東京女子医科大学卒後研修プログラムの骨子

東京女子医科大学病院卒後臨床研修管理委員会


1.臨床研修の理念と特徴
 医師法(昭和23年法律第201号)第16条の2第1項に規定する臨床研修に基づいて、医師としての人格を
涵養することができる研修を目指し、将来の専門性にかかわらず、医学・医療の社会的ニーズを認識しつ
つ、日常診療で頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的な診療能
力(態度、技能、知識)を身に付けることができる内容をもった研修を行う。
 そのため、複数の診療科をローテートすることにより、すべての研修医が基本的な臨床能力を習得し、
適切なプライマリ・ケアを実行しうる臨床医として研修を深めるのを目的として、プログラムを作成した。
同時に、本学の専門性を活かした将来の志望臨床科を視野に入れ、一部は選択制を取り入れた。

2.プログラムの名称と臨床研修病院の指定方法
 名称:東京女子医科大学病院卒後臨床研修プログラム
 開始年度:平成17年4月(医師国家試験の日程による)
 臨床研修病院群:東京女子医科大学病院(以下本院という)を管理型臨床研修病院とし、学校法人に関
         連する病院を協力型臨床研修病院とする臨床研修病院群を形成する。東京女子医科大
         学附属第二病院は独立した管理型臨床研修病院として指定を受け、独自に研修医を募
         集するが、本院と相互に協力型臨床研修病院となる。
          管理型臨床研修病院  東京女子医科大学病院(本院)
          協力型臨床研修病院  東京女子医科大学病院付属第二病院
          協力型臨床研修病院  東京女子医科大学病院附属青山病院
          協力型臨床研修病院  社団法人至誠会第二病院
          協力型臨床研修病院  立正佼成会附属佼成病院
         研修協力施設として、新宿区保健所、中野区保健所、世田谷区保健所、東京女子医科
         大学附属成人医学センター、東京女子医科大学病院附属膠原病リウマチ痛風センター、
         新宿恒心クリニック、聖美会多摩中央病院、秦野厚生病院、埼玉県済生会栗橋病院、
         聖母会聖母病院などの他、若干の施設を予定している。

3.プログラムの管理・運営組織
 研修の最終責任者は、東京女子医科大学病院長であり、研修修了の認定は病院長が行う。第二病院では
独自に研修修了の認定を行う。
 病院長のもとに、実効のある卒後臨床研修を実施するため、卒後臨床研修管理委員会(以下「委員会」
という)を設置する。
 1)委員会は卒後臨床研修プログラムの作成・運営(オリエンテーションの企画・実施)、臨床研修病
  院群の形成、研修協力施設との協議・連絡、委員会のもとに設置される卒後臨床研修センター(以下
  「センター」という)の管理・運営、研修内容の管理と実績の評価、研修医の処遇に関する対策など
  の業務を行う。
 2)センターは研修医の受け入れと登録、研修カリキュラムの調整と管理、研修の評価に関する資料の
  作成等の業務を行う。
 3)卒前教育との整合性の検討、初期臨床研修後の研修体制の立案・運営や、研修プログラムの評価な
  ど、卒後臨床研修体制全体に関する問題は本学の卒後教育委員会が審議する。

4.研修医の募集
 あらかじめ卒後臨床研修プログラムを公開し、全国に公募する。受験受付開始は6月初旬とする。応募
の窓口は卒後臨床研修センターとする。
 1)研修医の定員について:
  臨床研修病院群として許容される約210名の中、1学年当たり90名を採用する。
  (注)東京女子医科大学病院付属第二病院は独立した管理型臨床研修病院として、独自に研修医を採
    用する。
  各施設の臨床研修プログラムは本院の臨床研修管理委員会が管理し、基本的には同一のカリキュラム
  に従う。
 2)研修医の選抜方法について:
  (1)本学での研修を希望する研修医は所定の書式を用いて受験を申請する。センターでは複数の試験日
   時を設定し(夏期休暇期間中を予定)、研修医は指定された複数の試験日から可能な日を選択し受
   験する。
  (2)センターは簡単な筆記試験、必要があれば小論文、面接による試験を行い採否を判断し、病院とし
   ての採用希望順位を決定する。
  (3)厚生労働省のマッチング実施機関に参加し、上記試験による採用希望順位を提出し、実施機関の決
   定を待って採否を最終決定する。
 3)臨床研修終了後の進路について:
  初期臨床研修の必修化を定着させるために、受験者には研修医としての合否に関わらず、初期臨床研
  修終了後の進路についての情報を提示する。

