
お名前 | 西園寺 尚美 |
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担当部署 | 看護部 |
役職 | 看護師主任 |
「表情や声のトーンは言葉以上に多くを語ります」として患者さん、ご家族との対話を大切にしている西園寺さんは看護部に所属している看護師です。コミュニケーションと安全面を重視しながら、いち看護師として、主任として、指導者として働く西園寺さんにお話を伺いました。
看護への興味×一生働ける資格=看護師
子供のころから「包帯の巻き方が自分と看護師さんではきれいさが違うな」と思っていました。高校時代に「今後、女性が一生働いていけるようにするためにはどのような資格がいいだろう?」と考えたのが、看護師を志した決め手となりました。
看護学生時代の臨地実習では「教科書通りではないこと」がたくさんあってとても緊張しましたね。何週間も続く実習は本当に大変で、看護計画立案や実習後の振り返りなどの記録があり大変な日々だったことを覚えています。「担当患者さんの病態知識だけではなく、看護の根拠が必要であり、自分の考えを文章化しなくては」と意識したものです。
私は東京女子医科大学看護専門学校を卒業後、そのまま東京女子医科大学病院に就職しました。看護部には学生時代の先輩・同期・後輩が大勢います。「〇回生です!」と話題に出ることも多く、同じ過程を通ってきているため話が通じ合えるところが多くありますね。仲間意識もありますし、団結力もあります。ただ、ほかの学校の出身者と馴染めないということなどは一切ありません。
変わりゆく現在の看護と、働き方
東京女子医科大学病院 救命ICUでの日勤の看護師の業務は、基本的には下記のような流れを取ります。
8:00 | 患者さんに関する病状や看護のトピックスなどを、夜勤看護師リーダーから日勤看護師全員に申し送る。各受け持ち患者さんの所へ行き挨拶をし、担当夜勤看護師から点滴、荷物などの申し送りを受ける |
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9:00 | バイタルサインの測定をする。看護師同士で、患者さんのベッドを周り、情報や本日の予定などを日勤看護師全体で共有する |
9:30 | 医師が来る。多職種全員で朝礼を行い、患者さんの状態や、その日の流れや予定を共有する。患者さんのベッドへ医師が回診をするため看護師リーダーが一緒に周る |
10:00〜 | 担当患者さんの体拭きや洗髪を行う。リハビリを開始する |
12:00~ | バイタルサイン、尿量測定、食事、内服介助をする |
13:00~ | 口腔ケアをする。検査出し、リハビリを行う |
14:00~ | 家族面会の準備、対応をする |
15:00〜 | 看護記録をする |
16:00~ | 日勤看護師全体で勤務の振り返りをする |
17:00~ | 夜勤の看護師に申し送りをする |
※昼夜問わず連絡があれば、救急車の対応をします
※点滴の投与や追加などは個人で違います
かつての看護師は始業前や終業後の「残業」が当たり前でした。規定の時間以上に職場にいることも多かったのですが、現在は看護部全体で残業の解消、働き方改革に努めています。次第に「長くいること=良いこと ではない」「職場に入るのは、始業15分前」「お互いに声かけをして、終わっていないところを助ける」などの意識が浸透しています。
看護師に求められる働き方や支援の方法は時代とともに変わり、昔と今では違いが見られます。
現在の看護には「看護倫理」を実践することが求められています。「自己意思決定のための支援」は、患者さんご自身にわずかに意思が確認できる場合、「ご家族の希望は〇〇だが、患者さんご自身はどう考えているのか?」「本当に患者さんとご家族の考えは同じなのか、患者さんとご家族の考えは合わせられるのか?」「ではご本人の意思を引き出す方法は?」ということを模索する必要があります。患者さんの望む生活に戻れるように意思を尊重していくことが大事だからです。
