生検標本/細胞診による病理診断

肺癌の約70%は進行癌であり手術ができないため,小さな生検標本で診断する必要がある.かつては,小さな標本で組織型を判断できない場合は,肺癌を小細胞癌と非小細胞癌に分類した.しかし,近年,
  1. EGFR遺伝子の突然変異は大半が腺癌にみられ,EGFR遺伝子の突然変異が存在すると予後が良好で,EGFR-TKIが奏功する
  2. 腺癌あるいは大細胞癌は葉酸代謝拮抗薬であるpemetrexedによる治療に反応するが,扁平上皮癌は反応しない
  3. 扁平上皮癌に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であるbevacizumabを投与すると大出血を起こすため危険である
  4. 遺伝子融合(EML4-ALK)により形成された肺癌は ALK阻害薬が奏功する
ことなどがわかり,非小細胞癌を可能ならば更に腺癌か扁平上皮癌かに分類することが要求される.そのために,免疫染色で,扁平上皮癌のマーカーとしてp63, p40, CK5/6を,腺癌のマーカーとしてTTF-1, Napsin Aを用いる.また,PAS染色やmucicarmine染色などの粘液染色も腺癌のマーカーとして有用である.

p63は腺癌でも陽性になることがあるので,扁平上皮癌の組織像がなく,p63とTTF-1のいずれもが陽性である場合は多くは腺癌である.p40は扁平上皮癌では陽性になるが腺癌では陽性にならず,扁平上皮癌のマーカーとしての特異度はp63よりも高い.

しかし,生検/細胞診標本において,形態像だけで腺癌や扁平上皮癌と診断できる場合もあり,常に免疫染色行う必要はない.

adenocarcinoma (腺癌)

腺癌と診断できる形態像が存在する場合

生検標本の粘液染色により低分化の非小細胞癌が粘液を入れる腫瘍細胞を少なくとも2個有する場合は腺癌と診断する.

上皮内腺癌の診断は,摘出標本全体を観察することにより行えるため,生検標本にlepidicパターンのみを認めても,上皮内腺癌ではなく,adenocarcinoma with lepidic patternとする.

sqamous cell carcinoma(扁平上皮癌)

扁平上皮癌と診断できる形態像が存在する場合

non-small cell lung carcinoma, favor adenocarcinoma (NSCLC, favor adenocarcinoma)(非小細胞癌,腺癌の疑い)

腺癌と診断できる形態像が存在しないが,TTF-1,Napsin Aが陽性または粘液染色が陽性で,p63, p40, CK5/6が陰性である場合

TTF-1が陽性であれば,扁平上皮癌のマーカーが陽性であっても,NSCLC, favor adenocarcinomaと診断する.

non-small cell lung carcinoma, favor squamous cell carcinoma (NSCLC, favor squamous cell carcinoma)(非小細胞癌,扁平上皮癌の疑い)

扁平上皮癌と診断できる形態像が存在しないが,TTF-1, Napsin Aが陰性,粘液染色が陰性で,p63, p40, CK5/6が陽性の場合

non-small cell lung carcinoma, not otherwise specified (NSCLC, NOS)(非小細胞癌,NOS)

TTF-1, Napsin Aが陰性,粘液染色が陰性で,p63, p40, CK5/6も陰性の場合

腺癌の組織像と扁平上皮癌の組織像が認められる場合は,NSCLC, NOSと診断し,組織像が扁平上皮癌と腺癌の分化を示すことをコメントとして記載する.腺扁平上皮癌の可能性もあるが,腺扁平上皮癌はそれぞれの成分が10%以上含まれていることを確認する必要があるため切除標本で診断し,生検/細胞診では診断しない.また,また,免疫染色で扁平上皮癌のマーカーと腺癌のマーカーがそれぞれ異なる細胞で陽性となる場合は,同じ腫瘍細胞に扁平上皮癌のマーカーと腺癌のマーカーが同時に陽性になる場合よりも,腺扁平上皮癌の可能性が高い.

possible large cell neuroendocrine carcinoma (大細胞神経内分泌癌の疑い)

神経内分泌分化を示す構造が存在し,免疫染色によりCD56, chromogranin, synaptophysinなどが陽性である場合


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第32回日本臨床細胞学会埼玉県支部・埼玉県臨床細胞医会 学術集会 講演 (2013.3.16 於浦和) および第13回千葉肺癌カンファレンス 指定演題 (2015.7.10 於千葉) より

東京女子医科大学八千代医療センター病理診断科 廣島健三