5.研修プログラムの実際とローテーションの原則
 まだ流動的な部分が少なくないが、基本的には研修医の選択権を尊重した統一プログラムでローテーショ
ン研修を実施する。終了時の評価で必修となる研修内容を達成するために、24ヶ月の臨床研修期間中、開
始3ヶ月までの基礎研修を含む12ヶ月を必須研修、4ヶ月を選択必須研修、残りの8ヶ月を選択研修期間
に充てる。
・卒後臨床研修計画作成手順:別紙参照
 研修開始直後の3ヶ月間を基礎研修期間とし、内科、外科もしくは救急分野の研修を充てる。その中には
オリエンテーションと基本手技を習得するための約1ヶ月を含む。その後の15ヶ月間に、8診療科(分野)
をコアカリキュラムとする研修を集中して実施する。基礎研修期間を含む、内科6ヶ月、外科3ヶ月及び救
急部門(麻酔科とICUを含む)3ヶ月を必須研修とし、研修1年目に終了することを原則とする。
 小児科、産婦人科、精神科、地域保険・医療の4ヶ月を選択必須研修とする。何れかの分野で3ヶ月間の
研修を希望する場合は選択研修期間で優先的に配分する。残る8ヶ月間は選択研修とし、研修医の判断に従
って研修不充分な内容の補填や将来の専門分野への研修を開始する。研修診療科は研修医が原則選択するが、
研修の実効を挙げるため研修ローテーションの順番は許される範囲内で研修センターが調整を行う。
 原則として研修期間全体の8ヶ月間以上は研修管理委員会を設置する東京女子医科大学病院において研修
を行う。
 研修協力施設(地域保険・医療など)での研修は原則として3ヶ月以内とする。
 研修期間全体を通じ、各科症例検討会、全学CPC、研修セミナーへ一定以上出席することを必須とする。
 研修科目の選択研修分野は1年目の11月末日までにセンターへ希望申告する。
 3年目以降の進路を研修開始2年目の9月までにセンターへ報告すると同時に、研修の達成度を自己評価
し、その後の卒後臨床研修が円滑に継続出来るよう指導を受けることができる。
 1)基礎研修(3ヶ月、必須研修に含まれる)
   研修開始1ヶ月間で、他学出身者が円滑に研修を実施できるよう、また診療行為に直接関与する最初
  の時期だけに医師の心構えを含むオリエンテーション及び最小限の基本手技を習得する。最初に配属さ
  れる診療科で研修を行い、その後の2ヶ月間も当該診療科で研修を継続する。研修を開始する最初の診
  療科として当院の指定する内科、外科もしくは救急診療の中から選択する。オリエンテーションはこれ
  までの延長線上にセンターと管理委員会が企画実施する。
 2)必須研修(12ヶ月)
   厚生労働省が指定するカリキュラム内容を経験するためには基礎研修を含め、内科6ヶ月、外科3ヶ
  月及び救急部門(麻酔科とICUを含む)3ヶ月を必須研修とする。ローテートする順番は収容可能な
  研修医数を参考にセンターが調整する。救急診療部門が第1・2次救急診療として充分な教育体制が取
  れない場合は、第3次救急を行う救急救命センターに所属して研修するか、一次診療外来もしくは救急
  外来での診療を経験する。場合によっては麻酔科やICUでの研修、さらに協力型臨床研修病院での救
  急診療もしくは一般診療でプライマリ・ケアを兼ねた研修を行う。
 3)選択必須研修(4ヶ月を原則とする)
   2年間の研修期間内で医師として習得すべき全てを研修するのは不可能であるが、医師としての視野
  を広め生涯研修の姿勢を学ぶために、以下の4領域を必須として研修する。厚生労働省の目安では4領
  域をそれぞれ3ヶ月としているが、研修医に選択権を持たせるという当初の考えを尊重し、基本的には
  最低1ヶ月の研修期間を設定する。1領域の3ヶ月研修を希望する場合は、選択研修の時期に優先的に
  割り振ることにする。
   小児科、産婦人科、精神科および地域保険・医療の4領域については、原則的に各領域を1ヶ月ずつ
  研修する。地域医療に代えて緩和医療や福祉施設を選択しても良い。いずれの形態であっても協力研修
  施設(地域保険・医療など)での標準研修期間は最長でも3ヶ月以内とする。
  (1)産婦人科:正常妊娠・分娩を経験し、新生児の成育過程を経験する。可能であれば女性特有な病態
   についても研修する。
  (2)小児科:小児に特有な症状の展開や回復の過程を体験する。
  (3)精神神経科:古典的な精神疾患に限らず、心身症や痴呆についても体験することが好ましい。
  (4)地域保健・医療:保健所、一次診療科、診療所、福祉・介護(緩和医療、社会福祉施設、介護老人
   施設)、僻地医療。
   研修指導体制をとれる施設の確保が困難な状況にあり、制度が定着するまでは成人医学センターと
   膠原病リウマチ痛風センターでの外来診療も対象とする。
 4)選択研修(8ヶ月)
   過去の16ヶ月では不充分と思われる研修の充実を図るために任意の選択が可能であり、研修目標に
  到達したと判断した研修医は将来の専門領域に向けての研修を開始することが可能である。この期間に
  臨床医として将来の基礎に寄与しうる病院病理科での研修も可能な体制を準備している。

