
お名前 | 赤羽 朋博 |
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担当部署 | 呼吸器内科 |
役職 | 准講師 |
「20年前、がんの治療といえば、すべて点滴での抗がん剤治療でした。しかし現在ではその患者さんの遺伝子や病気の特性に合わせて治療法を選択する、テーラーメイド治療が中心になりつつあります」
こう語る赤羽先生に、呼吸器内科領域の変化や今後の見通し、呼吸器内科医としての働き方、また患者さんとの関わり方についてお聞きしました。
小児喘息に悩んだ経験が原点、呼吸器内科への道
まず、私が呼吸器内科に興味を持ったきっかけからお話します。
私は、自分自身が小児喘息でよく呼吸器内科にかかっていたことがきっかけで、この道に進みました。学生時代は整形外科や循環器科にも興味があったのですが、結局初心にかえって呼吸器内科に進んだというかたちですね。
専門分野は喘息ですが、呼吸器全般にわたって診療にあたっています。小児は小児喘息、40歳以上は肺がんに悩まされることが多いのですが、肺炎や新型コロナウイルス(COVID-19)関係もあり、対象の疾患は多岐に及びます。
呼吸器内科の医師として働き始めて15年目ですが、節目節目で自分自身の持っている知識や考え方も変わってきたように思います。
1~2年目の研修医時代には各科をまわり広い分野で経験を詰みます。各科で先輩医師から多くのことを学びました。
3年目からは呼吸器内科に入りました。3年目からは覚悟と実力を求められますが、求められるものとのギャップにしんどくなった時代でもあります。
ただ、いろいろなことが新鮮でしたね。
5年目のときは、ある程度病気のことは分かってきて対応もできるようになったものの、まだまだ経験が足りないと感じることも多くありました。ガイドラインを参考に治療計画を立てるのですが、イレギュラーな事例では先輩に相談しながら診療を行っていました。
大学病院に入ったり、海外留学をしたりして迎えた10年目には、病気のバッググラウンドまで理解し、診療にあたることができるようになりました。
私が呼吸器内科の医師としてやっと自信を持てたのはこの時期でしたね。
10~15年目で、専門医(7年)、さらに指導医(5年)まで取得しました。「自分はこれが専門です!」と言い切ることができるようになり、責任のある立場も任されるようになりました。研究に取り組んできたことも自信につながりました。
それでも、研鑽し続けることは必要だと考えています。
進歩する現在の呼吸器内科医療、日本人の研究者の貢献も大きい
呼吸器内科医として働き続けるなかで、「医療の進歩」は非常に強く感じています。
たとえば肺胞蛋白症(呼吸をするために必要な肺胞に、たんぱく質などの老廃物が貯まってしまう病気。指定難病になっている)という難病は、老廃物の分解が上手くできなくなるため予後が悪い病気でした。
しかし2024年の3月に、世界で初めてとなる肺胞蛋白症(のうち、9割を占める自己免疫性肺胞蛋白症)に効果を示す薬剤が登場しました。この薬はGM-CSFというサイトカイン(炎症を起こす物質)を吸入によって投与するもので、薬事承認を受けた初めてのものでもあります。
ちなみにこの薬は、日本の新潟大学の先生が主導で進められ、実用化にこぎつけました。
喘息とがんについても大きな進展があった
私の専門分野である喘息治療にも、大きな変化がありました。
喘息は吸入薬などを使って症状をコントロールしていきますが、今は効果的な薬が非常に増えました。1日に3回ほど使わなければならなかった人が1回の使用で済むようになり、薬の管理も楽になりましたよ。
また、従来の薬物療法+炎症の経路をブロックすることで喘息のコントロールを図る生物学的製剤という薬で治療していくことができるため、重症の喘息もコントロールできるようになったのは大きなメリットです。患者さんごとに的確な処方をすれば劇的な改善が見られることも多く、これが患者さんのQOL(生活の質)の改善に繋がっています。
がんについてもお話していきましょう。
2000年代前半までは、ほぼすべてが点滴抗がん剤による治療が選択され、その治療内容は非常に画一的でした。しかしここ20年で、このような状況は大きく改善され、「テーラーメイド治療」という考え方が適用されるようになりました。
このテーラーメイド治療とは、患者さんお一人おひとりの病態や体質、また生活に合わせて治療を行っていくというものです。遺伝子などの分析や話し合いを経て決定されていくテーラーメイド治療により、患者さんにとって最適なブレイクスルー治療(革新的な新しい治療)を可能にしたと考えています。
がんの治療において取り上げるべきキーワードの一つに、「分子標的治療薬(『分子標的薬』ともいう。以下では『分子標的治療薬』の表記に統一する)」があります。
分子標的治療薬とは、病気の原因となっている特定の遺伝子変異に対してアプローチすることができる薬です。
「がんの治療」「がんの薬」というと、強烈な副作用を想像する人も多いかと思います。従来の抗がん剤では、病気の原因となっている細胞だけではなく、正常な細胞をも一緒に攻撃してしまうものでした。そのため、激しい嘔吐に悩まされたり、味覚障害が起きたり、下痢・便秘が起きたりしていたのです。
