
お名前 | 渡辺 智之 |
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担当部署 | 産婦人科 |
役職 | 助教 |
「産婦人科の領域は、決してAIにとって代わられることのなく、永遠に人と人が関わっていかなければならない分野です。人の人生の一大イベントに立ち会える仕事でもあります。」と語る渡辺先生は、自分の手でお子さんを取り上げた産婦人科医です。
渡辺先生が、産婦人科医になったきっかけや無痛分娩に対する考え方、そして産婦人科医として働くことのやりがいについて詳しくお話を伺いました。
感動あり、外科的要素あり、医学生時代の実習をきっかけに産婦人科を選んだ
私が産婦人科医になろうと決めたのは、医学生時代の実習のときです。医学生時代の実習で見たお産が、非常に大変な吸引分娩(※吸引器具によって赤ちゃんの頭を引き出すお産のこと)だったのですが、助産師や医師など、あらゆる職業の人がお産を支えているのを見て感動しました。
もともと「手術をする科がいいな」と思っていたのも、産婦人科医を選んだ理由です。最新の器具などに頼らず、メスとハサミといった古典的な道具だけで1つの生命を誕生させるという帝王切開に、他の手術にはない魅力とやりがいを感じました。
無痛分娩を正しく選択してもらえるように ~当院の強みと現状~
産婦人科医としてお産に関わるうえで、「無痛分娩」は重要なキーワードです。無痛分娩は近頃、非常に脚光を浴びていますね。
無痛分娩の場合、当院では基本的には麻酔科医の管理による計画分娩のかたちがとられます。計画分娩の場合は、あらかじめ入院をして、陣痛促進薬を投与します。計画前に自然な陣痛が始まった場合には無痛分娩ができない施設もありますが、当院ではその場合にも無痛分娩対応ができるのが強みです。麻酔科の医師複数名が常に院内にいる体制をとれる、当院ならではのことだと思います。
無痛分娩を希望する人が増えたため、かつてはわからなかったことでも、今はわかるようになっています。たとえば、「無痛分娩によって帝王切開が増えるのではないか」といわれていましたが、これは現在では「通常の分娩と変わらない」との意見が多くなりつつあります。また、無痛分娩は通常の分娩よりも分娩時間が長くなる傾向にありますが、痛みがないということでリラックスできて、思いのほか順調にお産がすすむ方もいます。それぞれの妊婦に合わせた対応が必要だと考えています。
ただ、無痛分娩にはデメリットもあります。先程「帝王切開率は通常の分娩と変わらない」と申しましたが、吸引分娩や鉗子分娩(※かんしぶんべん。金属製のヘラで赤ちゃんの頭を掴んでひっぱり、分娩を行う方法)の割合が増えます。初産かつ無痛分娩の場合、当院の統計では全出産のうちの40パーセントが、この吸引分娩・鉗子分娩になっています。(通常の分娩では5〜10パーセント程度)。その影響もあって、無痛分娩では通常の分娩に比べて平均出血量が300ミリリットル程度多い傾向にあり、赤ちゃんの合併症を引き起こすリスクも高くなります。
無痛分娩は出産の痛みを軽減できるという大きなメリットがある一方で、出血量が多い傾向にあるなどデメリットもあります。また、「産後が楽になる」という声も聞かれますが、必ずしも全員に当てはまるわけではありません。出産方法を選択する際には、メリット・デメリットを十分に理解し、医師とよく相談することが大切です。無痛分娩をしようか迷っている方に対して、当院では助産師に個別に相談できる「無痛分娩外来」も行っています。疑問点などはそこでじっくりと相談することが可能です。
産婦人科医だからこそ広がった視点 ~我が子の誕生の経験から~
私は産婦人科医として多くのお産に立ち会ってきましたが、自分の子どもも自分の手で取り上げました。
「産婦人科医」として見れば、リスクも少なく、安心できるお産だったといえます。しかし自分の子どもだと思うと、平常心を保つのはなかなか難しいものがありました。
ちなみに、産婦人科医にとって「自分の子どもを取り上げる」というのは、ありふれた行為ですが、みなさんいろいろ苦労をされるようで、「この経験を踏むことで、産婦人科医は一人前になるのだ」と言われたりもしますね。先輩方に聞くと、やはりみんな平常心を保てなかったみたいですね。
立ち合い出産についての考え方は、人それぞれ異なると思います。新型コロナウイルス(COVID-19、以下「コロナ」の表記に統一する)禍のなかでは立ち合い出産も制限されていましたしね。ただ父親として、「自分の子」という意識を持つためにもぜひ積極的に分娩立ち合いや妊婦健診に付き添っていただきたいと考えています。
なお当院では、コロナの影響でしばらく制限がありましたが、現在は外来のときにお子さんも連れてきてもらえるようになりました(※2024年4月~)。上のお子さんがいるご家庭は、ぜひ上のお子さんも連れてきてくださいね。

プレコンセプションケアの考え方から、「未来の妊婦」に寄り添う
産婦人科はお産に関わる科ですが、妊娠前の健康管理やカウンセリングも重要視しています。これは「プレコンセプションケア」と呼ばれているものです。
プレコンセプションケアを考え、行っていくことで、持病があって自力妊娠が難しいと考えている人も安心な出産ができる可能性が高くなりました。
たとえば内服薬を使っている人であっても、事前に薬をコントロールして妊娠~出産にチャレンジできることもあります。
