神経切断マウスのニューロンではバースト発火が生じる確率が増えました。バースト発火の後は活動電位が発生しにくくなるため、神経切断マウスでは、1秒間の脱分極刺激の間に発生する活動電位の頻度も低下し、リズミックな活動電位が生じにくくなっていました(図1)。
実際の実験では、眼窩下神経を切断したマウスの脳スライス標本を作製し、細胞が生きている状態で単一の視床ニューロンからホールセル・パッチクランプ法により電気応答を記録しました。神経切断2/3日後から1週間後にかけ、体性感覚視床ヒゲ領域のニューロンの静止膜電位は過分極側に移行し、入力抵抗は低下していました。この状態のニューロンは、活動電位が発生する閾値まで膜電位が脱分極するのに強い入力が必要になります。ニューロンに長い(1秒)の持続した脱分極電流を注入すると、正常マウスに比べ、神経切断マウスのニューロンではバースト発火が生じる確率が増えました。バースト発火の後は活動電位が発生しにくくなるため、神経切断マウスでは、1秒間の脱分極刺激の間に発生する活動電位の頻度も低下し、リズミックな活動電位が生じにくくなっていました(図1)。

図1.眼窩下神経切断後の視床ニューロンの膜・発火特性の変化
視床ニューロンのバースト発火には複数のイオンチャネルの関与が知られています。代表例として、伝依存性カルシウムチャネルがありますが、眼窩下神経切断後も、その電流自体には大きな変化はありませんでした。活動電位が発生すると、その後で膜電位の再分極、過分極に続いて再度の脱分極に移行することで、リズミックな活動電位が持続します。この過程には、過分極で開口し、陽イオン(ナトリウムイオンやカリウムイオン)を細胞内に通すことで脱分極を促進するHCNチャネル(*)が関与します。実験的には、ニューロンに過分極電流を注入した際、膜電位が脱分極側に振れる応答から、HCNチャネルの働きを推定できます。眼窩下神経切断後、視床ニューロンでは過分極電流注入によるHCNチャネルの応答が小さくなっていました。また、膜電位固定法により直接HCNチャネル電流を計測すると、眼窩下神経切断後の視床ニューロンでは、膜電位がより過分極側に移行しないとHCNチャネルが開口しにくくなっているHCNチャネルの機能低下が認められました。眼窩下神経切断後のニューロンでは膜電位が過分極化します。これは、低閾値活性型(T型)の電位依存性カルシウムチャネルの脱不活性化に必要で、そこから膜電位が脱分極側に移行すると開口し、脱分極をブーストすることでバースト発火を引き起こすことができます。ただ、HCNチャネルの機能低下のため、活動電位後の再分極、過分極から脱分極への揺り戻しが損なわれ、リズミックに持続する活動電位が生じにくい状態になっていると考えられました。
我々は以前に眼窩下神経切断後の視床ではシナプスの外側に局在するGABAA受容体を介した持続性抑制が増強すること(Nagumo et al, Cell Rep, 2020)、一方、視床に感覚情報を送る脳幹領域では脳の免疫細胞であるミクログリア(グリア細胞の一種)が凝集することを報告していました(Ueta and Miyata, Cell Rep, 2021)。持続性抑制は持続的な細胞内への塩化物イオン流入を引き起こし、膜電位を過分極化させるため、視床ニューロンの膜・発火特性の変化に寄与している可能性が考えられました。そこで、シナプス外GABAA受容体発現を視床ニューロンから取り除く遺伝子改変マウスを用いて調べたところ、このマウスでは眼窩下神経切断による視床ニューロンの膜・発火特性の変化は起こりませんでした。次に、ミクログリアの増殖シグナルを阻害する薬剤をマウスに与え、脳全体からミクログリアを除去した状態でも、眼窩下神経切断による視床ニューロンの膜・発火特性の変化は生じなくなっていました。また、このミクログリアが除去された状態では、眼窩下神経切断による視床ニューロンでの持続性抑制増強は起こりませんでした。ミクログリアは神経活動を制御する役割を持ちます。一方、眼窩下神経切断後のミクログリア凝集は脳幹領域特異的に起こります。そこで、視床または脳幹局所的にミクログリアのアポトーシスを誘導したところ、視床ではなく、脳幹のミクログリア除去で眼窩下神経切断後の視床の持続性抑制増強を抑えることができました。これらの結果から、眼窩下神経切断は、損傷神経が入力する脳幹領域でミクログリアを活性化し、その影響が視床の持続性抑制増強を介して視床ニューロンの内在的特性を変え、視床ニューロンでバースト発火が生じやすい状態を作り出していると考えられます(図2)。

図2.体性感覚経路上のミクログリアと抑制性入力の連鎖的な変化による視床ニューロン発火の制御
Ⅲ 今後の展開
今回、脳幹領域のミクログリアが遠隔性に視床ニューロンの発火モード遷移を引き起こすメカニズムを明らかにしました。末梢神経損傷後の中枢性感作を制御するには、ミクログリア、シナプス外GABAA受容体、HCNチャネルなどの細胞や分子が治療標的となる可能性があります。特にミクログリアの活動を制御できれば、脳幹より上位の変化を抑えることができる可能性があります。これまで多くの国内外の様々な急性疼痛および慢性疼痛の研究で、ミクログリアは脊髄や脳の中枢性感作など、可塑的変化を制御する因子として注目され、実験動物レベルでは再現性良く疼痛を抑える標的細胞であることが報告されています。しかし、ミクログリアは非常に多面的な性質を持ち、神経系の様々な調節に関与するため、ミクログリア自体をなくしてしまうアプローチは、実際の患者への治療としては難しい側面があります。今回の研究でも、脳幹のミクログリア依存的な視床の持続性抑制調節が重要であることはわかりましたが、ミクログリアと持続性抑制の変化を繋ぐメカニズムは不明のままです。今後、ミクログリアと神経系の機能連関を担うより限局した分子メカニズムを明らかにすることで、より限局した分子標的治療を実現できる可能性があると考えています。
