ブックタイトルSincere No.11 2019.1

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概要

Sincere No.11 2019.1

◆年の瀬の深夜から行われた心臓移植現在、全国11病院が心臓移植施設として指定されているが、女子医大病院は大阪大学医学部附属病院、国立循環器病研究センターとともに、1997年に日本で最初に指定され、11歳未満の心臓移植も可能な4施設の1つにもなっている。前述の移植は2018年に入って2例目、累計では27例目となるが、暮れも押し詰まった12月28日、同年3例目(累計28例目)となる心臓移植が行われた。ドナーの心臓を受け入れるべく、28日深夜の午前1時過ぎから新浪教授、駒ヶ嶺正英医師(医局長)、市原有起医師がレシピエントの20歳代男性の手術をスタートさせた。臓器提供先の病院へ出向いていた斎藤聡准教授、西中知博准教授らによって摘出されたドナーの心臓は、朝7時に女子医大病院に到着。すぐさま移植が開始され、手術終了後はICU(集中治療室)に移されて重症心不全治療チームにケアが委ねられた。深夜からの手術、その後の気を抜けないケアを、年末年始に休むことなくこなしている彼らの姿に頭が下がる思いだった。移植を受けた20歳代の男性は5年以上、補助人工心臓に頼りながらそのチャンスが来るのを待ち続けてきた。JOTの理事であり、その倫理委員会委員長と広報委員会委員を務める布田教授は、「心臓移植を希望する登録者は現在700人強を数えますが、脳死による心臓の提供は年間50~60件にすぎず、待機期間が3年以上となっているのが現状です」という。そして、「もっとドナーが増えるよう市民公開講座を開いたり、ドラマ『コード・ブルー』の医療監修を行うなどメディアを活用した啓発活動を展開したりして、それなりの手応えを感じています。また、小学校の道徳教育に臓器移植が盛り込まれるようになりましたから、臓器提供についての理解もこれから深まっていくでしょう」と期待を寄せている。◆細胞シートによる再生医療でも先駆重症心不全の新たな治療法の一つとして注目されているのが、細胞シート移植による再生医療である。細胞シートは、女子医大先端生命医科学研究所の岡野光夫特任教授が開発。これをベースに、大腿部の筋肉に含まれる筋芽細胞を培養してシート状にしたものが筋芽細胞シートである。先端生命医科学研究所の研究グループが、大阪大学大学院心臓血管外科の澤芳樹教授が率いるグループと共同開発したものだ。この筋芽細胞シートを重症心不全患者さんの心臓に貼り付けることにより、低下した心機能を改善させることができるのである。女子医大は2012年12月に筋芽細胞シート移植の治験を2例実施。大阪大学と東京大学での治験を含めた7例の治験結果を踏まえ、2016年5月に医療機器製造・販売企業のテルモが「ハートシート」の発売を開始。細胞シート移植が本格的に実用化された。2018年10月17日、女子医大で実用化第2号となる筋芽細胞シートの移植手術が行われた。執刀医は前出の市原有起医師。大阪大学大学院心臓血管外科で再生医療の中心的人物である宮川繁特任教授がアシストにつき、澤教授も応援に駆けつけてきた。手術を受けるのは60歳の女性。心臓の収縮力を表す左室駆出率(心拍ごとに心臓が送り出す血液量を、心臓が拡張したときの左室容積で割った値)が、正常な人は80%位なのに対し、20%しかないという重症心不全患者さんだ。心筋梗塞がその原因である。◆重症心不全治療の選択肢が増える午前11時過ぎに手術がスタート。1枚ずつシャーレに入った6枚の細胞シート(1枚は予備)も、テルモから手術室に届けられた。2か月前の8月中旬に、患者さんの大腿部の筋肉を採取し、筋芽細胞シートが培養されていたのである。左側面の肋間を切開して心臓に到達後、開胸器で術野を確保し、心筋梗塞によって虚血状態となっている個所を確認。そして、5枚の細胞シートをどこに貼り付けるかを見定め、用意してあった小さな円形シートを利用してそのリハーサルを行った。円形シートの素材は極薄の医細胞シートの移植は応援に駆けつけた大阪大学の澤芳樹教授(右)と市原有起医師によって行われた。長ベラに載せられた細胞シートを慎重かつ丁寧に心臓に貼り付けていく場面。医療最前線Sincere|No.11-2019 09