
お名前 | 岡本 祐子 |
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担当部署 | 膠原病リウマチ内科 |
役職 | 講師 |
膠原病は、からだの結合組織(関節や靭帯など)に炎症を引き起こす疾患の総称で、全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎など幅広い疾患が含まれます。その中でも、関節リウマチは膠原病の中で患者数が最も多い疾患です。
「膠原病を『完治や寛解*ではなく、病気の症状とうまく付き合って生活していく』というのがこの領域のかつての考え方でした。
しかし医療が進歩し、疾患ごとに適した薬物療法を選択することができるようになってきたため、この考え方もまた変わりつつあります」と岡本先生は語ります。
膠原病リウマチ内科の岡本先生に、膠原病の症状や原因、最新の治療方法や、院内での取り組み内容についてお聞きしました。
*寛解とは、病気をお持ちでも、薬物療法により症状や内臓に生じた病気の進行が抑えられている状態を指します。病気が体からなくなり治療も不要となる完治とは異なります。
初期臨床研修医時代に衝撃を受けた「劇的な改善」
私は昔から、本やメディアで生物学に触れていました。「免疫」というものに興味を持ったのが、今の進路を志す、はじめのきっかけだったように思います。
医学生として学びを深める中で「それぞれの役割を持って働いている免疫細胞に不具合が生じた影響で、自己免疫性疾患につながる」という具体的な内容にまで興味が及ぶようになりました。
加えて、初期臨床研修で、薬物療法によって短期間に劇的に関節炎が改善した関節リウマチ患者さんを拝見したことが、この道に進む決定打となりました。
有効性と副作用リスクのバランスがカギ
膠原病の治療の難しさとして、「薬による治療効果と、予測される副作用のバランスをとる必要があること」が挙げられます。
例えば、関節性リウマチの治療薬のひとつであるJAK阻害薬は、高い効果を示す一方、副作用の発現にも注意が必要となっており、患者さんのご年齢や、お持ちの合併症とのバランス、妊娠出産のライフイベントの予定などにも配慮が必要です。また、高額な薬剤であるため、経済的な負担もあります。
膠原病の治療は、多くの疾患において日本全国で標準的な治療が提供できるように、ガイドラインが整備されていますが、患者さんの病状に応じた調整が必要なため、医師側にも高い経験値が求められます。
また、患者さんの背景や思いを理解した上で、「どこに治療の目標を置くか」を常に考えていかなければならないものでもあります。「関節痛のために控えていた運動ができるようになりました!」「久しぶりに家族旅行に行けました!」という、患者さんの日々の喜びを共有できることが、私の診療のやりがいとなります。
膠原病の治療の進化 ~「寛解」ではなく「完治」へ~
膠原病の治療の難しさはあるものの、治療薬は進化を続けています。
数十年前はステロイドに頼った治療が主流となっていました。
ステロイドは、膠原病に対して即効性があり、現在も広く使用されていますが、多くの免疫細胞の機能を抑えるため、その分副作用も多い治療となります。疾患によっては、ステロイドの減量や、ステロイドに頼らない治療が可能となっています。
その中でも特に、最近では分子標的薬の進化が進んでいます。
分子標的薬は、トラブルを抱えている細胞やシグナル経路にピンポイントで働きかけることができる治療薬であり、効果と副作用のバランスがとれた治療です。
近年、新しい分子標的薬が次々と開発され、治療薬の効果が確認されてから患者さんに投与できるまでの期間も非常に短縮されており、治療内容も進化を続けています。まだ研究段階の治療法ではありますが、膠原病の「完治」が目指せる可能性がある薬剤開発のニュースもあります。
将来、「寛解」ではなく「完治」を目指せる病気に変わっていく可能性に期待をしています。
また、オーダーメイド医療(個別化医療)の実現を目指す取り組みも進んでいます。
これは個人に対して遺伝子検査などを行い、その方に合った個別の治療方法を考えるものです。
従来型の治療は、「この病気に対して治療を行う」というものでしたが、オーダーメイド医療(個別化医療)では「個々の患者さん」により合った治療が選択されることになると思います。
いつか患者さんが、「昔は膠原病だったのですが、今は治りました!」「関節リウマチが発症しかけていましたが、ひどくならないうちに治りました」と言える時代が来たらすばらしいと思っています。

若手医師の育成は、自己研鑽と診療の実践
大学病院の医師として、学生や若手医師の指導を行うことも重要です。
時間の制約はありますが、若手の先生方と一緒に診療する時間を大切にしています。
「病気を診断するための問診の流れ」「治療の提案や、薬の説明はどう行うべきか」など、教科書だけでは理解しきれないことを、患者さんを 一緒に拝見しながら伝えていくようにしています。また、関節エコーも、検査の際に一緒に拝見する機会が大事だと考えています。
医師には弛まぬ自己研鑽が求められます。
論文や、ガイドライン、教科書で勉強した知識を実際の診療に生かしていく必要があります。その、勉強と診療の実践のサイクルの回し方を伝えていくことも私の役割だと考えています。
高度医療を適切に行うにあたって、最新研究の知識と経験はとても大切です。
そして大学病院には、そういった視点を持った医師が在籍していることが必要だと考えています。診療ー指導ー研究は、どれもすべて繋がっているものですし、それに取り組むことで自分自身もアップデートしていくことができます。
治療を受けられる患者さんと、医大生に伝えたいこと
膠原病の診療の進歩は、これまでの研究と診療の積み重ねに支えられています。
一つひとつの研究の意義は小さなものであっても、その小さなステップがなければ、改善に結び付きません。
私たちは、大学病院の使命の一つとして、研究も行っています。
患者さんにご承諾をいただいた上で、診療情報のご提供や、血液などの検体のご提供にご協力いただくこともあります。ご提供いただいた診療情報や検体は、より良い医療のために大事に活用させていただいています。
研究や教育の協力と聞くと、不安を抱かれる方もいらっしゃるかと思いますが、患者さんに過度な負担が生じることは、絶対にNGとされていますので、ご安心いただければと思います。
当科では、病状にあった最新の医療を、患者さんの背景を踏まえたうえで適切なプランで提供します。様々な経験を有する医師が個々の患者さんに合わせた適切な医療を提供しますので、ぜひ相談してみてください。
また、自己免疫疾患の治療やその病態解明に興味がある学生さんは、ぜひ当病院に見学にいらしてください。