認知症患者は現在本邦において全国で推定169万人を超え2015年には250万人に達すると言われている(2005年厚生労働省推計)。65歳以上の高齢者の13人に1人、85歳以上の超高齢者の実に4人に1人が認知症と考えられる。今後有効な治療薬(β、γセクレターゼ阻害薬、Aβワクチンなど)が臨床に登場する状況にある現在、認知症の早期診断、早期介入は緊急の課題である。これまでに認知症診断に関しては、従来から行われている神経学的/神経心理学的評価、MRIなどの形態画像やSPECT/PETなどの機能画像、髄液中のアミロイド蛋白やτタンパクの検出などが有用であることがわかっている。この中で非侵襲的なPET画像診断に特に期待がかかっている。 認知症患者のうち、約50−60%程度がAlzheimer病 (AD)であり、びまん性Lewy小体病 (DLB) と前頭側頭型認知症 (FTD) はそれぞれ15-25%にあたる。AD患者では典型的には後部帯状回と頭頂側頭葉皮質、そして進行期には前頭葉の糖代謝の低下もみられる。それに比較してFTDでは主に前頭葉と側頭葉前方部の糖代謝低下が初期からみられ、DLBでは頭頂後頭皮質を含む後方領域の低下がみられるとされる1)。内側側頭葉、特に海馬領域はAD群において特に高度に糖代謝低下がみられる。 FDG-PETを用いた検査にて、将来のADへの進展をMCI(軽度認知障害・Mild Cognitive Inpairment)の段階で予測できることが既に示されている。現在本邦では多施設共同前向きコホート研究であるSEAD-J(Study on Diagnosis of Early AD-Japan)ならびに米国のADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)をモデルとしたJ-ADNIが走っている。従って、数年のうちに核医学検査の有用性が、これらの前向き臨床研究により確認されることになろう。 このような点で、米国FDAでは2004年より、Alzheimer病と前頭型認知症の鑑別においてFDGの認可がなされている。現在本邦では、FDG-PETの脳への保険適応に関しては、脳腫瘍と手術を前提としたてんかんに限られている。従ってADなどの認知症や、脊髄小脳変性症やParkinson病などの神経変性疾患に対する本検査は自由診療の扱いとなっている。本邦でも早期の保険適応が望まれる。 しかしFDG-PETも万能なわけではなく、Mosconiら2)によると、FDG-PETではDLBの29%、FTDの35%がAD類似の画像変化を呈していたとされ、ADのDLBやFTDからの鑑別能が、sensitivityは90%以上と高いものの、specificity はDLB 71%, FTD 65%と低かったと報告している。今後は脳機能低下を反映する糖代謝をみるFDG-PETから一歩すすめて、ADの原因とされるβアミロイドの沈着自体を観察するAmyloid imagingにも期待がかかっている3)。