末梢早期肺癌は、CTでスリガラス様陰影(GGO)を呈する2cm以下の陰影で、PETでも通常陽性所見を認めません。末梢早期肺癌に対する治療として従来の肺葉切除では余りにも腫瘍の大きさや予後と比較し切除範囲が大きく、一方、自動縫合器を用いた肺部分切除では切除断端に腫瘍が残る可能性が否定できないという悩ましい問題があります。また、GGOは多発したり、手術後長期観察期間中、新たなGGOが現れることもまれではなく問題を複雑にしています。
気管支、肺動脈、肺静脈は肺門から末梢に分岐しながら交差しますが、その走行の立体関係は症例により多岐にわたり、複雑です。私たちは、呼吸器外科医が連続CT上で、気管支、肺動脈、肺静脈をなぞって、それらの分枝の絵を描き、ポリゴンとして3次元表示するソフトを自作し、3次元表示用のモデラーと結びつけ、肺の手術のシミュレーションを実用化しました。術前に、気管支・肺血管の3次元関係を明らかにし、3次元表示の中で変形、切断、移動、補助面の作成などを行い、切除範囲、手順を明確化します。これにより、創を小さく出来るだけでなく、不必要な範囲の切除を回避し、手術時間短縮化などが可能となります。パソコンを用いて呼吸器外科医がCT画像をなぞるというロウテクですが、ハイテクのCT画像の3次元表示(ボリュームレンダリング法)より、必要な範囲のはっきりした3D画像を得ることが出来、また、3次元表示の中で補助面の作成など可能で、非常に実用的です。これにより、通常の区域切除ではなく、末梢早期肺癌に対しての理想的な手術=肺静脈を中心とした多亜区域切除が可能になりました。
最近では、早期末梢型肺癌や転移性肺腫瘍の症例が多くなり 小さい傷で小さく肺を切除する要求が強まっています。同様な病変に対しては、その他の治療法として CT下穿刺によるラジオ波による焼却や凍結 定位放射線量、重粒子線治療などがあります。胸腔鏡による治療はあくまで全身麻酔が前提であり、他の局所麻酔下などの治療法と異なりますが、胸腔鏡手術による摘出術は①病理標本を得、診断が確定できる、②遺残病変が少ない、③摘出することで、治療後の病変が残らず 長期予後で感染や血痰という合併症が少ない、④繰り返し治療を行うことが可能であるなどの長所があります。