放射線腫瘍科
診療内容
放射線腫瘍医は、がんの種類、位置、大きさに応じて最適な放射線治療計画を立て、治療適応を判断します。治療計画が決まると、医学物理士が放射線の線量を確認し、診療放射線技師が正確に放射線を照射します。その間、看護師がケアを提供し、患者をサポートします。近年では、強度変調放射線療法(IMRT)や体幹部定位照射(SBRT)などの高精度放射線治療が導入され、画像誘導放射線療法(IGRT)を用いて病巣に正確に照射することができるようになりました。治療期間中は、少なくとも週に一度の専門医の診察があり、照射終了後も定期的に診察を継続します。放射線治療には副作用が伴うことがあるため、医師はこれらの副作用を予防・管理します。
対象疾患
放射線治療は、全身のあらゆるがんが対象になります。例えば、乳がん、前立腺がん、肺がん、脳腫瘍などです。また、がんの転移や再発腫瘍も対象になります。その他、ケロイドや血管腫のなど、一部の良性疾患も対象になります。放射線治療はさまざまながんの治療において重要な役割を果たしており、がんの種類や進行度、患者さんの健康状態に応じて最適な治療法が選ばれます。
乳がん
肺がん
肝臓がん
肝臓の腫瘍に対して行われる治療には、肝切除術、ラジオ波・マイクロ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、抗がん剤治療、放射線治療、肝移植などがあります。
肝内結石症に対しても肝切除術が行われます。
肝嚢胞に対しては、エタノール注入療法や、肝嚢胞開窓術が行われます。
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- 腹腔鏡下肝切除術
肝臓は右の肋骨の奥深いところに納まっているため、開腹手術では体壁をかなり大きく切開する必要がありますが、腹腔鏡手術ではいくつかの小さな穴と肝臓を取り出すための最低限の切開ですみます。
もうひとつは出血量が少ないことです。
肝臓内の血管では血圧が比較的低いため、気腹によってお腹の中の気圧を上げた状態で手術を行うと、切断中の肝臓の表面からの出血量が少なくなります。
もちろんすべての肝切除術が腹腔鏡手術に適しているわけではありませんが、適切な選択と適切な技術によって開腹手術と変わらない手術成績が得られることはすでに証明されています。 - 肝内胆管がん(胆管細胞がん)の治療
肝内胆管がんは、肝細胞がんと比較すると手術による治療成績が不良で、手術後の5年生存率は一般的に30〜40%くらいでした。
しかし近年は、手術と化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせることにより5年生存率が約60%まで改善しています。
当科でも、手術の前後に積極的に化学療法を行うことで、治療成績が大幅に改善しています。
- 腹腔鏡下肝切除術
成人脳腫瘍
髄膜種
脳を覆っている膜から発生する腫瘍で、脳や血管などの構造物を圧迫しながら大きくなっていく腫瘍です。症状がある場合は積極的な治療を要することが多いですが、無症状で偶然見つかった場合は、個々に応じた判断・対応を必要とします。
神経膠腫(グリオーマ)
脳にある神経膠細胞が腫瘍化したもので、脳組織内に染み込むように浸潤するため、悪性脳腫瘍に分類されます。病理診断上、悪性度に応じてグレードが4つにわかれており、手術加療に加えて、放射線、化学療法など集学的な治療を行います。
下垂体腫瘍
下垂体とは脳底部に細い茎で繋がる1cmくらいの小さな器官で、全身のホルモンバランスをコントロールし、身体中の様々な機能を調節しています。下垂体腺腫、ラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫などの他に、視神経膠腫、胚細胞腫、髄膜腫、脊索腫といった腫瘍が発生します。
聴神経腫瘍
聴神経腫瘍とは、聴力を伝える神経の周囲を鞘のように被っているシュワン細胞から発生する腫瘍です。年齢や腫瘍の大きさ、症状を診断した上で経過観察、手術による摘出、ガンマナイフなどによる局所放射線照射、上記の組み合わせなどの治療方針を選択いたします。
その他の腫瘍
脳腫瘍の分類は現在130種類以上存在し、自然歴、部位、大きさなどにより治療法、手術法が異なるため個々の病態に併せた治療が必要となります。年齢や腫瘍の大きさ、症状で経過観察、手術による摘出、放射線治療、化学療法などの治療方針を選択いたします。血液・腫瘍
食道がん
- 外科手術
ステージI~IIIまでが外科手術の適応となります。
大半の食道癌が発生する胸部食道に病変がある場合、食道亜全摘術が標準の術式となります。
下図のように、食道の大部分と胃の一部を周囲のリンパ節も含めて切除し、形成した胃(胃管といいます)を首または胸まで持ち上げて、残りの食道とつなぎあわせます。
ステージII, IIIに対してはまず化学療法(DCF療法など)を行い、その後に手術を行うことによって予後が向上することが分かっています。 - 化学療法
化学療法・緩和ケア科と連携して行っています。
