
お名前 | 市川 篤 |
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担当部署 | 中央検査部 |
役職 | 臨床検査副技師長 |
東京女子医科大学病院では、年間750万テストを超える検体検査をしており、生理検査では心電図検査が60,000件、超音波検査も36,000件を超えています。珍しい症例も数多くあるなかで培われていく「専門性の自覚」に着目する市川様に、中央検査部の醍醐味、そしてコミュニケーションの重要性やスキルと教育についてお聞きしました。
「診断」への興味から臨床検査技師の道へ
私が臨床検査に興味を持ったのは高校生の頃で、病気の成り立ちに興味を持ち、「面白そうだな」と思ったのがきっかけでした。
病気の「原因」と「診断」の追求に惹かれたのが一番の理由ですね。
知識の習得が楽しかった入りたての頃、接遇を重要視するようになった今
東京女子医科大病院 中央検査部の特徴、長所として以下の3点が挙げられます。
- 豊富な症例と確かな技術
- 検査の品質保証
- 患者さんへのサービスや医療接遇への取り組み
私が入職した当初は循環器の検査室に配属されて、そこでは生理検査を通じて患者さんと接する機会が非常に多かったのですが……実は私は、「患者さん対応は、自分には向かないな」と思っていたんですよね。元々は輸血検査や細菌検査をやりたかったこともありました。でも、実際に仕事をしていく中で、豊富な症例を経験するとともに高い技術を学べる場所だったので、とにかく夢中で取り組みましたし勉強にもなりました。
今は心電図関連検査が主な業務ですが、常に勉強して情報のアップデートに心がけています。ただ今と昔では違いますね。昔はあれほど不安で怒られることも多かった患者さんとの対応ですが、今は出来るようになったと感じています。接遇第一で、常に患者さんのことを意識できるようになりました。
コミュニケーション技術を身に着けるための研修も欠かせない
現在は「チーム医療」の考え方も浸透してきています。医師の働き方改革に伴うタスクシフト/シェアによって臨床検査技師を取り巻く環境が大きく変化し、業務範囲が大きく変わり始めており、今まで医師の指導の下に行っていた種々の業務が、厚生労働大臣指定講習会を修了することにより、法的に可能となってきています。臨床検査技師の救急医療への参画や、針電極を使用した術中モニタリング、内視鏡検査などを通して積極的にチーム医療に参画しています。
その中で、スキルをもって専門職として力を生かすことも重要ですが、他部署との「コミュニケーション」も非常に重要であり、そのための研修も重要だと考えています。
先ほど、大切なものとして「医療接遇」をあげました。採血室をはじめ中央検査部は最初に患者さんが通る場所も多くありますし、生理検査は患者さんの同意・協力なしには行えないものです。そのため中央検査部では、医療接遇が得意な看護師さんやマナー講師に研修会を依頼する他、「様々な患者さん」を実際に自分たちで演じてロールプレイを行い、疑似体験の中で新しい気付きや発見を探していく中でスキルを身につけていくといった研修を開催して、医療接遇のスキル向上に努めています。
また今年度からは、育成委員会が主体となって中央検査部の主要会議中にワンポイントマナー講習の時間を設けています。電話の受け方やあいさつ、相手を思いやる気持ちなどを学び、職場内でのあいさつや思いやりの風土を根付かせていくことも、より良い医療接遇に繋がると考えています。
また、これに加えて患者安全に関する取り組みも積極的に行っています。
患者介助法や安全なベッド移乗法などについてリハビリテーション部の理学療法士の方に研修会をお願いしたり、患者さんの転倒防止への取り組みやシステム障害対応訓練、防災訓練なども病院で開催されるものの他に中央検査部独自に企画して取り組んでいます。「患者さんの安全第一」「患者さんの思いをくみ取れるように」という意識を重視しています。

東京女子医科大学だからこそできること
東京女子医科大学病院では非常に多くの検査を行っています。検体検査の数は年間750万テストを超えますし、生理検査では、心電図の検査が60,000件、超音波検査36,000件、内視鏡も10,000件を超えています。160人から成る中央検査部のスタッフは皆、多くの症例を経験し、そのなかには珍しい症例も多くあります。
数多くの症例を経験できることは、臨床検査技師にとって非常に大きなメリットとなります。そのなかで一人ひとりが臨床検査に向き合い、専門性を自覚していきます。また、臨床検査技師にはそれぞれの検査分野ことに上位資格があり、中央検査部の多くの技師もそれぞれの専門の資格も持っています。
ちなみに東京女子医科大学病院の中央検査部は、ISO15189(臨床検査室の品質と技術の国際規格)を取得している他、日本臨床衛生検査技師会の品質保証施設認証も受けています。これらにより精度管理・安全管理を徹底して行い、検査の品質を保持し続けています。
「広い視野」を習得するための教育を目的としたカンファレンスと初期ローテーション制度
