消化器・一般外科
診療内容
上部消化管外科
近年消化器外科領域では、体の負担が少ない内視鏡外科手術が積極的に行われるようになってきました。
中でも合併症が少ないと言われているロボット支援下手術を積極的に取り入れて、胃がん、食道がんの治療にあたっております。
また、GISTに代表される胃粘膜下腫瘍に対しては、腹腔鏡手術と内視鏡手術を組み合わせることで、切除範囲を最小限にとどめ、術後QOLの維持をめざしております。
さらに、2020年に保険適応となった肥満症に対する減量手術も開始し、あらゆる先端治療を実践しております。
上部消化器がん領域では、食道胃接合部がん(食道と胃の境界領域のがん)症例の増加、低侵襲手術の進化、化学放射線療法の発達などにより、治療戦略の多様化が顕著です。
また、高齢化社会により、さまざまな疾患を抱えた患者さんが増加しております。
多数の専門家と共同で治療にあたることで、個々の患者さんに適切な治療を提供いたします。
下部消化管外科
日本人はふたりにひとりががんにかかる時代となり、そのうち大腸がんは日本人で最も多いがんとなりました。
その一方で大腸がんの10年生存率はステージ2で83.9%、ステージ3で69.4%であり、消化器がんの中では極めてよい結果が得られています。
大腸がんを恐れすぎずに下血などの症状があれば必ず、また症状がなくてもぜひとも検診を受けましょう。
下部消化管外科では大腸がんの手術治療を中心に行っています。
大部分の手術は腹腔鏡やロボットを用いて体の負担の少ない方法で行うため入院期間も短くなります。
早期のがんには大腸内視鏡による治療、進行したがんには抗がん剤治療や放射線治療を担当の診療科と連携して行い、それぞれの患者さんにあった治療を選択していきます。
また肛門に近い大腸がんでも多くの方に肛門を残して手術ができるようになりました。
安全第一の上で患者さんの希望に添った治療を行っていきます。
炎症性腸疾患外科
炎症性腸疾患は、内科医、小児科医と外科医が協力しながら治療を継続していく疾患です。
内科治療の選択肢は増えましたが、一定の割合で手術が必要となる患者さんがいます。
内科治療で状況を打開できない場合には、手術を受けることで、入退院を繰り返すことなく学校生活や社会生活を快適に過ごすことができるようになります。
最近では、体に優しい腹腔鏡手術を積極的に取り入れており、小さな創で同様の手術が行えるようになりました。
手術は内科治療の失敗ではなく、内科治療との組み合わせを夫々の患者さんの状態に合わせて行っていく時代になったといえます。
- 患者さんの日々の生活スタイルも考慮しながら、病状に最も適した質の高い治療を提供します。
- 潰瘍性大腸炎、クローン病に対しては、手術経験と実績をもとに腹腔鏡手術など体にやさしい安全な手術を提供します。
また、クローン病では手術方法の工夫(腹腔鏡、吻合方法、狭窄形成術など)と手術後再発予防プログラムで再手術を防止します。
肝胆膵外科
肝胆膵外科では、肝臓、胆道(胆嚢・胆管・十二指腸乳頭部)、膵臓、そして十二指腸と脾臓の疾患の治療を行っています。
- 肝臓の疾患:がん、良性腫瘍、嚢胞、肝内結石症など
- 胆道の疾患:がん、良性腫瘍、ポリープ、胆石、胆嚢炎、胆管炎、先天性胆道拡張症、膵・胆管合流異常など
- 膵臓の疾患:がん、神経内分泌腫瘍、良性腫瘍、嚢胞、膵炎など
- 十二指腸の疾患:がん、神経内分泌腫瘍、GISTなど
- 脾臓の疾患:がん、良性腫瘍、脾機能亢進症、特発性血小板減少性紫斑病、遺伝性球状赤血球症など
治療手段は手術だけではありません。
化学療法、放射線療法、塞栓療法、ラジオ波焼灼術などを組み合わせた治療を行います。
さらに私たちは治療だけに留まらず、診断、術前検査、手術適応の判断、そして緩和療法も含めた総合的な診療を積極的に行っています。
病気だけでなく病気に罹った患者さんを全人的に診ることによって、それぞれの患者さんに適切な治療を提供することを目指しています。
対象疾患
食道がん
- 外科手術
ステージI~IIIまでが外科手術の適応となります。
大半の食道癌が発生する胸部食道に病変がある場合、食道亜全摘術が標準の術式となります。
下図のように、食道の大部分と胃の一部を周囲のリンパ節も含めて切除し、形成した胃(胃管といいます)を首または胸まで持ち上げて、残りの食道とつなぎあわせます。
ステージII, IIIに対してはまず化学療法(DCF療法など)を行い、その後に手術を行うことによって予後が向上することが分かっています。 - 化学療法
化学療法・緩和ケア科と連携して行っています。
