妊娠前・妊娠中の血糖測定

糖尿病センター  佐中眞由実

糖尿病では血糖コントロールが不良の場合に、神経障害・網膜症・腎症などの合併症がおきますが、妊娠中の高血糖は母体のみでなく、胎児や新生児にも影響を及ぼします(表1)。

表1

とくに妊娠初期の器官形成期(胚子期)の高血糖は児の先天奇形の主な原因となります。図1にいつ頃から児の中枢神経系、心臓、上肢、下肢、上唇、耳、眼などが形成されるかを示しました。月経がこない、基礎体温の測定で高温期が続くなどの理由で妊娠反応の検査を行って妊娠に気づくのですが、一般に妊娠に気づくのは受胎後3週(=妊娠4週)以後であり、この時期にはすでに中枢神経系や心臓の形成が始まっています。すなわち妊娠に気づいた時点で血糖コントロールを良くしても、児の先天奇形を防ぐには遅すぎることが多いのです。

図1

HbA1Cは過去1~2ヶ月間の血糖コントロールの指標として用いられていますが、妊娠初期のHbA1Cと児の先天奇形との関連を検討した結果、HbA1C8%以上で児の先天奇形が20~30%と高率になることが明らかになっています。妊娠前に糖尿病と診断されている女性では、児の先天奇形を防ぐためには血糖コントロールが良い状態で妊娠することが重要です。妊娠の許容条件を表2に示しました。

表2

また妊娠中に血糖値が高いと診断されることがあります。「妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常」を妊娠糖尿病といい、「妊娠時に診断された明らかな糖尿病(表3)は含まず、妊娠前に糖尿病と診断されていた場合とも区別します。第1度近親者(親、兄弟姉妹)に糖尿病がある場合や肥満の女性は妊娠糖尿病になりやすいことが報告されており(表4)、診断基準も妊娠していない時の診断基準と異なり(表5)、より低い血糖値です。妊娠糖尿病のスクリーニングを図2に示しました。妊娠中期以後には胎盤で血糖値が上昇しやすい物質が産生されるために(インスリン抵抗性)、これに対応して自分の膵臓からインスリンを十分分泌できない妊婦さんでは血糖値が上昇し、治療が必要になります。「妊娠時に診断された明らかな糖尿病」では、妊娠前から糖尿病であった妊婦さんと同様、児に先天異常を合併する確率が高くなるため、表4に示したハイリスクの女性は妊娠前に血糖値の測定を行い、糖尿病の有無を調べましょう。糖尿病であった場合には治療を開始し、妊娠許容条件を満たしていることを確認してから、計画妊娠することが大切です。

表3 表4 表5 図2

児に出現する合併症のうち、巨大児や妊娠週数に比べて体重の重いHFD (heavy-for-dates)児、新生児期の低血糖・高ビリルビン血症・多血症・低カルシウム血症(表1)を予防するためには、妊娠中の血糖値は妊娠していない時より低い(表6)ことを念頭において、血糖コントロールを厳格に行うことが大切です。HbA1Cが6%台では児の合併症は高率になるため、少なくともHbA1Cが6%未満の達成は必要です。妊娠中の血糖コントロール目標を表7に示しました。

表6 表7

厳格な血糖コントロールの達成は、病院を受診したときの血糖測定のみでは困難であり、自宅での日常生活での血糖値の変動を知り、インスリンの量を調節することが必要です。
すなわち血糖自己測定なくして厳格な血糖コントロールの達成は不可能です。1型糖尿病の 妊婦さんでは1日7~8回、2型糖尿病の妊婦さんでは1日4~7回の血糖自己測定を行います。妊娠中期以降にはインスリン抵抗性となるため、血糖自己測定 の結果をもとにインスリンを的確に増量することが(図3)、児の合併症を予防するために必要です。

図3

現在、産科を受診する都度、尿糖検査を行い、母子手帳に記載することになっています。しかし、妊娠中は尿糖が出現しやすく、逆に妊娠糖尿病でも尿糖が陽性の確率は低いことも報告されており、妊娠中は血糖値の測定が重要です。

 

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