自分が担当する専門分野だけの知識に偏りすぎてしまうのも問題です。それぞれが専門性を持ちつつも、専門分野以外の幅広い知識や視野を得ることが出来るよう、検査部全体で毎月症例カンファレンスを開催している他、年1回、附属の足立医療センターや八千代医療センターの検査技師も含めて学術集会を開催して、学術活動の推進も行っています。
また、当検査部では、新入職員が特定の検査室に配属される前に、一定期間をかけて中央検査部の全検査室を回る「初期ローテーション制度」を20年ほど前から実施しています。臨床検査技師の業務は、心電図や超音波などの生理検査、血液や遺伝子、微生物といった検体検査の他、病理や採血等非常に幅が広く、また検査室の場所も院内の色々な場所にあります。「専門性を身に着ける前に検査の基本を知り、医療技術専門職としての自覚と、社会人、組織の一員としての姿勢を身に着けてもらう」ということが目的です。各検査室を回って様々な検査を知り、先輩技師の顔を知り、検査室の場所を知る。配属先の先輩技師だけでなく、中央検査部の職員がみんなで新人を育成する、といった意味合いが強いですね。
進むタスクシフト、AIの導入、今後検査技師に求められる役割とは
タスクシフト/シェアが進むことによって、検査技師業務の拡大が予想されます。また、臨床検査技師の卒前教育として臨床検査学教育の内容が令和4(2022)年入学者から改正され、それに伴い臨地実習教育ガイドラインも変更になっており、現在、臨地実習教育を手探り状態で進めているところです。
タスクシフトに関しては、厚生労働大臣指定講習会の修了が求められますし、これらを普段の仕事と両立することも求められます。周囲の動向をみながら、「何に挑戦すべきか?」「検査技術の向上はもちろんとして、どのようにして法改正に対応していくべきか?」も常に考える必要があると思っています。
AIについてですが、導入されることにより特に「診断」の面は変化が大きいと思います。内視鏡、超音波、心電図などのAI解析は既に実用化もされつつあります。
ただ今はまだ、AIの技術が検査技師の仕事をそのまま肩代わりできているわけではありません。心電図や超音波の記録や採血など、正しい診断を行うための検体採取、データサンプリングは重要な検査技師の業務です。 制度の変更や技術の革新に対応しつつも、臨床検査技師だからこそできることを考えて精進していきたいと思っています。
この道を志そうとする学生さんに伝えたいこと
今の学生さんは新しい知識を身に着けていますし、「これがやりたい!」という希望もしっかり持っています。
ただ、検査技師の就労形態や担っている業務は、施設の種類や規模によって大きな差がありますので、その希望が叶わないという方も少なくないと思います。もし希望が叶わなくても自分に与えられた検査を徹底的に突き詰めてください。
多くのことを経験して豊富な知識を身に着けることが、若い方々にとっては非常に大切なことだと考えています。我々の行きつく先は「病気と検査」という共通のもので、コツコツ蓄えた知識と経験は将来絶対に役立つはずです。
私自身は、引き続き中央検査部の一員として病院に貢献していきたいと思っています。
専門学会や検査技師会等、病院の外での活動をすることもありますが、これは「外の状況」を知ることにとても役立ちます。
そして「外を知ること」にも勉強が必要で、その過程で得られるものも非常に多くあります。外から持ち帰って、勉強して、外で話して、また外から持ち帰って……を繰り返していくことで、「井の中の蛙状態」になってしまわないようにしていきたいと思います。
入職当時に先輩から常に言われていた、「大学病院は患者さんにとって最後の砦」ということを見失わず、自分たちの検査技術を磨き、臨床への貢献を通して患者さんのお役に立ち続けたいと思います。
Q & A
- Q1.検査室ではどんなものを扱っているの?
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多岐にわたりますが、検体検査や生理検査を行っています。
検体検査とは、患者さんから採取した血液や尿、痰などを検査することをいいます。
対して生理検査とは、患者さんに直接接して、エコーや脳波、心電図を撮る検査をいいます。ちなみに私は心電図関連検査が専門です。
- Q2.心電図で分かることは?
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心臓が収縮と拡張を繰り返す際に微弱な電流が発生します。この電流を体に装着した電極でとらえ、波形として表したものが心電図です。
心電図は最も基本的な心臓検査で、不整脈、心筋梗塞、狭心症、心肥大の評価などに用いられます。不整脈や狭心症をさらに詳しく調べるために、長時間心電図や運動負荷心電図を行う場合があります。1人5分以内で終わることが多く、1日に200人~300人もの検査を行えるのもメリットです
(※長時間掛けて行うものもあります)
- Q3.検査結果は何人くらいで見ているんでしょうか?
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検査項目によっても違いますが、検査結果が誤って臨床に伝わってしまうことがないようにダブルチェックを行うことはよくあります。また、診断に直結するものに関しては、さらに多くの人数やその他の結果誤報告防止の仕組みを構築し確認をすることもあります。