上述の術前化学療法のほかに、切除不能進行がんや再発がんに対しては、最新のガイドラインに従って、腫瘍細胞の分子生物学的特徴や腫瘍量、年齢などを考慮し、免疫チェックポイント阻害剤を併用した化学療法も行っております。 - 放射線療法
放射線腫瘍科と連携して行っています。
周囲の正常組織へのダメージが少なくなるよう、腫瘍の形や体積に応じて照射量を調整する強度変調放射線治療(IMRT)が行える設備を有しており、効果的かつ副作用の少ない照射を行うことが可能です。 - 内視鏡的切除
腫瘍の広さなどにもよりますが、基本的には深達度が粘膜層までにとどまっている場合、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が適応となります。
この専門家集団である消化器内視鏡科は消化器病センターとして当科と一体を成しており、密に連携しながら症例の受け渡しを行っております。
胃がん
診断がついた時点でのステージ(進行の度合い)や患者さんのもともとの健康状態をもとに、手術だけではなく抗がん剤治療を含めた様々な治療方法の中から最適な治療法を、患者さんとよく相談したうえで選択します。
当科ではロボット支援下手術を積極的に行っています。
胃がんに対するロボット支援下手術は腹腔鏡下手術よりも手術に伴う合併症を少なくすることができるという実績が報告され、2018年4月より保険診療として受けることが可能になりました。
さらに腹腔鏡手術よりも生存率の向上が得られるとも報告もされており、当科では可能な限り、ロボット支援下手術を行なっております。
大腸がん
- 腹腔鏡手術
大腸切除術の大半を腹腔鏡手術で行っています。
傷や痛みが小さく術後の回復が早いだけでなく、繊細で出血量の少ない手術が可能という点が腹腔鏡手術のメリットです。
当科には現在、日本内視鏡外科学会技術認定医が3名在籍しています。
術者、助手、そして看護師が一丸となり安全な手術治療を行います。 - ロボット手術
手術支援ロボットであるダビンチを使用した直腸がんに対するロボット支援下手術は、2018年に保険診療として実施可能になりましたが、当科ではこれに先駆けて2017年より実施してきました。
また2024年より結腸がんにもロボット支援下手術を開始しました。
奥行きのある鮮明な三次元ハイビジョン画像や手ブレ防止機能、自由度の高い多関節鉗子操作などによって有効性を発揮します。 - 肛門温存手術
肛門に近い直腸がんでは、がんの切除後に永久人工肛門が必要となる場合があります。
しかし、がんの進行状況によっては、がんを確実に取り除いたうえで、肛門の筋肉の一部だけを切除して肛門を温存する手術方法(括約筋間直腸切除:ISR)が選択できます。
このような治療方法が普及したことによって、以前は永久人工肛門が必要だった患者さんの多くが、肛門を温存できるようになりました。
また進行した直腸がんには、手術前に放射線治療や抗がん剤治療を行って、肛門の温存や治療成績の向上を図っています。
炎症性腸疾患
- 潰瘍性大腸炎
若年者に多い疾患で近年増加傾向にあります。
内科的治療が中心ですが治療抵抗性の難治例や重症例では手術が必要になります。
手術は自然肛門を温存する術式が基本です。
当科では体に優しい腹腔鏡手術を積極的に取り入れ小さな創で手術を行っています。
手術は2回にわけて行います。
1回目の手術では、大腸をすべて切除して小腸にためる部分(回腸嚢)を作って肛門につなぎます。
大腸をすべて切除するのは、炎症の強い部分だけを切除すると、術後に残った大腸に同じような炎症が起きることや癌が発生する可能性があるためです。
1回目の手術では、つなぎめの安静を図るため一時的な人工肛門を造設しますが、2回目の手術で人工肛門を閉鎖するので人工肛門はなくなります。
最近は高齢者の患者さんが増加傾向にあり癌化例が増加しています。
癌化例では根治性を重視しつつ機能温存も考慮した手術を行っています。
また、潰瘍性大腸炎では、穿孔(腸に穴が開くこと)、大量出血、中毒性巨大結腸症などを重篤な状態に陥いることがあります。
この場合は速やかな治療が必要となり緊急手術で対応します。 - クローン病
潰瘍性大腸炎と同様に若年者に多い疾患で近年増加傾向にあります。
食事療法や内科的治療が中心ですが、穿孔、大量出血、腸管狭窄、膿瘍(膿がたまること)、内瘻(腸管と周囲の臓器がつながること)などを併発すると手術が必要となります。
手術では、体に優しい腹腔鏡手術を積極的に取り入れています。
クローン病は若年者が多く、長期経過の中で再燃し複数回手術が必要となることが多い疾患であり、複数回手術による腸管切除で短腸症候群(腸が短くなって栄養障害などがおきること)になることを回避する術式が選択されます。
