神経内分泌腫瘍

第3版は、神経内分泌腫瘍として、
をあげています。しかし、大細胞神経内分泌癌は非小細胞癌であるため、大細胞癌に分類し、カルチノイド、小細胞癌とは別の分類になっていました。第4版では、これらを一つの腫瘍型として神経内分泌腫瘍に入れました。

第4版の神経内分泌腫瘍の分類は以下の通りです。

Tumorlet

主に細気管支周囲に神経内分泌細胞が結節をつくるものです。右は免疫染色で神経内分泌マーカーの1つであるCD56(NCAM)が陽性であることを示します。 Tumorletは5mm未満であり、5mm以上のものは、カルチノイドとします。

カルチノイド腫瘍

定義:神経内分泌性の悪性上皮性腫瘍。定型カルチノイドと非定型カルチノイドに分類する。

定型カルチノイドと非定型カルチノイドの診断基準
定型カルチノイド非定型カルチノイド
構造類器官構造、索状、島状、柵状、リボン状、ロゼット構造
核分裂像(10高倍視野)0-1個2-10個
壊死ないある(小さい)

カルチノイドは類器官構造、索状、島状、柵状、リボン状、ロゼット構造などの特徴をもちます。 定型カルチノイドは、核分裂像が10高倍視野で0か1個で、壊死は認めません。 非定型カルチノイドは、類器官構造、索状、島状、柵状、リボン状、ロゼット構造などの特徴をもつ点は定型的カルチノイドと同じです。 違いは、核分裂像が10高倍視野で2−10個、あるいは壊死巣を認めることです。壊死巣はふつう小さく、大きな壊死はみられません。 Tumorletは定型カルチノイドに似ていますが、大きさが小さく、5mmより小さいものをいいます。 大細胞神経内分泌癌及び小細胞癌と非定型カルチノイドの鑑別は、前2者はいずれも核分裂像の数が多いことによります。

定型カルチノイド

類器官構造を示します。右に拡大像を示します。腫瘍細胞の核は類円形で、好酸性の豊富な細胞質を有します。ロゼット様構造を認めます。

非定型カルチノイド

類器官構造を認め、壊死を認めます。 右の拡大像は、核のクロマチンが増量し、細胞質が少ないことがわかります。 ロゼット様構造を認めます。核分裂像はあまり認められません。

大細胞神経内分泌癌

定義:ロゼット、胞巣辺縁の柵状配列など組織学的に神経内分泌構造を示し、免疫染色で神経内分泌マーカーが陽性になる非小細胞癌。

類器官構造、索状、ロゼット様、柵状配列を示します。 細胞質は中等量から豊富で、核小体が目立ちます。 核分裂像は10高倍視野で11個以上で、平均は75個です。 広い範囲の壊死巣を認めます。 大細胞神経内分泌癌と診断するためには、免疫染色で神経内分泌マーカーが陽性であることを確認する必要があります。

大細胞神経内分泌癌の組織像を示します。 左に弱拡大を示します。腫瘍細胞は胞巣を形成し、広範な壊死巣を認めます。 右に強拡大を示します。腫瘍細胞は胞巣の辺縁で柵状配列を示します。細胞質は比較的豊富で、好酸性です。ロゼット構造を認めます。きわめて大きい腫瘍細胞が出現しています。


混合型大細胞神経内分泌癌
大細胞神経内分泌癌と、腺癌、扁平上皮癌、紡錘細胞癌、巨細胞癌が混在する腫瘍です。

大細胞神経内分泌癌の細胞所見
一般的に、大細胞神経内分泌癌は手術により摘出された標本で診断されます。しかし、進行した症例では手術により摘出することが困難で、喀痰や気管支鏡による生検や細胞診で癌の組織型を決定する必要があります。

このスライドは手術により摘出された標本で、大細胞神経内分泌癌と診断された症例の腫瘍捺印による細胞診所見です。 左上に腫瘍細胞がシート状に配列している所見を示します。右上は豊富な細胞質を有する多角形の腫瘍細胞が、平面的で孤立性に出現している所見を示します。 核膜は薄く均一です。核小体は1−2個見られます。 小細胞癌と同様に核線を認めます。 左下に示すロゼット様構造も多くの症例で認められました。 右下に極めて大きな裸核状の細胞が孤立性に出現している所見を示します。核小体は多数認められます。 このような所見がみられた場合、細胞診でも大細胞神経内分泌癌と診断することが可能であると考えます。