これは非常に難しい問題です。集中治療を受ける重症な患者さんにどう判断してもらうのかという難しさもありますし、身体拘束(抜かれると命に関わる管を挿入しているため、管を抜かないようにするために体を拘束すること)をどう考えるのかなど……たとえば、身体拘束は患者さんの尊厳を守るために十分に検討し、ご家族の同意が必要ですが、ご家族は実際にその姿を見ると「外してあげたい」とやるせない気持ちになることはよくあります。
言葉以外のものから読み取れるもの
患者さんの意思やご家族の考えを知るためには、対話が必要です。
看護師は患者さんやご家族と話す機会が多い立場にあります。時には、患者さん・ご家族の代弁者や擁護者になることもあります。そのため、話をするときは、特に「言葉以外の表情や声のトーン」からお気持ちをくみ取るように意識しています。
言葉は事実を語りますが、表情や声のトーンで、「言葉にしていないこと」を読み取る技術も、看護師には求められるものです。同じ単語であっても、患者さんやご家族が穏やかに話されているときもあれば、そうではないときもある。昔はただ「このように仰っていました」と伝えるだけでしたが、看護倫理や家族看護などの研修などを通じて、「それはどのようなニュアンスだったか?」を問われることもあり、私自身も臨床現場で日々学びながら身につけていきました。

「一口の水」の意味を思う
看護師人生のなかでもっとも忘れられないのが「一口の水」の話です。
以前勤務していたICUで、何度も入院を繰り返している患者さんを看ていました。呼吸が少し苦しそうな状態で「俺はもうだめかな?」という言葉に、これまでの経過から「治療して、また『あのときはつらかったけど頑張ったよね』と話せるようになりましょう」と声をかけたのですが、患者さんの具合はよくありませんでした。
その患者さんが「冷たい水を飲みたい」と仰ったんです。医師に相談すると「このあと治療する可能性があるからあまり飲ませない方がいいかも」と言われましたが、病状だけでなく、その方の今までの経過、大変な治療に耐えていたこともあり「これが本当にこの人にとって最後になるかもしれない」と思い、医療チームで検討し冷たい水を一口飲ませることにしました。その後、水を飲んだことで病状が変わることはなく、患者さんは目を閉じて「あー。おいしい。ありがとうね」と仰いました。
その数日後、その患者さんは静かに息を引き取りました。
同僚のチームと話し合って決めたこと、たったひとつだけでも最後に要望が叶えられたことは、私のなかで忘れがたい記憶になっています。
看護師は、患者さんやご家族からの言葉を聞くことが非常に多い立場です。特にICUの場合は「恐い所」「機械の音にびっくりする」など、緊張感や不安、恐怖心を持っている人も多く見られます。その不安感などの表出を促し、ほかの看護師と協同し、患者さんやご家族が納得の行く看護を提供していくことが、私たちの使命だと考えています。
一人ひとりの看護師が持つそれぞれの看護観を、患者さんの看護に生かす
私は患者さんの「安全」が一番大事だと思っていて、「入院中に患者さんが危険な状況になってはならない」と考えています。生命にかかわる医療機器も数多くありますから、正常な作動状況を確認し、多数の薬剤を同時に使用するため効果の相性などもしっかり確認しています。また、ベッド周りの患者さんの寝衣や、点滴や機器の確認がすぐに行えるように整え、環境面とチームワークを非常に重要視しています。看護師同士でコミュニケーションを図ることはもちろん、医師、薬剤師、栄養士、リハビリやケースワーカーなどともよく話をするようにしています。
ただ、看護師は一人ひとり看護観が異なります。
たとえば以前、「こんなに忙しいのに、なぜこの看護師はこれを優先しているのか?」ということがありました。その看護師に聞いてみると、「患者さんはこれが大事だと思っていたから」「患者さんにこれをしてあげたかったから」「患者さんの痛みをとりたかったから」という理由によるものだと分かった、ということがありました。
私は「安全面を考えたらこれを先にした方がよいのではないか」と考えていたけれど、その看護師は別のことを優先していたわけです。
これはどちらも間違ったものではありません。だれもが熱意を持って、自分自身の看護観を持って、看護師を志し、看護師として働いています。一人ひとりが持つ「それぞれの看護観」を周りに共有しておけば、お互いにフォローもしあえます。自分の考えを伝え、人の考えを聞き、信頼関係を築いていくことで、患者さんにとってより良き看護を提供できると考えています。