上述の術前化学療法のほかに、切除不能進行がんや再発がんに対しては、最新のガイドラインに従って、腫瘍細胞の分子生物学的特徴や腫瘍量、年齢などを考慮し、免疫チェックポイント阻害剤を併用した化学療法も行っております。 - 放射線療法
放射線腫瘍科と連携して行っています。
周囲の正常組織へのダメージが少なくなるよう、腫瘍の形や体積に応じて照射量を調整する強度変調放射線治療(IMRT)が行える設備を有しており、効果的かつ副作用の少ない照射を行うことが可能です。 - 内視鏡的切除
腫瘍の広さなどにもよりますが、基本的には深達度が粘膜層までにとどまっている場合、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が適応となります。
この専門家集団である消化器内視鏡科は消化器病センターとして当科と一体を成しており、密に連携しながら症例の受け渡しを行っております。
膵臓がん
膵がんは非常に悪性度が高く、また見つかった時点で既に進行していることが多いため、他の臓器のがんと比較すると患者全体の治療成績は不良です。
しかし、膵がんであっても早期に発見して適切な治療を受ければ、高い確率で治すことが可能です。
また、ある程度進行した膵がんに対する治療も、抗がん剤治療の発展に伴って大きく改善してきました。
一般的に、がんの治療成績をよくするためには、早期発見と治療法の進歩の2つが鍵になります。
その他婦人科悪性疾患
子宮頸癌
頭頸部癌
頭蓋顎顔面外科におけるシミュレーション手術とチーム医療
頭頸部の良・悪性腫瘍
大腸がん
- 腹腔鏡手術
大腸切除術の大半を腹腔鏡手術で行っています。
傷や痛みが小さく術後の回復が早いだけでなく、繊細で出血量の少ない手術が可能という点が腹腔鏡手術のメリットです。
当科には現在、日本内視鏡外科学会技術認定医が3名在籍しています。
術者、助手、そして看護師が一丸となり安全な手術治療を行います。 - ロボット手術
手術支援ロボットであるダビンチを使用した直腸がんに対するロボット支援下手術は、2018年に保険診療として実施可能になりましたが、当科ではこれに先駆けて2017年より実施してきました。
また2024年より結腸がんにもロボット支援下手術を開始しました。
奥行きのある鮮明な三次元ハイビジョン画像や手ブレ防止機能、自由度の高い多関節鉗子操作などによって有効性を発揮します。 - 肛門温存手術
肛門に近い直腸がんでは、がんの切除後に永久人工肛門が必要となる場合があります。
しかし、がんの進行状況によっては、がんを確実に取り除いたうえで、肛門の筋肉の一部だけを切除して肛門を温存する手術方法(括約筋間直腸切除:ISR)が選択できます。
このような治療方法が普及したことによって、以前は永久人工肛門が必要だった患者さんの多くが、肛門を温存できるようになりました。
また進行した直腸がんには、手術前に放射線治療や抗がん剤治療を行って、肛門の温存や治療成績の向上を図っています。
骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌
診療実績
外部照射
令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|
乳癌 | 133 | 119 | 159 |
脳・脊髄腫瘍 | 109 | 115 | 103 |
肺・縦郭腫瘍 | 50 | 59 | 44 |
前立腺癌 | 39 | 46 | 51 |
血液腫瘍 | 82 | 61 | 65 |
食道癌 | 30 | 17 | 12 |
肝臓 | 24 | 48 | 64 |
膵臓 | 23 | 15 | 11 |
婦人科腫瘍 | 21 | 25 | 20 |
頭頸部 | 26 | 17 | 17 |
直腸 | 13 | 12 | 13 |
骨転移 | 118 | 91 | 89 |
合計 | 668 | 625 | 648 |
強度変調放射線治療
令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|
脳・脊髄腫瘍 | 68 | 79 | 65 |
肺・縦郭腫瘍 | 33 | 40 | 35 |
前立腺癌 | 22 | 23 | 11 |
食道癌 | 17 | 11 | 10 |
肝臓 | 18 | 14 | 9 |
膵臓 | 8 | 9 | 13 |
婦人科腫瘍 | 12 | 14 | 12 |
頭頸部 | 18 | 12 | 6 |
直腸 | 6 | 7 | 6 |
泌尿器系腫瘍 | 5 | 9 | 22 |
リンパ節転移 | 3 | 11 | 12 |
骨転移 | 4 | 1 | 3 |
その他 | 47 | 28 | 32 |
合計 | 261 | 258 | 236 |
定位放射線治療
令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|
肺 | 16 | 19 | 15 |
肝 | 14 | 25 | 29 |
脳・脊髄 | 11 | 2 | 4 |
骨腫瘍 | 5 | 5 | 6 |
前立腺 | 0 | 2 | 9 |
その他 | 1 | 0 | 2 |
合計 | 47 | 53 | 65 |
