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◆研究発表◆
住民健診における動脈硬化指標としての高感度CRPの意義と問題点

小島原典子(衛生学公衆衛生学(二))・新井 信 ・佐藤 弘・湯村和子・二瓶 宏・山口直人
〔目的〕高感度CRPは,鋭敏な炎症性マーカーであるばかりでなく,LDLコレステロールとは独立に,虚血性心疾患のリスクマーカーとなると欧米の疫学研究で報告されている(Ridker PM,2001).わが国の虚血性疾患は糖尿病等の基礎疾患を有することが多いが,高脂血症を伴わなくても,糖尿病では,全身的な動脈硬化が進展するなど,その機序には不明な点が多く,高感度CRPとの関連も明らかになっていない.われわれは,一般住民検診の項目に高感度CRPを追加して動脈硬化性疾患のリスクを前向きに評価していく予定だが,初年度は特に,糖尿病との関連をHbA1cを中心に横断的に検討したので報告する. 〔対象と方法〕本研究は,東洋医学研究所と早稲田大学人間総合研究センターが共同して平成14年より行っている,「東洋医学を取り入れた医療による村民の健康管理に関する調査研究」の一環として,平成16年より長野県H村にて始まった縦断研究である.対象は,H村の20歳以上の住民約1500名のうち同意の得られた554名に対し,平成16年度住民検診の際に,高感度CRPの測定,既往歴,家族歴,糖尿病治療歴,生活習慣を調査した.血清は,一般生化学検査測定後,−20℃にて保存し,NラテックスCRPIIを用い,ベーリングネフェロメーターII(BN II, デイトベーリング社)にて高感度CRPを測定した.統計解析は,JMP®を用い,Χ2検定,分散分析,ロジスティック解析を行った. 〔結果〕同意書の得られた555名のうち感染により高感度CRPが35mg/dl以上であった1名を除外した554名(男226名,女328名,平均年齢63±14.1歳)を対象とした.このうち,糖尿病があると答えた人(DM群)は,計47名(糖尿病治療薬内服中:16名,食事療法中:19名,インスリン治療中:4名,放置8名)であり,残り497名を非DM群とした.DM群と非DM群を比較すると,年齢は,DM群が有意に高く,高脂血症の合併が多かった.血液生化学検査では,DM群では,HbA1c,空腹時血糖が有意に上昇しているほか,白血球上昇,総蛋白上昇,LDL上昇,HDL低下,アミラーゼの低下を有意に認めた.高感度CRPは,DM群で0.0992±0.1446,非DM群で0.0988±0.2915だが有意差はなく,年齢,性で調整したロジスティック解析でも相関は認めなかった.また,空腹時血糖とHbA1cと,高感度CRPも相関を認めなかった. 〔総括〕今回の我々の研究では,糖尿病歴,空腹時血糖とHbA1c,高感度CRPのいずれも動脈硬化の指標である高感度CRPと相関を認めなかった.高感度CRPは,鋭敏であるためにごく軽度の炎症でも上昇するため,動脈硬化による慢性炎症の評価には,2回以上の測定が必要と考えられた.今後,コホートにて糖尿病の発症,合併症の進展と高感度CRPの関連を経年的に検討していく予定である.
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