看護師一人ひとりの個性を認めて、良いところを引き出すのも仕事
看護観や個性は、一人ひとり異なるものです。その看護観や個性を認めて、良いところを引き出すのもまた、主任である自分の仕事であると考えています。
スタッフナースに間違えがあった場合には「なぜそのように行動をしたのか?」を尋ねたうえで、私の考えを話し「これは少し違っていたね」と伝えるようにしています。行動には、必ず背景がありますから。
リーダーナース一人ひとり成長をサポートしていくためには、相手の考えや背景を知ることが重要だと考えています。
また、スタッフナースを指導するリーダーナースとは、指導方法について積極的に相談し合う機会を設けています。リーダーナースがスタッフナースを指導する際に「個人に合った教育方法は何か?」と悩んでいることもあります。
経験豊富なリーダーナースたちが、それぞれの個性や強みを生かして後輩指導を行えるように、彼らの経験と想いを引き出し、次世代のリーダーを育成することで、より良いチーム医療を築いていけると考えています。
看護の仕事は、常に「人対人」です。予定通りに進まないことはよくあります。また、看護師は「体は予定通りに動くが、心がついていかない」ということもよくありますよね。そのような「大変さ」を抱える看護師を支えていけるように指導をしていくことが何よりも重要です。
現場と座学を繰り返して、ずっと自己研鑽を続けていく
看護師は正しい知識を持っていることはもちろんですが、「実際のものを見て、体験する」という経験も非常に重要な仕事です。なぜなら看護の知識は、この20年でどんどん変わっているからです。基本知識や自分が今までしてきた経験を大切にしつつ、座学→実践→自己省察、座学→実践→自己省察……を繰り返し、自己研鑽することが求められます。
時代とともに変わるもの、変わる時代のなかでも重要視するもの
今後の医療界ではますます「意思決定支援」が非常に重要になっていくと思います。医療者が治療、看護などを考え、患者さん、ご家族と対話をもち進めていくものとなっていくでしょう。看護師も意思決定支援において代弁者・擁護者などの役割が求められると考えています。
ただ、これらの研鑽を続けていくなかでも、絶対に忘れてはならないのが「傾聴」の姿勢です。看護師は、患者さんやご家族の真意に耳を傾け、理解しようとする姿勢を常に持ち続けていなければなりません。これは看護師の基本であり、忙しいなかでも忘れてはいけないものだと思っています。
Q & A
- Q1.看護師さんをしていて、やりがいを感じられるところはありますか?
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多職種でディスカッションをし、ご要望や病状などを聞いたうえで、その患者さんに合った看護・納得した医療を提供できることにやりがいを感じます。またそれが、ICU→病棟に移るときに引き継がれ、患者さんが退院されるとやはり嬉しくなります。
- Q2.看護師さんをしていて、大変だと感じられるところはありますか?
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40代に入ると、やはり夜勤がつらく感じますね……また、出産・育児の配分や、仕事との両立、ライフワークバランスは調整が大変でした。
ただシフトに慣れてしまえば夜勤明けに時間が取れるようになりますし、病院自体が私生活と仕事の両立のための積極的な取り組みを行っているので、昔とは大きく変わったと思います。
- Q3.ICUと救命ICUは違うもの?
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病院によりますが、当院では、
- 救命ICU→病院以外で具合が悪くなった人が救急車などで入るもので、「外部から」の対応が基本
- ICU→当院で大きな手術(4時間~24時間かかるようなもの)を受けた人の術後の管理や、入院経過中に具合が悪くなったりした人が入るもので、「院内から」の対応が基本
となるもの、とわけられています。