
お名前 | 山崎 智司 |
---|---|
担当部署 | 薬剤部 |
役職 | 薬剤師主任 |
「チームの一員として適切な薬物療法に貢献することこそが、薬剤師にもっとも重要なことである。」
こう語る山崎智司さんは、東京女子医科大学病院で働く薬剤師です。
循環器内科の領域で心不全サポート事業にも関わっている薬剤師の山崎さんは、「薬物療法においてはまずは患者さんの安全をしっかりと確保しなければなりません。そのうえで、薬剤師としての知識を身に着け、それを活かし、チームで患者さんのサポートに当たっていく必要があります」と語ります。
山崎さんに、薬剤師になったきっかけや、東京女子医科大学病院の教育制度、多職種との連携についてお聞きしました。
「病気に苦しむ目の前の人をサポートしたい」ことから進んだ薬剤師への道
薬剤師になろうと考えた一番初めのきっかけは、両親の影響です。
私の両親は2人とも薬剤師で、子どものころから薬剤師の仕事に親しみを感じていました。薬学部での学びを通してあらためて「どんな社会人になりたいか?」を考えたとき、「人の役に立ちたい」「目の前にいる病気を患っている人をサポートしたい」と強く思うようになり、病院の薬剤師として働く道を選びました。
循環器内科医師とともに心不全サポート事業に携わる
私は薬剤師として、心不全サポート事業にも携わっています。心不全は、高血圧や心筋梗塞などが原因となって心臓の機能が悪化し、むくみや息切れ等が生じる病態です。一度発症すると、再発と寛解を繰り返し、徐々に身体機能が悪化していくことが特徴です。そのため心不全の治療では、日々の薬物療法に加えて生活習慣の改善は大変重要です。
薬剤師として、適切で安全な薬物療法を提供することも重要なことですが、加えて、提供された薬物療法を理解して薬を服用して貰えるよう、患者さんに指導していくことも大切です。患者さんが内服薬を飲み忘れたり、飲み方に悩んだりする原因は様々ですので、患者さん一人ひとりの状況に合わせて原因を改善できるよう努めています。
病院だけでは心不全患者さんを十分に支援することは困難です。そのため、病院と地域の連携・情報共有を強化し、患者さんが安心して地域で療養生活を送れる体制作りに寄与したいという気持ちが強くあります。
診療報酬改定などもあり、心不全患者さんの支援体制がより充実していくことを期待し、私も微力ながら貢献していきたいと思っています。
東京女子医科大学病院の教育制度 ~3年間の研修で新人スタッフを教育
東京女子医科大学病院では平成25年4月から薬剤師レジデント制度を導入しており、研修しながら仕事を学びます。
1年目は薬剤師の基本的業務である、処方せんの調剤・鑑査・疑義照会、無菌的混合調製、抗がん剤調製、医薬品管理業務および医薬品情報などの中央業務の研修を受けながら、業務を行います。また、初期研修プログラムとして、新人教育研修会や薬剤師職員によるレジデント講義などへの参加を通じて、臨床薬剤師に必要な薬物療法の知識について学んでいきます。
2年目は、臨床薬剤師に必要な薬物療法における高度な薬学的知識・臨床知識・専門的技術を習得することを目的に、6カ月を1クールとし、最低2診療科以上の臨床薬剤管理指導業務を経験します。また、半日相当は中央業務に従事し、薬剤師の基本的技術の理解を深めるとともに、薬学生や後輩の指導にあたることで、薬剤師教育にも携わります。
そして3年目は希望する病棟で研修に入りつつ、テーマを決めて研究活動を行います。
薬剤師には医師のような臨床研修が義務化されていませんが、より良い薬物治療を提供するためには、薬物治療の包括的介入ができる薬剤師を育成する卒後の実践的な研修プログラムが必要です。そこで東京女子医科大学病院では、このレジデント制度を導入し薬剤師の質の向上を目指しています。

薬剤師の観点から栄養サポートチームに貢献する
東京女子医科大学病院では、患者さんに適した栄養療法を提供するために、医師、薬剤師、管理栄養士など、様々な職種で構成されたNST(栄養サポートチーム)を組織しています。
例えば、患者さんが「食べられない」という状況になったとき、チームで食べられない原因を考え、患者さん個々にあった支援を行います。 例えば、排便状況が悪いと(主に便秘ですが)、お腹の張りや気持ち悪さが出現し、食欲が低下する場合もあります。その時は、その患者さんに適していると考えられる薬剤を提案し、チームで話し合っていくこともあります。
考えられる原因は様々ありますが、薬剤師としては、「現在使用している薬の影響はないか」考えていきます。薬が影響している可能性が高いと考えられる場合は、病態を考慮した上で減薬や中止、薬剤の変更ができないか、薬剤師の視点でチームへ提案します。
患者さんに合わせて薬物治療を提供するための工夫と関わり
薬を服用し忘れた場面にしばしば遭遇することがあります。その際は、「なぜ服用できていないのか」と原因を確認していくことが重要となります。
PTP製剤から薬が取り出しにくい、錠剤・カプセルなどが飲み込みづらいといった身体的なことが理由の場合もあります。
薬剤数、服用回数が複雑になると服薬管理が負担となり、混乱から飲み間違いとなっている場合もあります。薬の剤形や服用時間、服用回数などは、患者さんの希望を確認し、医師へ処方変更の検討を提案することもあります。
