陰茎がん

Penile cancer

疫学

陰茎がんは亀頭部や包皮に発生する悪性腫瘍です。先進国では非常に稀とされ、発生頻度は10万人に1人以下といわれています。日本では男性悪性腫瘍の1%以下とされ、60〜80歳の男性に多く見られます。

危険因子としては以下のものが言われています。

  • 生殖器の不衛生
  • 包茎(約10倍のリスク)
  • 喫煙(約3倍のリスク)
  • ヒト・パピローマウィルス(HPV)感染

HPVはヒトにだけ感染する最も小型なDNAウィルスで100種類以上のサブタイプ(遺伝子型)があります。陰茎がんをはじめ子宮頸がん、腟がんなど多くのがんに関与することが知られており、HPV関連がんに見られる最も多いサブタイプは16型, 18型といわれています。

症状

原発病変は浅いびらん、もしくは周囲が隆起した浅い潰瘍(かいよう)を示すことが多く、痛みなどは通常ありません。包茎が病変を隠し症状がわかりにくい場合が有るため注意が必要です。

また、羞恥心と性感染症ではないかといううしろめたさから受診をためらうことが多いことも特徴で注意が必要です。

診断

診察では視診が最も重要です。表在性でカリフラワー状の腫瘤(できもの)が特徴的です。多くは亀頭部、包皮に認めます。

梅毒や尖圭コンジローマなどの良性の腫瘤や皮膚の悪性腫瘍(乳房外パジェット病、悪性黒色腫、ボーエン病など)との鑑別が必要になります。

診断を確定するためには、組織を一部採取して検査する生検検査が必要になります。

血液検査では特徴的な所見はありませんが、進行がんでは腫瘍マーカーのSCCが高値となることもあります。

残念ながら陰茎がんと診断された場合、通常のレントゲン検査、CT検査などによりリンパ節転移や遠隔転移の有無を調べて病期(ステージ)診断を行います。

陰茎がんは鼡径部(足の付け根)のリンパ節に転移しやすいといわれており、リンパ節転移の有無は大きく予後に関係します。

初診時にリンパ節の腫れを約30~60%の患者さんに認めると報告されますが、その約半数は原発巣の感染によるといわれています。そのため、鼡径部のリンパ節が腫れている方には、感染による腫れかどうか、しばらく抗生物質を内服していただくことで診断することがあります。

病期分類(Jackson分類)

I期がんが亀頭部のみ、あるいは陰茎の皮膚のみに限局している
II期 がんが陰茎海綿体に浸潤しているが、転移がない
III期鼠径部のリンパ節に転移があるが、遠隔転移はなく根治手術可能
IV期鼠径部を越えて骨盤内のリンパ節に転移がある、あるいは他の臓器に転移があり根治手術不能

臨床病期分類(TNM2009)

原発腫瘍(T)
TX原発腫瘍の評価が不可能
T0原発腫瘍をみとめない
Tis上皮内がん
Ta疣贅性非浸潤がん
T1上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
T1a:脈管浸潤がなくグレード1-2
T1b:脈管浸潤があるかあるいはグレード3-4
T2尿道海綿体または陰茎海綿体に浸潤する腫瘍
T3尿道への浸潤
T4その他隣接臓器への浸潤
リンパ節転移(N)
NX所属リンパ節の評価が不可能
N0触知可能なまたは肉眼的に腫大した鼠径リンパ節なし
N1触知可能で可動性のある片側の鼠径リンパ節腫大
N2触知可能で可動性のある多発または両側の鼠径リンパ節腫大
N3触知可能な片側または両側の可動性の無い鼠径リンパ節腫瘤または骨盤リンパ節腫大
遠隔転移(M)
M0遠隔転移を認めない
M1遠隔転移を認める(小骨盤外へのリンパ節転移も含む)

治療方法

治療には大きく分けて手術療法、放射線治療、進行がんに対する化学療法(抗がん剤治療)がありますが、主体は手術による切除です。

  • 手術療法

    Jackson分類I,II,III期までが適応となります。陰茎を温存し病変部のみを治療する陰茎温存療法と、腫瘍から2cm以上の正常組織をつけて陰茎を切除する陰茎切断術に分けられます。

    陰茎温存療法にはレーザー治療や腫瘍の局所切除があります。以前は原則的に陰茎切断を行っていましたが、欧米のガイドラインでは陰茎温存の適応となる範囲が拡大されつつあります。最近のEAU(ヨーロッパ泌尿器科学会)のガイドラインでは一部の亀頭部に限局するT2まで適応に含まれています。

    T2以上、T1b(グレード3以上)では陰茎切断術を検討します。病変部から2cm以上離れて陰茎を切断するので、部分切断であっても陰茎は短縮します。また、病変の部位、浸潤度によっては陰茎全切断が必要になります。その場合、尿の出口が会陰部に変更されるため、座位での排尿が必要になります。

    また、陰茎がんでは原発巣に対する手術以外にリンパ郭清が必要となります。リンパ節腫大を認めた場合、まず4週間抗生剤投与を行い、その後リンパ節を再評価します。抗生剤投与にもかかわらず、リンパ節腫大が改善しない場合に、リンパ郭清をします。また、進行がんの方やリスクの高い方はリンパ節腫大の有無にかかわらず両側鼠径部リンパ郭清を行います。その結果により、必要なら骨盤内リンパ郭清も施行します。

  • 放射線療法

    放射線療法は初期の非常に限られた状態の腫瘍が適応になります。

    EAU(ヨーロッパ泌尿器科学会)のガイドラインでは亀頭部に限局するT1b(グレード3)およびT2までの4cm未満の病変に対して放射線治療が適応とされています。国内では体外照射が行われますが、欧米では小線源永久挿入も行われています。放射線療法は優れた治療成績が報告される一方で局所再発率は手術療法より高いと報告され、注意が必要です。

    放射線療法の合併症としては尿道狭窄(20~35%)、亀頭部壊死(10~20%)、遅発性の白膜繊維化などがあります。

  • 化学療法

    上皮内がんの場合、5-フルオロウラシル(5-FU)軟膏の塗布により効果が得られます。欧米では尖圭コンジローマ治療薬であるイミキモドクリームも用いられています。

    進行がん、転移がんにはブレオマイシン(BLM)、メソトレキセート(MTX)、シスプラチン(CDDP)による多剤併用の化学療法がよく行われますが、多施設共同研究により有効率32.5%と報告されており、また副作用の強い治療といえます。その他、5-FU、シスプラチンによる併用療法や、近年ではタキサン系薬剤の有効性が報告されていますが、症例数が少なくいずれもランダム化比較試験の結果が無いため多剤併用療法の有効性が明らかとはいえません。

治療予後

陰茎がんはもともとまれな疾患であり、なかなかまとまった治療成績は出ていません。がんが限局性であるI・II期の場合、5年生存率は90%、III期では30〜50%といわれています。IV期では非常に厳しいといわざるを得ません。