しかし分子標的治療薬の場合は、がん化した細胞を攻撃の対象としますから、正常な細胞への影響は抑えられます。また、治療薬としての効果も高いのが特徴で、「副作用は少なく、効果は高い薬」として分子標的治療薬は認められています。
このように、呼吸器内科が対象とする病気の治療方法は、日々進歩し続けています。

20年以上関わることもある科だからこそ、コミュニケーションは重要視している
ここ20年間の呼吸器内科の治療方法について述べてきましたが、呼吸器内科はその特性上、一人の患者さんとお付き合いをする期間が非常に長くなる科です。また、その関わりも、生活に密着したものとなります。疾患によって異なりますが、現在は治療薬も増えているため、進行肺がんの場合であっても10年以上のお付き合いになることも珍しくありません。喘息の場合は、20年以上に渡って診療していくケースもあります。
肺炎などの一部の疾患は別として、喘息などの慢性的な疾患は「根治」を目指すのではなく「コントロール」を目指すことになりますから、一人の患者さんと向き合う期間が長くなるわけです。
そのため、呼吸器内科医には、患者さんと良好な関係を築くことが求められます。「一緒に治療していく」「その人の生活を考慮したうえで、治療を考えていく」という姿勢が、非常に重要です。
少し具体的にお話しますね。
治療の選択肢が豊富にある場合は、それぞれの治療法のメリットとデメリットを提示して、患者さんと一緒に治療方法を選択していくなどの働きかけが必要になります。なお、「わからない」「決めかねる」という場合は、その患者さんのライフスタイルや社会的背景をお聞きしたうえで、「この治療方法がおすすめです」と提案することもあります。
※小児喘息は基本的には小児科の管轄になり、15歳もしくは18歳で成人医療に移ることもよくあります。
※病気や病状によっては、選べる治療方法が限られてくることもあります。
同じ領域に進もうとする学生さんへ!あなたと働くことを心待ちにしている
呼吸器内科医として働いてきたなかで、非常に印象に残っている患者さんがいます。
小さなお子さんのいる30代の女性で、根治療法は難しい肺がんと診断された患者さんです。その方は、ご自身の将来だけでなく、お子さんの将来を案じながら、「自分の将来だけではなく、子どもの将来も大事だ」と語られました。配偶者の方の深い理解とサポートのもと、納得して治療に臨まれていました。
お子さんを持つ患者さんにとって「子どもに話すか、話さないか」は、大きな悩みです。私は患者さんのご希望を尊重し、一緒に考えながら、お子さんに伝えるタイミングや内容を決めています。
呼吸器内科は、人間の生命活動の根幹に関わる仕事です。そこに、この仕事のやりがいがあるのだと思っています。また、高齢化社会のなかで1位・2位を争うくらいに需要がある科でもあります。扱う病気も多岐に渡りますし、検査結果から診断に続けていくという、「内科らしい内科」だともいえるでしょう。
同じ領域に進もうとする学生さんへ、私はあなたと一緒に働くことを心待ちにしています!
Q & A
- Q1.小児喘息です、完治しますか? 大人になってから喘息を患ったのですが完治しますか?
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小児喘息を患っている人のうち、70パーセント近くは成長するなかで改善していきます。ただ、残りの30パーセントは成人になってからも喘息を抱え続けることになりますし、また一度治まってもぶり返すことがあります。
成人になってから患った喘息の場合は、完治は難しいといえます。小児喘息はアレルギーが関わっていることが多く、これは大人になるにしたがって変化~改善していくケースが多いといえます。しかし成人の場合はまだ研究途上ということもあり、「〇〇をすれば治る」とはいえないのが現状です。
もっとも現在は薬を使うことで、喘息がない人と同じような生活を送ることも可能になっています。
- Q2.呼吸器疾患を予防する方法はありますか?
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いろいろな病気があるため一概には言えませんが、喫煙はどの病気にも悪影響を及ぼします。予防のためにも、改善のためにも、煙草はやめるべきです。ちなみにアルコールは呼吸器内科の病気に直接関わることは少ないのですが、飲みすぎはNGです。
また、感染症予防のための手洗いやうがい、ワクチンも有効です。特にご高齢の方はインフルエンザに罹ると、それが文字通り命取りになるので、事前にワクチンの使用をおすすめします。
運動も有効です。体力がつくので、呼吸器の病気はもちろん、ほかの病気にも罹りにくくなります。
- Q3.家族が呼吸器の疾患に悩まされています。周りができることはありますか?
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呼吸器の疾患は、長く付き合っていくことになる病気も多いものです。調子が良いときもあれば悪いときもあるので、まずは病気について理解するように努めてください。また患者さんご自身が精神的に不安定になることもあるので、その不安に寄り添うスタンスをとっていただければと思います。
副流煙の影響があるので、ご家族も禁煙をしてください。また、病気の説明時にはご同席されることを推奨しています。特に重大な話をするときは、ご家族に付き添ってもらいたいと考えています。