6.研修指導体制
 研修医は研修期間中、病院長直轄の卒後臨床研修センターに所属し、希望する専門診療科の有無によらず
各診療科には属さない。
 1)指導体制:本学の卒後教育委員会は、全体構想に沿って初期臨床研修を円滑に実施するため、病院長
  と協議の上、卒後臨床管理委員会(「委員会」)を置く。委員会は必要な研修の事務的処理を効率的に
  行うため、卒後臨床研修センター(「センター」)を置く。それぞれの構成・業務については規程に従
  う。実務上必要があれば小委員会を設置する。
 2)指導医:実効ある卒後臨床研修を実施するためには積極的に取り組む指導医の存在が不可欠である。
  病院としてその養成に努力する。
  (1)研修指導医は診療部長が推薦する。7年以上の臨床経験を有し、プライマリ・ケアの指導が可能かつ
   情熱を持つ者を充てる。
  (2)臨床研修事項に関しては診療部長の了承のもとに研修指導医が優先的に決定するが、常に診療部長に
   報告しなければならない。診療上の最終責任は診療部長が負う。
  (3)研修は指導医リーダーを中心とし、受持医、研修医が診療チームを構成して行われる。
  (4)研修医は、オンライン卒後臨床評価システム(EPOC)により指導医の評価を行うことができるが、
   それにより研修医の評価が影響されることはない。指導医もそれにより任免の可否を問われることは
   ないが、指導医として不適切と考えられる点については委員会が具体的に改善点を指導する。
 3)医療安全:患者に安全な医療を提供することは、全ての医療機関にとって不可欠な要件である。本学
  では医療安全委員会が充分に機能しうる体制になっており、些細なインシデント、アクシデントレポー
  トでも重要な報告として認識し協力する。

7.研修医の処遇:
 東京女子医科大学病院の医員(研修医)として採用する。研修中はその身分を明らかにする措置を講じ、
病院は研修環境の整備に努力する。
 1)勤務体制と勤務時間、休暇:常勤。原則として8時間、週6日勤務。休暇については学校法人の決定
  に従う。医師という職業の特殊性から柔軟性が必要であり、詳細は各診療科が指示する診療業務に従う。
 2)給与:断片的な他大学及び研修病院の情報、本学の地理的条件を考慮し給与水準は下記の程度を考え
  る。他施設の基準を下回らないのを原則とするが、最終的には法人の決定する基準に従う(状況により
  変動が有り得る)。
    1年次  基本手当 \150,000 研修手当 \35,000
    2年次  基本手当 \170,000 研修手当 \35,000
    通勤手当 実費支給
    当宿直手当、住宅手当は病院の基準に従う
 3)保険関係:
  (1)健康保険は東京女子医科大学健康保険組合に加入する。
  (2)労災保険への加入を考慮している。
  (3)年金保険は厚生年金に加入する。雇用保険については適応外。
  (4)医師賠償責任保険:施設限定医師賠償責任保険の適応(任意保険への加入を勧める)。
 4)その他:白衣無償貸与(クリーニング病院負担)。

8.臨床研修の評価
 各研修医が必要不可欠な一定の研修レベルに到達していることを社会から理解し保証されるためには、第
三者機関による客観的評価が必要である。
 1)各診療科・施設での研修終了時には研修医および研修責任者が研修成績をオンライン卒後臨床評価シ
  ステム(EPOC)に入力する。以下の各項を中心に臨床研修の成果を評価する。
  (1)勤務状況の記録。当・宿直の記録。
  (2)各科症例検討会、全学CPC、研修セミナーへの出席状況。
  (3)退院時サマリー(手術記録を含む)の記載と提出状況。
  (4)行動目標の全般到達度(4段階評価)
  (5)経験すべき診察法・検査・手技の全般到達度(4段階評価)
  (6)経験すべき全科共通の症状・病態の経験度(必修20項目)
  (7)経験すべき研修各科の病態・疾患の経験度(必修30項目以上)
 2)研修期間中の一部を、センター管理外の研修施設もしくは海外研修機関で研修を行う場合は事前に連
  絡し、センターおよび臨床研修管理委員会の吟味により、研修として認めることができる。不適切と判
  断された場合は、選択研修の期間をそれに充てる。
 3)研修修了時に臨床研修管理委員会がオンライン卒後臨床評価システム(EPOC)などで総合的な評
  価を行い、病院長に上申する。病院長は研修を修了したと認定した研修医に対し、研修修了式において
  病院長名で研修修了認定証を授与する。

9.臨床研修プログラムの評価
 オンライン卒後臨床評価システム(EPOC)による施設およびプログラムの評価を参考に、実務につい
ては管理委員会が、全体構想については卒後教育委員会が改善の努力を行う。

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