1.概要
血管撮影検査とは、カテーテルを用いて血管内に造影剤を注入し、X線により連続撮影することで血管の形態やその分布および臓器を描出する検査です。血管系疾患(狭窄・閉塞性虚血、瘤など)や支配臓器の疾患(腫瘍、出血など)の診断、治療方針の決定を目的としています。血管の形状、走行、分布などリアルタイムでの情報が得られ、そのまま治療(IVR: Interventional Radiology)を施行することも可能です。
2.特色
専門領域ごとに検査室が分かれており、それぞれの診療科と共に専門性の高いさまざまな検査および治療を行っています。Hybrid OR室では従来の検査の他に、エキシマレーザーを用いた感染ペースメーカーリード抜去など数多くの高度先進医療を提供しています。Hyper SCOT A室では脳神経領域を専門とした検査・治療を行い、特に脳動脈瘤に対する塞栓治療ではコイルや最新の脳動脈瘤治療用デバイスを使用した新たな治療を提供しています。小児循環器分野では本邦において最初に循環器小児科を設立し、先天性心疾患をはじめとする多くの疾患に対するカテーテル検査およびIVRを行っています。特に当院はASD(心房中隔欠損症)、PDA(動脈管開存症)の認定施設であり、その検査数が多くなっています。
3.装置・検査方法の説明
Hybrid ORを含め8台の血管撮影装置があります。使用する装置が専門領域ごとに分かれ、それぞれが適した装置を用い、さまざまな血管撮影検査や血管内治療を行っています。検査での被ばくに関しては、装置の線量管理や被ばく線量管理ソフトを導入しデーターベース化した管理をしています。また、全国循環器撮影研究会におけるIVR被ばく低減認定施設として認められました。
Hybrid OR室
Hybrid OR室とは、据え置き型X線血管撮影装置と手術用寝台を組み合わせた手術室です。Hybrid ORの特徴はカテーテルによる血管内治療と外科的治療を一つの手術室にて行うことができます。本システムは2014年4月から稼働を開始しました。血管撮影装置はSHIMADZU Triniasが導入され、CTライクイメージングはもちろん、動きに非常に強い(体動や呼吸、蠕動や寝台の動きの影響を受けにくい)DSAであるRSM-DSAや、拍動で動くステントをリアルタイムで固定表示できるソフトウェアが搭載されています。主な対象症例としては胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療(TEVAR、EVAR)、エキシマレーザーを用いた感染ペースメーカーリード抜去などがあげられ、2015年12月から大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)も行っています。循環器領域のみならず脳外科領域の疾患へも多く利用され、外科的手術と比較すると低侵襲な治療方法として注目を集めています。
Hyper SCOT A室
頭部領域
Hyper SCOTとは、脳神経外科領域における「スマート治療室」のハイパーモデル「Hyper SCOT (Smart Cyber Operating Theater)」であり、手術室や治療室内にある医療機器や設備を接続・連携させ、手術の精度や安全性の向上を図るプロジェクトを進めています。
Hyper SCOT A室はアンギオ装置を装備した検査・治療室であり脳動脈瘤、AVM、もやもや病などの診断、脳動脈瘤塞栓術や頸動脈ステント留置術などの血管内治療が施行されています。
心臓領域
各専門領域の検査
狭心症や心筋梗塞に対する検査およびPCI、末梢動脈性疾患の重症下肢虚血に対するPPI、心筋症の生検、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するBPA、やMitra Clipを用いた経皮的僧帽弁接合不全修復術、経皮的肺動脈弁置換術(TPVI)を行っています。また、不整脈に対してのアブレーションおよびPM・ICD・CRT挿入、やリードレスペースメーカ(MICRA)、血管外植込み型除細動器(EV-ICD)などが施行されています。
消化器領域
肝腫瘍のTACEを主とした薬剤溶出性ビーズやマイクロバルーンカテーテルなどを使用した治療が施行されています。その他に経皮経肝門脈塞栓術(PTPE)、バルーン下逆行性静脈的塞栓術(B-RTO)などの血管内治療も行われています。
全身、救急領域
画像診断・核医学科、腎臓外科、呼吸器外科による副腎静脈サンプリング、透析患者のシャント造影・PTAなどの検査、血管内治療、また、救命救急センターによる緊急検査も行われています。
4.取り組み
新しい技術
血管撮影に係る新しい装置や技術の研究が日々行われています。当院にはHybrid ORやHyper SCOT A血管撮影装置が導入されています。装置の保守・品質管理プログラムを立案し装置更新計画を実行することで、今後も先端技術の導入を計画しています。
チーム医療
私たち診療放射線技師は、医師がスムーズに手技を進められるように手技内容を理解し、対象血管が観察しやすい画像を提供することを心がけています。また、血管撮影検査は、医師、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師など多くの職種によって成立しています。安全かつ円滑で良質な検査を行うためにはきめ細かなコミュニケーションが必要になります。コミニュケーションスキルの向上に努めています。
医療安全
血管撮影検査は他の検査と比較すると侵襲的な検査といえます。血液の付着したものを直接扱うことも多いため感染に対して細心の注意を払っています。また、検査からそのまま治療を行うことも多く、透視時間の延長などによる被ばく線量の増加が懸念されます。この高線量被ばくのおそれから患者さんおよびスタッフを回避させる役割が診療放射線技師には求められています。放射線防護衣、防護板の品質管理、手技中の被ばく線量管理およびスタッフへの情報提供・共有など患者さんはもちろん医師をはじめとする全チームスタッフに対する被ばく低減を心がけています。