小細胞癌

定義:細胞質が少なく、細胞境界が不明瞭で、核網が微細で、核小体がないか目立たない小型の細胞からなる悪性上皮性腫瘍。細胞の形は円形、楕円形あるは紡錘形である。核の相互圧排像が著明である。広範な壊死を認め、核分裂像が多い。多くの小細胞癌は神経内分泌マーカーが陽性である。

小型の細胞からなる悪性上皮性腫瘍で、腫瘍細胞の大きさは、リンパ球の3倍未満です。 核分裂像が多く、平均は60個以上です。 WHO第3版には、小細胞癌はHE染色で診断することが可能で、免疫染色や電子顕微鏡により神経内分泌分化を証明する必要がないと記載されていますが、第4版には、上皮性腫瘍であり、神経内分泌分化を確認するために、CK AE1/AE3, CAM5.2, chromogranin A, synaptophysin, CD56などを検討する必要があると記載されています。

小細胞癌の組織像を示します。 小型の裸核の腫瘍細胞からなり、広範な壊死を認めます。 腫瘍細胞の大きさは、リンパ球の約3倍までです。 小細胞癌と大細胞神経内分泌癌の写真は同じ倍率で撮影しています。小細胞癌と大細胞神経内分泌癌を比較してみますと、大細胞神経内分泌癌の方が細胞質が豊富で、細胞が大きいことがわかります。

混合型小細胞癌
小細胞癌と非小細胞癌が混在する腫瘍で、通常、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、大細胞神経内分泌癌が混在しますが、まれに紡錘細胞癌、巨細胞癌が混在することもあります。

神経内分泌腫瘍の術後の生存曲線

私たちは以前に組織診断をした原発性肺癌を見直し、大細胞神経内分泌癌の頻度とその予後を検討しました。肺大細胞癌を神経内分泌分化の有無により大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma (LCNEC)), 神経内分泌分化を示す大細胞癌(large cell carcinoma with neuroendocrine differentiation (LCCND)), 神経内分泌腫瘍の形態を示す大細胞癌(large cell carcinoma with neuroendocrine morphology (LCCNM)), 通常の大細胞癌(classic large cell carcinoma (CLCC))に分類しました。LCNECと診断した症例の元の病理診断は、小細胞癌中間細胞型、大細胞癌、低分化の腺癌、低分化の扁平上皮癌でした。LCNEC, LCCND, LCCNMの5年生存率はそれぞれ27.4%、22.2%、18.2%で、CLCCの5年生存率43.3%よりも有意に低値でした。LCCNMの臨床データはLCNECと同じでした。神経内分泌分化を示す大細胞癌は予後が悪く、組織学的に神経内分泌分化を確認することは、臨床的にも意義があります。
上の図は、定型カルチノイド、非定型カルチノイド、大細胞神経内分泌癌、小細胞癌の術後の生存曲線です。カルチノイドの予後は良好で、非定型カルチノイドには再発した症例がありました。 大細胞神経内分泌癌は小細胞癌と同様に予後が不良でした。
下の図は、大細胞神経内分泌癌に化学療法を加えた症例と加えなかった症例の術後の生存曲線です。Retrospectiveなstudyですが、大細胞神経内分泌癌に化学療法を加えた症例は加えなかった症例に比べて予後が良好でした。

問題点
大細胞神経内分泌癌と小細胞癌に関して、病理医間の診断一致率が低いことが報告されています。 Travisらは、同じ標本を5人の肺専門の病理医で診断しました。小細胞癌、大細胞神経内分泌癌の全例で3人以上の診断が一致しました。しかし、全員の診断が一致したのは、小細胞癌の7割、大細胞神経内分泌癌の4割でした。4人が一致したのは小細胞癌の9割、大細胞神経内分泌癌の5割でした。



上の左端の図は、多くの病理医が大細胞神経内分泌癌と診断し、真中の図は多くの病理医が小細胞癌と診断します。右端の図は、小細胞癌と大細胞神経内分泌癌の両方の特徴を有するため、病理医の診断が一致しません。


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第45回日本呼吸器学会学術講演会 教育講演 (2005.4.15 於幕張) および 第13回千葉肺癌カンファレンス 指定演題 (2015.7.10 於千葉) より

東京女子医科大学八千代医療センター病理診断科 廣島健三