腸管を温存するために病変部の切除は最小限にとどめ、狭窄形成術(狭窄状態に対し腸管を切除しないで腸管の内腔を拡げる方法)や再燃を少なくする吻合法の工夫なども行っています。
また、クローン病に高率に併発する、痔瘻や肛門周囲膿瘍に対しては肛門機能温存を基本とした手術を行っています。
肝臓がん
肝臓の腫瘍に対して行われる治療には、肝切除術、ラジオ波・マイクロ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、抗がん剤治療、放射線治療、肝移植などがあります。
肝内結石症に対しても肝切除術が行われます。
肝嚢胞に対しては、エタノール注入療法や、肝嚢胞開窓術が行われます。
-
- 腹腔鏡下肝切除術
肝臓は右の肋骨の奥深いところに納まっているため、開腹手術では体壁をかなり大きく切開する必要がありますが、腹腔鏡手術ではいくつかの小さな穴と肝臓を取り出すための最低限の切開ですみます。
もうひとつは出血量が少ないことです。
肝臓内の血管では血圧が比較的低いため、気腹によってお腹の中の気圧を上げた状態で手術を行うと、切断中の肝臓の表面からの出血量が少なくなります。
もちろんすべての肝切除術が腹腔鏡手術に適しているわけではありませんが、適切な選択と適切な技術によって開腹手術と変わらない手術成績が得られることはすでに証明されています。 - 肝内胆管がん(胆管細胞がん)の治療
肝内胆管がんは、肝細胞がんと比較すると手術による治療成績が不良で、手術後の5年生存率は一般的に30〜40%くらいでした。
しかし近年は、手術と化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせることにより5年生存率が約60%まで改善しています。
当科でも、手術の前後に積極的に化学療法を行うことで、治療成績が大幅に改善しています。
- 腹腔鏡下肝切除術
胆道がん
胆道がんの根治的治療法は外科切除です。
かつては手術をしてもがんを完全に切除しきれない場合が多かったり、手術後の合併症率や死亡率が高いことが問題になっていました。
しかし、近年ではCTなど画像診断の進歩と手術の定型化により、手術前にがんの範囲、周囲の血管や肝臓との位置関係の把握がより正確にできるようになったこと、術前術後の体調管理上の様々な対策と工夫が進んだことによって、手術成績が向上しました。
なお、手術では明らかにがんをすべて切除しきれない場合(切除不能)や、切除できたように見えても目に見えない(検査では指摘できない)レベルでがんが残る可能性が非常に高い場合(切除可能境界)には、化学療法(抗がん剤治療)を数か月間行います。
その結果、がんが縮小したり、がんが大きくならない、もしくは新たな転移が見つからなければ、あらためて手術を行うことを検討します。
また、がんの進行度によって、手術の後に抗がん剤治療(術後補助化学療法)を行うことをお勧めする場合があります。
膵臓がん
膵がんは非常に悪性度が高く、また見つかった時点で既に進行していることが多いため、他の臓器のがんと比較すると患者全体の治療成績は不良です。
しかし、膵がんであっても早期に発見して適切な治療を受ければ、高い確率で治すことが可能です。
また、ある程度進行した膵がんに対する治療も、抗がん剤治療の発展に伴って大きく改善してきました。
一般的に、がんの治療成績をよくするためには、早期発見と治療法の進歩の2つが鍵になります。
診療実績
令和5年 | 令和4年 | 令和3年 | |
---|---|---|---|
食道切除 | 16 (R:16) |
18 (L:6 R:7) |
32 (L:22) |
胃切除 | 56 (L:15 R:37) |
41 (L:9 R:26) |
44 (L:8 R:28) |
結腸がん | 96 (L:92) |
96 (L:91) |
95 (L:89) |
直腸がん | 49 (L:30 R:19) |
34 (L:10 R:24) |
57 (L:39 R:15) |
潰瘍性大腸炎 (初回手術のみ) |
7 (L:6) |
7 (L:7) |
10 (L:8) |
クローン病 (初回手術のみ、肛門症例は含めず) |
4 (L:4) |
7 (L:7) |
5 (L:3) |
肝臓領域 | 95 (L:74) |
83 (L:47) |
121 (L:63) |
胆道領域 | 176 (L:154) |
171 (L:140) |
143 (L:117) |
膵臓領域 | 86 (L:28) |
98 (L:27 R:5) |
120 (L:56 R:3) |
L:腹腔鏡手術 R:ロボット支援下手術