部門HP
2024年4月1日現在
緑文字 =予約外 紫文字 =救急当番 茶文字 =予約外+救急当番
★:教授 ☆:臨床教授 ◎:准教授 △:臨床准教授 ◆:講師 ◇:准講師
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | 土曜日 | |
---|---|---|---|---|---|---|
午前 |
◇栗林 茂彦 大松 賢太 |
◇栗林 茂彦 河野 佐和 |
辻井 美貴 |
★橋本 弥一郎 |
★橋本 弥一郎 辻井 美貴 |
★橋本 弥一郎 |
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | 土曜日 | |
午後 |
◇栗林 茂彦 大松 賢太 |
◇栗林 茂彦 河野 佐和 |
★橋本 弥一郎 辻井 美貴 大松 賢太 |
★橋本 弥一郎 河野 佐和 |
★橋本 弥一郎 辻井 美貴 |
-
教授・基幹分野長
橋本 弥一郎はしもと やいちろう
専門分野 高精度放射線治療(特に脳腫瘍、前立腺癌、膵癌、直腸癌) 小線源治療(子宮癌)
認定資格 博士(医学)
日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会
放射線治療専門医
日本医学放射線学会臨床研修指導者
日本がん治療認定医機構
がん治療認定医 -
講師
金井 貴幸かない たかゆき
専門分野 医学物理学 重粒子線治療 人工知能の放射線治療応用
認定資格 博士(医学)
医学物理士
治療専門医学物理士
診療放射線技師 -
准講師
栗林 茂彦くりばやし しげひこ
専門分野 放射線療法全般(特に頭頸癌、ケロイド)
認定資格 博士(医学)
日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会
放射線治療専門医
日本医学放射線学会臨床研修指導者 -
助教
河野 佐和こうの さわ
専門分野 放射線療法全般(特に乳癌、食道癌)
認定資格 日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会
放射線治療専門医
日本がん治療認定医機構
がん治療認定医 -
助教
辻井 美貴つじい みき
専門分野 放射線療法全般(特に乳癌、食道癌)
認定資格 博士(医学)
日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会
放射線治療専門医 -
助教
大松 賢太おおまつ けんた
専門分野 放射線療法全般(特に肺癌、肝癌の体幹部定位照射)
認定資格 日本専門医機構
放射線科専門医
日本がん治療認定医機構
がん治療認定医 -
派遣講師 (済生会川口総合病院 放射線科部長)
中村 香織なかむら かおり
専門分野 放射線治療全般(特に緩和的治療)
認定資格 博士(医学)
日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会
放射線治療専門医
日本がん治療認定医機構
がん治療認定医
マンモグラフィー読影A
第一種放射線取扱主任者免状・合格 -
派遣医員(准講師) (東京都立多摩総合医療センター 診療放射線科 部長)
泉 佐知子いずみ さちこ
専門分野 放射線療法全般(特に頭頸部癌、食道癌)
認定資格 日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会
放射線治療専門医
日本がん治療認定医機構
がん治療認定医
日本医学放射線学会
研修指導者 -
非常勤講師 (国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 主幹研究員)
藤田 真由美ふじた まゆみ
専門分野 放射線生物学
認定資格 博士(学術)
研究内容
放射線腫瘍学・臨床研究
寡分割照射法の臨床応用
難治性腫瘍に対する集学的治療法
高精度放射線治療の臨床応用
難治性不整脈に対する体幹部定位照射
早期乳癌に対する重粒子線治療
医学物理学・基礎研究
高精度放射線治療の最適化
強度変調放射線治療の至適な治療計画方法の確立
人工知能を用いた放射線治療の質と効率の改善に向けた基礎研究
放射線生物学・基礎研究
エックス線および重粒子線の放射線感受性に関わる因子の検討
エックス線および重粒子線の放射線感受性に関わる分子標的の探索
遅発性放射線有害事象の発症メカニズムについての基礎的検討と治療法の開発
よくあるご質問
- 放射線治療中に気をつけることはありますか?
照射範囲の刺激を控えること、禁煙・禁酒、規則正しい生活などを心掛けていただきます。 - 診察から放射線治療の開始までの流れを教えてください。
初診時に放射線治療医が診察し、放射線治療計画日を決めます。放射線治療計画とは、からだにマークをつけ放射線治療用のCTを撮像し、放射線治療に必要なデータを収集する作業です。高精度放射線治療の場合は、放射線治療計画日から1週間から10日後、通常照射の場合は翌々日から治療開始します。 - 放射線治療を受けた場合、家族に影響がありますか?
まったく影響はありません。