また、腎移植後に使うことになる免疫抑制薬は赤ちゃんに悪影響があるため禁忌とされているものもありましたが、現在では妊娠中も投与可能な薬剤がガイドラインで定められ、比較的安全に出産が可能な基準も定まってきています。長期間の入院が必要になるリスクがあり事前に準備を整えることは必要ですが、「持病があるから、妊娠は無理」と諦める前に、まずは相談をしてほしいと考えています。
『持病があるから妊娠できない』と思っていた、私たちにご相談ください
先程お話したこととも繋がりますが、「持病があるから妊娠はできない、と言われたことがある」「ほかの病院では妊娠はやめたほうがいいと言われた」という人も、一度東京女子医科大学病院に足を運んでみてください。
当院では、長期入院で持病のコントロールを行いながら妊娠・出産を目指すことができるよう、患者さんの状況に合わせて個別の対応が可能です。実際に、他の病院では対応できないと言われた方が、当院で出産に至った実績も多数あります。
当院では、どのような状況にある患者さんでも、可能な限り受けようと考えています。必要に応じて専門の診断科とも密に連絡を取り合うようにしていますから、ほかの病院で受け入れが難しいと言われた人であっても対応ができる可能性はあるといえます。
たとえば心疾患の合併症がある場合は、産婦人科医だけでなく、循環器小児科医とも連携して定期的にカンファレンスを行うようにしています。
患者さんお一人おひとりに「安全なお産」を提供できるように、私たちも日々努力しています。
産婦人科に求められる「満足度」を満たすための試み
産婦人科では安全なお産を提供することはもちろんのこと、一人ひとりの患者さんが安心して出産できるように、心のこもったケアを心がけています。
助産師が患者さんのご希望やバースプランを丁寧に聞きとり、できるだけその希望を叶えられるように努めています。
産婦人科である以上、赤ちゃんが元気であることを重要視しています。そしてそのうえで、「できるだけ傷を小さく」「産後の回復が早くなるように」と考えて対応に当たっています。初産の場合はだいたい産後6日後、2人目以降の場合はだいたい5日で退院となりますが、その期間は毎日回診を行ってトラブルがないかを確認しています。お祝い膳も出ますよ!
「妊娠出産は病気ではない」と言われています。そのため、自費診療(※補助はある)です。ただそれでもお産は危険なこともあるものです。周囲の人の理解が得られるように働きかけることも、また重要だと考えています。
妊娠前、妊娠中、妊娠後、さまざまな時期を 多方面から支援する
当院では、妊娠前~妊娠中~出産~産後、それぞれの段階で、適切な医療を提供しています。
妊娠前に「妊娠できるのだろうか」と不安をお持ちの患者さんには、外来で妊娠可能かまずは診察をします。電話予約をしていただければ、平日はいつでも対応できます。不妊治療の方法も多くありますのでご相談ください。
妊娠中は、外来で助産師がしっかりと相談に乗ります。緊急の対応が必要な場合は産婦人科医師複数名が365日24時間、いつでも対応可能な体制を整えています。
産後もしっかりチェックを行い、行政と連携して、産後の体の回復をサポートしていきます。
自分も父親として、子育てに関わり、そしてそれを楽しんでいる人間です。子育ては大変なものですが、そこのなかでしか得られない喜びもまたあります。
安心安全な妊娠をサポートしていくので、ぜひ当院にお越しください。
また、これから産婦人科に進もうとする・進みたいと考える学生さんに対しては、「やりがいがあってとても楽しい科だ」と伝えたいですね。産婦人科の領域は、人の手で行わなければならない業務が大部分であり、医療技術が発展している現在でも医療者自身の力量が重視される分野です。人の人生の一大イベントに関われる仕事でもあります。大変なことももちろんありますが、ほかの科にはない喜びがある科だと考えています。
これから産婦人科に進もうとする・進みたいと考えている学生さん、ぜひ一緒に働きましょう!
Q & A
- Q1.無痛分娩って本当に痛くないの?
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「無痛」としていますが、痛みをゼロにすると分娩進行が妨げられることもあり、完全に痛みをなくすことは難しいです。分娩前の子宮口を広げる処置の際にも痛みはあります。なので「和痛分娩」「麻酔分娩」と呼んでいる施設もあります。
- Q2.持病持ち。昔は「妊娠が難しい」と言われていたけど、改めて診てもらうことはできますか?
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理由にもよりますが、診ることはできます。時に腎移植経験や心疾患の合併症を抱えている人に対しては、当該専門診療科とも連携して対応にあたります。
なお、「当院に来てもらったが、妊娠~出産にあたり、当院ではない方が望ましい」と判断した場合はそのように案内します(合併症がない場合で、かつ遠方から来ている場合など)。
- Q3.不妊治療は手掛けていますか?
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私は産科の医師ですが、病院として不妊治療も手掛けています。体外受精などを含めて、ほとんどの方法にチャレンジすることができます。ご希望の場合は、外来で予約をとってからお越しください。