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概要

シンシア 2014.No.3

近で生演奏に接すると、ミュージシャンの表情や息づかいまで見て取れて、とても刺激的でした。CDで耳にする音は、こんな表情をしながら生み出されているのか、といったような発見をしながら、ライブの醍醐味を堪能しました。「私も歌手でCDを出しているんです」というと、どんな歌い手かも分からないのにステージへ上げてくれる。ライブハウスへ行くたびに地元のミュージシャンとセッションを重ねることができたのは、ほんとうに貴重な体験でした。心に響いた曲を自分の声で表現私が大学生の頃、多くのアナログレコードがCD化され、自分のアンテナにひっかかったものはジャンルを問わず手に入れ、聴いていました。ジャズをはじめ、いろいろな曲を歌うようになったのはその影響からです。とはいえ、いいと思った曲をそのまま忠実に歌ったのでは統一感がありません。原曲の良さは保ちつつ、私の声でしか表現できないようにアレンジすることにより、ジャンルはバラバラでもある種の統一感が生まれてくるのではないかと思っています。「のびろのびろだいすきな木」という曲がNHK「みんなのうた」にオンエアーされた縁もあり、2009年に紅白歌合戦のテーマソング「歌の力」を杉並児童合唱団とリリースする機会がありました。実際の紅白歌合戦では出場歌手のみなさんがリレーでこの曲を歌いましたが、なんと私もその舞台に立って導入部を担当。このときは「なんで私がここにいるんだろう」と、とても不思議な思いでした。今でもそのときの自分の姿は見たいとは思いません。悩みをポジティブに変える医師と歌手、どちらも年齢の上限はなく、一生続けていける仕事です。医師という職業は、歳とともに培っていく診療スキルを、社会に還元していくことができます。歌手は、年齢を重ねるにつれて声が衰えていくかもしれませんが、そのときの年齢でしか出せない味というのは、いくつになってもあるのではないでしょうか。医師としての自分は、難しい症例に直面したりするとくじけそうになったり、自信を持てなくなったりすることがあります。そういうときは、やはり2つの仕事を抱えているからかな、と悩んだりします。でも、ある先生から「悩むのも能力の一つ。白黒をつけるのではなく、悩みながら仕事アン・サリー(安佐里)をすればいい」といわれ、それ以来、悩むことをポジティブに考えるようにしています。歌というのは、いつものように歌っているつもりでも、そのときどきの感情や体調が反映されてしまいます。ですから、ライブコンサートのときは心を落ち着かせ、体調を整えて臨むようにしています。そして、これからも医師と歌手の両方をしぶとく続けていきたいと思っています。1972年、名古屋市生まれ。大学時代から本格的に歌い始め、卒業後も医師として働きながらライブを重ねる。2001年「Voyage」でCDアルバムデビュー。2002年から3年間ニューオリンズに医学研究留学。一時帰国中にリリースしたCD「Day Dream」「Moon Dance」では、洋の東西を問わぬ新旧の名曲を独自にアレンジした歌唱が好評を博す。帰国後、留学期間中の現地ミュージシャンとのセッションを収録した「Brand-NewOrleans」も話題を呼ぶ。2007年に自作曲を含むアルバム「こころうた」、2008年にオリジナル曲「時間旅行」(シングル)、2012年に映画「おおかみこどもの雨と雪」の主題歌「おかあさんの唄」(同)をリリース。2013年には初の著書『森の診療所』と同名のCDアルバムを同時発売した。Sincere|No.3-2015 05