患者さんに確実に薬を内服してもらうために、一包化処方やお薬カレンダーの使用を提案し、視覚的に服薬状況を把握できるような環境作りなどの工夫も必要です。また、患者さんご本人だけでなく、同居するご家族の協力や、訪問薬剤師・訪問看護など在宅医療スタッフとの連携も重要となります。
特に高齢の方は、複数の慢性疾患を持っていることが多く、たくさんの種類の薬を服用している場合があります。思わぬポリファーマシー*が出現する可能性もあります。薬剤師としては、患者さんが安全に薬を服用できるように、ポリファーマシー解消に向けてもより注力していかなければなりません。
*ポリファーマシーとは、複数の薬を服用していることで、副作用や薬の飲み間違いなどにより有害事象を起こしていることを指します。
多職種との連携
チーム医療を円滑に行うためには、医療職同士の相互理解が重要です。多職種連携は、異なる専門性を持った職種が、同じ目的に向けて、意見を交換し患者さんに最適な治療やケアを提供することを目指しています。
以前担当していたCCU病棟では、毎日多職種でのカンファレンスを行っていました。医師が患者一人ひとりに対して、現在の状態や今後の治療方針を共有し、各職種がそれぞれ意見を出していきます。
私は薬剤師として、患者さんの症状と薬効評価、副作用の出現状況、薬剤の相互作用、腎臓・肝臓の機能に応じた薬剤投与量の確認、点滴ライン・配合変化の有無などを確認し発言しておりました。
多職種で連携する中で、私は特に看護師から共有される患者さんの状況に注目していました。看護師は患者さんにとっては一番身近な存在であり、患者さんの状態や気持ちを知るため看護師からの情報はとても大切だと思っております。
「睡眠」1つとっても患者さんごとに状況は異なります。私自身も確認をしますが、看護師の情報を参考に、目の前の患者さんに合った薬剤の処方を提案することが多かったと思います。
また、ここでは看護師を一例としましたが、他の医療職との連携や情報の共有ももちろん大切です。
経腸栄養剤と静脈栄養剤を併用している患者さんにおいては、管理栄養士と相談して、カロリー調整をすることがあります。また、理学療法士と連携して、リハビリ状況やリハビリ時のバイタルの推移を確認し、リハビリが進んでいない原因が過度な血圧低下と考えられる場合は、降圧薬の調整を提案することもあります。
多職種との話し合いや連携には、「顔の見える環境づくり」「話しやすい環境づくり」が欠かせません。私たちは全員、最終的には「患者さんに最適な医療を提供し病態を改善すること」を目指しています。そのためのチームですから、相手の意見を尊重する姿勢が非常に大切だと思っています。
後輩に向けて ~18年前の漠然とした理想像は、明確な目的意識に変わった
18年前に入職した当時は「この領域をやりたい」というのはなく、漠然と「病院薬剤師になりたい」というだけでした。調剤室や注射薬払い出し部署を経て、先輩方に指導を受けながら、がん化学療法や緩和医療に携わるようになりました。しかし、患者さんと接する度に、全身状態を把握しそれに伴う生理作用と薬物治療を紐付ける知識が乏しいことを痛感し悩んだ時期もありました。
そのタイミングで、循環器内科病棟に配属されることになりました。体循環・肺循環を理解し、集中治療室配属後は、臓器系統別に病態を把握する手法を学び、患者さんの病態に基づいた的確な提案が少しずつできるようになったのではないかと感じています。
今後はジェネラリストとなれるよう、様々な薬物療法の知識を身につけつつ、循環器領域でも専門性を活かしていければと思っています。
薬学部の後輩に向けて伝えていきたいことは、「薬剤師は、患者さんの薬物療法の安全を守っていくことが役割である」という基本です。
患者さんの症状を聴取・その状況を他の医療者と共有し、その対応策がとられ、結果的に状態が改善するのであれば、薬剤師冥利につきると思います。また、採血を含めた様々な検査データや症状・兆候から、適切な薬物療法を提案できるのは、病院薬剤師の魅力だといえます。
薬のことだから〇〇薬剤師に聞こう!そういった環境がつくれるよう、コニュニケーションを密にして関係性を構築していくことが大切だと思います。また、質問に対して的確に回答できるよう、努力し、最終的に患者さんにとって良いことができればいいなと日々過ごしております。
Q & A
- Q1.薬はお茶やジュースで飲んでもいい?
-
OKのものもあればNGのものもあります(ちなみにスポーツドリンクに混ぜると苦くなるものもあります)。飲み合わせが悪いものもあるので、水や白湯がベストです。ジュースやゼリーに混ぜても問題のない薬もありますので、まずご相談ください。
- Q2.薬の飲み間違いをしていたみたい……複数種類の薬なのに、1つだけ先に切れてしまった。どうすればいい?
-
降圧剤などの場合は、まずは血圧の変動が心配ですので、早めに受診してください。
また、飲み間違い・飲み忘れが頻繁に起きるようでしたら、薬剤師にご相談ください。今後同様のことが起こりにくくなるように一緒に原因と対策を考えていきましょう。ただし、独断で「PTPシートから錠剤などを出して保管」をすることは止めてください。吸湿性が強く、形質が劣化するものもあります。
- Q3.いろいろ不安がある、相談しても大丈夫?
-
もちろんどうぞ!患者さんがより安心して、かつ飲み忘れがないように最大限の努力をするのが、私たち薬剤師の役目です。
薬を渡すだけではなく、飲む回数を減らし、飲みやすくするための工夫などの相談も受け付けておりますので、まずはお声かけください!