今回、脳幹領域のミクログリアが遠隔性に視床ニューロンの発火モード遷移を引き起こすメカニズムを明らかにしました。末梢神経損傷後の中枢性感作を制御するには、ミクログリア、シナプス外GABAA受容体、HCNチャネルなどの細胞や分子が治療標的となる可能性があります。特にミクログリアの活動を制御できれば、脳幹より上位の変化を抑えることができる可能性があります。これまで多くの国内外の様々な急性疼痛および慢性疼痛の研究で、ミクログリアは脊髄や脳の中枢性感作など、可塑的変化を制御する因子として注目され、実験動物レベルでは再現性良く疼痛を抑える標的細胞であることが報告されています。しかし、ミクログリアは非常に多面的な性質を持ち、神経系の様々な調節に関与するため、ミクログリア自体をなくしてしまうアプローチは、実際の患者への治療としては難しい側面があります。今回の研究でも、脳幹のミクログリア依存的な視床の持続性抑制調節が重要であることはわかりましたが、ミクログリアと持続性抑制の変化を繋ぐメカニズムは不明のままです。今後、ミクログリアと神経系の機能連関を担うより限局した分子メカニズムを明らかにすることで、より限局した分子標的治療を実現できる可能性があると考えています。
Ⅳ 謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費:20H05916, 21K06444, 23H02592, 25K09856)、およびブレインサイエンス振興財団、武田科学振興財団、金原一郎記念医学医療振興財団、住友財団、中冨健康科学振興財団の支援を受けて実施されました。
【お問い合わせ先】
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費:20H05916, 21K06444, 23H02592, 25K09856)、およびブレインサイエンス振興財団、武田科学振興財団、金原一郎記念医学医療振興財団、住友財団、中冨健康科学振興財団の支援を受けて実施されました。
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
植田 禎史(ウエタ ヨシフミ)
東京女子医科大学 医学部 生理学講座細胞生理学部門 講師
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel&Fax:03-3353-8112
E-mail: yueta@twmu.ac.jp
宮田 麻理子(ミヤタ マリコ)
東京女子医科大学 医学部 生理学講座神経生理学分野 教授
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel&Fax:03-3353-8112
E-mail: mmiyata@twmu.ac.jp
<報道担当>
東京女子医科大学 広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel:03-3353-8111 Fax:03-3353-6793
E-mail: kouhou.bm@twmu.ac.jp
【プレス情報】
1.掲載誌名: Progress in Neurobiology
2.論文タイトル: Peripheral nerve injury increases the probability of thalamocortical burst firing remotely via microglia-dependent enhancement of tonic inhibition
3.著者名: Yoshifumi Ueta*, Mariko Miyata*
(*はcorresponding author、アンダーラインは本学所属の著者)
4.DOIコード: 10.1016/j.pneurobio.2026.102923
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo): 2026年5月5日
植田 禎史(ウエタ ヨシフミ)
東京女子医科大学 医学部 生理学講座細胞生理学部門 講師
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel&Fax:03-3353-8112
E-mail: yueta@twmu.ac.jp
宮田 麻理子(ミヤタ マリコ)
東京女子医科大学 医学部 生理学講座神経生理学分野 教授
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel&Fax:03-3353-8112
E-mail: mmiyata@twmu.ac.jp
<報道担当>
東京女子医科大学 広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel:03-3353-8111 Fax:03-3353-6793
E-mail: kouhou.bm@twmu.ac.jp
【プレス情報】
1.掲載誌名: Progress in Neurobiology
2.論文タイトル: Peripheral nerve injury increases the probability of thalamocortical burst firing remotely via microglia-dependent enhancement of tonic inhibition
3.著者名: Yoshifumi Ueta*, Mariko Miyata*
(*はcorresponding author、アンダーラインは本学所属の著者)
4.DOIコード: 10.1016/j.pneurobio.2026.102923
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo): 2026年5月5日


