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概要

シンシア No.7

■世界標準となったセンター発の肝臓がん手術2016年10月、京都で「国際外科学会世界総会」が行われた。これは2年ごとに開催される国際的な学術会議で、日本で行われるのは20年ぶりのこと。「心」をメインテーマに、開会式には天皇・皇后両陛下も臨席された。2日目に開催されたシンポジウム「Kokoro Symposium」では、東京女子医科大学の高崎健名誉教授が司会を務め、消化器病センター長の山本雅一教授が「心のこもった外科医療の実践」について研究発表を行った。高崎名誉教授は消化器病センターの5代目センター長、山本教授はその7代目である。総会の目玉ともいえるシンポジウムに、現・元センター長の2人が顔を揃えたわけである。高崎名誉教授は、1986年に肝臓がんのグリソン鞘一括処理手術を編み出したことで知られる。グリソン鞘とは、肝臓内の門脈、肝動脈、胆管を包んでいる結合組織で、これをまとめて切除する術式がグリソン鞘一括処理であり、安全・確実かつ比較的容易に手術を行うことができるというメリットがある。山本教授はこのグリソン鞘一括処理を継承し、改良を加えながら世界中に広める活動を行ってきた。今ではこの術式が肝細胞がん手術のグローバルスタンダードになっているといっても過言ではない。さらに、新しい手術器具や各種デバイスの応用によって開腹せずに腹腔鏡下でもグリソン鞘一括処理が行えるようになり、10年以上前からその実践・普及にも力を入れている。■がんの治療成績をデータ化し生存率向上の指針に山本教授は肝臓だけでなく、胆道と膵臓も専門分野とする外科医である。いわゆる“肝胆膵がん”手術の世界的権威として知られる。「消化器病センターでは、難易度の高い肝胆膵がんの手術を年間200件以上手がけています。こうした施設は国内でも数ヵ所しかありません」。こう語る山本教授は、「いかにいい手術を行って治療成績を上げていくかが、我々に課せられた使命です。幸い、ひと昔前に比べると手術時の出血量も手術後の合併症も大きく減ってきています。長年にわたって積み重ねてきた努力が、そうした結果につながっているのだと思います」と、日頃の地道な積み重ねの重要性を強調する。消化器外科の肝胆膵チームは、2020年を目標にそれぞれのがん手術後の生存率を20%向上させることをめざしている。併せて、今後の生存率向上の指針とすべく、これまでの治療成績をデータ化する作業も進めている。まとまるのは5年後くらいになるとのことだが、貴重な臨床研究の成果となるに違いない。今年(2017年)6月、横浜で「アジア太平洋肝胆膵学会」肝胆膵がん手術の世界的権威・山本雅一教授(消化器病センター長)。および「日本肝胆膵外科学会学術集会」が合同開催される。アジア太平洋肝胆膵学会会長と日本肝胆膵外科学会理事長を務めている山本教授は、このビッグイベントの陣頭指揮を執ることになる。「合同学会にはアジアを中心に世界中から高名な外科医が集まります。参加者はおそらく3,000人くらいになるでしょう。“East meets West”をテーマに日本がリーダーシップを発揮し、特に若い人たちにとって有意義な情報交換の場となるような学会をめざしています」と、山本教授は学会への意気込みを語ってくれた。■肝移植施設として国内トップクラスの実績を誇る消化器病センターが最初に肝移植(生体)を行ったのは1997年のことである。以来、2009年に一時中断するまで31件の肝移植を実施した。再開したのは、2011年に肝移植の第一人者である江川裕人教授が京都大学から女子医大に着任してからだ。同年の2件を皮切りに、2012年に8件、2013年は12件と件数を増やすとともに脳死肝移植実施施設にも認定され、再開してから2016年12月末までの累積肝移植数は59件(うち脳死肝移植7件)に達した。もちろん、この数字は国内トップクラスである。肝移植は、病気の肝臓を摘出した患者さんの腹部にドナー(肝臓提供者)の肝臓を収め、肝動脈や門脈、胆管などをつないでいく(吻合する)手術である。それだけに、術者Sincere|No.7-2017 07