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概要

sincere no05

なものがあるのだろうか。その歴史をたどってみよう。最初に行われたのは、レーザーを新生血管に照射して焼きつぶす「レーザー光凝固」という治療法だ。だが、この治療法は新生血管が中心窩に及んでいない場合に限られた。中心窩に及んでいる新生血管をレーザーで焼くと、かえって見えなくなってしまうケースがあるからだ。次に、新生血管を摘出したり黄斑を移動するなどの手術の時代を経て、2004年から「光線力学的療法(PDT)」が導入された。これは、薬剤と弱いレーザーを併用して新生血管を破壊するという方法である。そして2008年から、Iさんも受けている「抗VEGF療法」の時代となった。VEGF(血管内皮増殖因子)は新生血管の発生や成長を促す物質であり、これを抑える抗VEGF薬を眼球に注射して新生血管を退縮させるという治療法である。「アメリカで2004年に発表された抗VEGF療法の治験成績が、あまりにも良かったのでびっくりしたものです。日本で抗VEGF療法を始めた当初は、『マクジェン』という薬を使っていましたが、『ルセンティス』という薬を使い始めた2009年から、治療成績が劇的に良くなりました。その意味で、抗VEGF療法が本格化したのは2009年からといってよいでしょう。さらに2012年からは『アイリーア』という薬が登場し、それまで抵抗性を示していたタイプの黄斑変性にも効くようになりました。症状の悪化を抑えるだけでなく、視力を改善させる効果もあることが大きいですね」と、飯田教授は抗VEGF療法のメリットを指摘する。個々の患者さんの症状に応じた個別化治療を実践いくら視力の改善が期待できるといっても、眼球に薬を注射するとなると、おじけづいてしまう人がほとんどだろう。Iさんも、「目に注射をすると聞いたときは、恐怖感から正直、ビビりました」という。「覚悟を決めて治療に臨みましたが、麻酔が効いていて痛みはまったくなく、注射はあっというまに終わりました」とも。Iさんは2014年10月から15年1月まで毎月1回、それ以降は2か月に1回のペースで抗VEGF薬の注射を受けてきた。最初の注射で効果を実感したIさんは、3回目の注射で「視力が戻ってきた」と感じたとか。その後も順調な経過をたどっていることから、今後は注射のペースが3か月に1回になる予定だ。女子医大病院ではこのように、薬の効果を確認しながら個々の患者さんの症状に応じて注射の間隔を変える“個別化治療”を行っている。「眼球注射は何度やっても緊張しますが、抗VEGF療法に出会えたことはとてもラッキーでした。目が見えなくなる場合を想定していましたが、視力が回復したのですから…」と笑みを浮かべるIさんは、さらに言葉を続けて「加齢黄斑変性は早期発見が大事。片目でモノを見て変だと思ったら、すぐに検査を受けるべきです。発症しても抗VEGF療法という優れた治療法がありますから、決してあきらめないことです」と、同じ症状を持つ人たちへのアドバイスを語ってくれた。眼底深部まで検査できる最先端の装置を活用現在、女子医大病院では加齢黄斑変性の患者さんのほとんどに抗VEGF薬による治療法を提供している。その実施件数は優に年間2,000件にも及ぶ。もちろんこの数は日本の病院の中でトップを行くものである。患者さんは首都圏のみならず、東北や中部、関西、さらに遠く山口県からも訪れてくる人がいるという。そういう人たちの多くが紹介患者さんであることも大きな特徴だ。女子医大病院が加齢黄斑変性の診療で絶大な信頼を得ていることを物語っている。飯田教授は、「治療データは世界へ発信し、この分野の論文は欧米の学会誌にも掲載されるなど世界最高水準の研究成果をあげています」と胸を張る。加齢黄斑変性を含めた黄斑疾患の検査において、最先端のOCT(光干渉断層計)を駆使していることも特筆すべき点である。OCTは非侵襲的に眼底を検査できる装置で、日本では1997年から導入された。その第一号を使い始めたのが飯田教授にほかならない。飯田教授は、網膜だけでなく脈絡膜などの眼底深部まで診断できる高解像度OCTのプロトタイプ開発にも関わってきた。現在、女子医大病院ではこのプロトタイプを含め、最も進化したOCTを5台有しているが、これだけの台数を備えている病院はほかにはない。高解像度のOCT(光干渉断層計)による検査。精度の高い診断を可能としている。症例をベースにQ&A形式で展開されるカンファレンス。18 Sincere|No.5-2016