◆一般演題◆
1.μ-CTによる先天異常ヒト胎児頭蓋骨の3次元的形態形成の解析
芝田高志(解剖学)・松本寿美子・佐々木宏
頭蓋骨の個体発生は古くから興味が持たれており、今日では形態形成に関与する遺伝子レベルの研究が活発になされている。ところが、立体的な形態に関しては、観察手法に乏しいことからシェーマや文書による記述に限定されてきた。演者らは、形態学的視点からヒト頭蓋骨の形態形成の追究を行っているが、その一環として、μ-CTにより初めて先天異常ヒト胎児の頭蓋骨の詳細な3次元的形態を得ることを試みた。対象としたのは、極めて稀な症例である非対称性重複奇形8ヶ月女児の自生体の頭頚部およびその肩甲部に付着している頭部のみの寄生体である。
自生体の頭蓋骨の形態は正常であったが、寄生体は耳頭症(無下顎、合耳、単鼻孔)であり、ほとんどすべての頭蓋骨の形態が異常であった。しかしながら、これは、全頭蓋骨に於ける根源的な異常ではなく、正中部付近の一部、すなわち、後頭骨、鋤骨の一部、篩板の欠損が引金となり、本来それらに隣接する骨(原基)が空隙に移動したため、左右の側頭骨および正中の顔面頭蓋の癒合やオーバーラップが起き、結果的にすべての頭蓋骨が変形したと類推された。従って、頭蓋骨の形態形成は、頭蓋の中心への凝集力と外側への成長力の総和であり、粘度の高い流体の挙動として扱える可能性が示唆される。
なお、このように、μ-CTの手法は通常の剖検では明らかにできない詳細な内部構造の可視化に威力を発揮できるものの、市販のμ-CTの階調分解能は医用CTの数百分の一程度に過ぎず、断層像内の面内感度分布も不均一であることから、ファントムによる装置の性能評価を含め得られた形態の解釈に充分な注意が必要である。
2.石灰化動脈硬化が骨の粗鬆化に与える影響―動脈の石灰化は骨粗鬆症を誘発し、骨の粗鬆化は動脈の石灰化を促進する?―
芝田高志(解剖学)・松本寿美子
動脈硬化と骨粗鬆症の相関についてはエストロゲン、コレステロール、ビタミンDなど共通因子による全身レベルでの指摘が数例あるのみである。 一方、演者らは、石灰化した動脈(が栄養する)近傍の骨に粗鬆化が起き、石灰化度と骨密度に局所的な負の相関があることを解剖献体者の下腿や大腿骨頭・頚部から見いだした。さらには、腸骨〜大腿動脈付近に石灰化が観察された場合、人工股関節である割合が、男性では約2倍、女性では約8倍と非常に高いことが示された。この現象は、石灰化動脈硬化が心筋梗塞、脳梗塞などに限らずに、骨粗鬆症やそれによる骨折の重大な危険因子であることを意味している。 また、骨と石灰化巣のヒドロキシアパタイト(HA)の結晶構造を比較したところ、MgやZnなどの含有不純物が同一であるばかりか、皮質骨と石灰化巣の外側、海綿骨と石灰化巣の内側の分子軌道の結合エネルギーがそれぞれ同一であった。さらに、ウサギでのオートラジオグラフィやin vivo-SPECTによって、石灰化巣にも99 mTc-HMDP(代謝中の骨に取込まれる)が集積されることが確認された。従って、動脈の石灰化巣は、単なるCaの沈着ではなく、あたかも骨形成がなされているが如くである。 以上の結果から、動脈の石灰化は骨の粗鬆化(骨粗鬆症)を誘発し、骨の粗鬆化は動脈の石灰化を促進するという競争的悪循環が生じていると考えられる。この現象の機序として、1)局所の虚血、2)骨への運動負荷低減、3)骨と石灰化部位の成分の平衡関係による骨の粗鬆化などが考えられる。

3.ラット舌筋にみられる肥満細胞の形態学的観察
金井孝夫(実験動物中央施設)・上芝秀博
 [背景・目的]ラット舌内の肥満細胞について胎生期〜若齢期ラットの報告がある。今回、生涯発達過程における肥満細胞の動態を知る目的で成熟期〜老齢期にかけてラット舌の肥満細胞を観察した。(方法)ラット系統はCrj:SDIGS、Jla:Wistar、37〜121週齢、♀3,♂4。エーテル過麻酔で犠牲死、舌採取後に舌尖、舌体、舌根に3分割し一部組織標本用に切出し10%中性緩衝ホルマリン液で固定後、常法にてtoluidineblue、PAS、HE、Masson trichrome染色施行し舌内肥満細胞数/分布を計測した。舌背、左右、下の4カ所で肥満細胞数/1視野の算定した。判定は0個:−、1〜10個:+、11〜30個:++、30個以上:+++とした。動物の取扱いは動倫整理番号03-104で東女医大動物実験規定を順守した。(結語)1.肥満細胞は成熟〜老齢ラット舌でも観察された。2.舌内の肥満細胞数/分布は成熟〜老齢ラットの系統(Crj:SDIGS,Jla:Wistar)、性、また舌区分(舌/尖・体・根)でも差異がなかった。3.肥満細胞の舌内分布は舌扁平上皮下の結合織に少数、舌筋層の結合織で多数、舌内の血管周囲結合織に僅かで、この傾向は舌3区分も同様であった。稿を終え標本作製の労につき本施設の大西直子施設員に謝意を述べる。なお、本発表の一部は第2回比較歯科医学研究会(日大松戸歯)において報告した。

4.上皮細胞増殖因子受容体の二重阻害による放射線感受性増感
福留美夏(放射線医学)・前林勝也・那須佐知子・篠田宏文・関 香織・橋本弥一郎・Rimma SHYMANSKA・三橋紀夫
 [目的]上皮細胞増殖因子受容体ファミリーであるEGFRとHER2を同時発現するA431細胞株を使用して,受容体の二重阻害による放射線増感効果を検討した.
 [方法]EGFR阻害剤としてはZD1839をHER2阻害剤としてはTrastuzumabを使用し,生存・増殖シグナル関連蛋白の発現量の変化をWestern blottingで,放射線感受性を増殖抑制効果とコロニー形成能で評価した.
 [結果]3Gyの放射線照射によってEGFRならびにHER2ともにリン酸化が誘導されたが,EGFRの照射によるリン酸化はZD1839 0.1μMで,HER2の照射によるリン酸化はTrastuzumab 100μg/mlで抑制された.ZD1839はEGFRのリン酸化を抑制するとともにHER2のリン酸化をも抑制した.いずれの阻害剤によっても放射線増感効果が認められたが,両者の同時併用による上皮細胞増殖因子受容体の二重阻害では相乗的な放射線増感効果が認められた.
 [考察・結論]阻害剤併用で放射線増感効果の増強が認められ,EGFRならびにHER2を起点とする生存シグナルの下流への伝達をブロックしていることが放射線増感の機序と考えられた.また,2つの受容体を起点とするシグナル伝達機構のクロストークが存在することが示唆された.
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