小児脳神経外科
神経外科治療の中で、小児(通常15歳以下)領域の治療は、先天性奇形から脳血管障害、脳腫瘍などと成人領域の疾患と比較してさらに幅広いものとなります。当院では、そうした各々の疾患に対応するために、脳神経外科ばかりでなく各科(産科、新生児科、小児科、内分泌内科、形成外科、小児外科、眼科、耳鼻科、放射線科など)との連帯治療にてチーム医療に取り組んでおります。特に小児脳腫瘍に対しては、外科的治療から術後の放射線、化学療法までを含め一貫した治療体制が確立されています。ここでは、一般的な小児領域の脳神経外科疾患をご紹介すると同時に、当院での小児脳腫瘍の治療について概略をご紹介致します。
担当医
小児脳腫瘍
当院では、日本全国さらには海外からも非常に多くの小児脳腫瘍患児とその御家族が来院され、現在も入院・通院治療を続けています。また、既に他施設で診断・治療を受けられた脳腫瘍のお子様もセカンドオピニオン目的にご来院されております。
「小児脳腫瘍」とひとくくりに言っても、緩徐な成長と低い再発率に代表される良性の脳腫瘍から、急速に伸展・浸潤し再発を繰り返す難治性脳腫瘍までその種類は様々です。また大脳、小脳、脳幹部など様々な部位の脳腫瘍に対しても当院では治療を行っています。
小児脳腫瘍の治療は、「手術」「化学療法」「放射線療法」の3種類の治療法の組み合わせが非常に大切です。手術だけで完治に至る小児脳腫瘍は残念ながら多くはありません。手術はあくまで治療の選択肢の一つに過ぎず、このことは他の2つである「化学療法」と「放射線治療」についても同様のことが言えます。当院では化学療法に関しては小児科(血液腫瘍科医)、放射線治療に関しては放射線腫瘍科あるいは当科ガンマナイフ治療グループなど、症例経験数豊富なチームと連携しながら治療を行います。
以下に代表的な疾患を挙げます。
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ナビゲーションシステム 腫瘍摘出術
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放射線治療現場
「胚細胞腫瘍」
中枢神経系胚細胞腫瘍は性腺の原始生殖細胞に由来する腫瘍です。体の正中線上に発生し、水頭症を合併して頭痛にて発症することが多い脳腫瘍です。水頭症を合併している場合には神経内視鏡を用いた水頭症治療を行った後に組織の生検(一部分を採取)を行うか、あるいは髄液中の特異的なマーカーを測定し診断を確定します。胚細胞腫瘍の中には化学療法が非常に効果を発揮し、手術による摘出を行うことなく治癒が期待できる種類もあれば、化学療法・放射線治療にも抵抗し増大を続ける種類もあり、治療法の選択あるいは外科的介入のタイミングについては臨床的経験に基づいた治療計画が必要になります。当院ではこれまでの治療経験から「手術」「化学療法」「放射線治療」を組み合わせた集学的治療を行い、治療後も外来で長期間にわたり定期的に精査加療させて頂いております。
「良性脳腫瘍」
「良性」脳腫瘍は、一般に進行が緩徐で再発の少ない腫瘍が該当します。しかし、腫瘍がおとなしい性質でも腫瘍ができる場所によって症状が強く現れる可能性があります。その代表が視神経(眼の神経)から発生する視神経膠腫です。脳腫瘍の中でも稀なこの病気は、進行するにつれお子様の視力を奪います。治療について各施設間で差はありますが、当院では積極的な外科的治療を第一選択としております。視神経膠腫はある一定の時期、一定の容積の摘出を行うことにより、その後腫瘍の成長が停止あるいは退化する報告もあり、腫瘍が安定するまで本人の症状を見ながら根気強く外科的治療を継続しております。
「悪性脳腫瘍」
脳腫瘍の中には“癌”はありません。良性とは反対に、急速な進行、繰り返す再発、脳に浸潤するように広がり治療難治性の腫瘍群を悪性脳腫瘍と称します。難治性脳腫瘍の治療には、多くの治療法を組み合わせた集学的治療が必要になります。当院では可能な限り手術による腫瘍の摘出と、それに引き続いて化学療法・放射線治療を行います。化学療法は様々なプロトコール(治療計画)の中から、疾患毎に適応を検討します。化学療法に関しては、小児科(血液腫瘍医)と相談の上で治療方針を検討し、通常の化学療法に加えて必要に応じて幹細胞移植を併用した大量化学療法等、あらゆる治療に対応できる診療体制が整えられております。放射線治療に関しては放射線腫瘍科と連携し治療を行います。放射線治療に関しては、安静が保てない小さなお子様の場合には医師が同伴し鎮静を行いながら継続しますのでお子様への負担はありません。また当院では、小児放射線照射治療に慣れたスタッフ(放射線技師、看護師)がお子様の不安を取り除く工夫をしておりますので、安心して治療を受けて頂けます。
「脳幹部腫瘍」
現在の医学では治癒が非常に困難な脳腫瘍群です。これまでにも世界中で様々な治療法が試みられておりますが、現時点で標準的治療として確立されているものは放射線治療のみです。治療を困難にしている原因は、脳幹部という場所(生命を維持する大事な機能が密集している)と、脳幹全体が腫瘍化する(明瞭に境界される腫瘍がない)タイプの腫瘍であることが挙げられます。当院では限局的な腫瘍(正常の脳と腫瘍との境界が明瞭なもの)の場合は、その発生する場所によっては脳幹部であっても積極的な摘出を行うことがあります。限局的ではない腫瘍(境界が不明瞭な腫瘍)に対しては標準治療である放射線治療に則った治療を行いますが、当院における治療の特徴的として放射線治療中の頭痛・吐き気・水頭症の軽減を目的とした外減圧術(頭蓋骨を一部外して頭の中の圧を軽減する手術)を、治療当初に行うことが挙げられます。減圧術を行うことにより、放射線治療中の苦痛を軽減することができ、治療中、療後のお子様の生活レベルを長期に維持できるからです。
以上に挙げた疾患は、当科で治療する脳腫瘍の一部です。小児脳腫瘍の特徴は非常に多様であることと、お子様は「成長」するということです。他にも脳腫瘍に限らず血(脈)管障害など様々な小児脳疾患の治療を行っています。その中で、こども達の成長は身体的な成長・発達の他に学習・知的発達の他に心理面の発達も非常に大切です。その点において、当院では脳外科専属の心理士がお子様の心理面の評価およびサポートを行います。大事なお子様が成長し、疾患を乗り越えられるまで寄り添って見守ることが我々小児脳神経外科医の使命です。
水頭症
「水頭症」と聞くと、赤ちゃんの頭が大きくなる病気としてイメージをもたれている方が多いと思います。頭蓋骨の成長が完成する前に水頭症を来す先天性(生まれつき)の水頭症では頭の大きさが拡大します。学童期など成長が完成した後に水頭症を罹患された場合には、頭の大きさは変化しません。
通常、脳と脊髄は「髄液」という液体の中に存在します。髄液は産生と吸収を繰り返し、絶えず新しく循環していると言われていますが、そのメカニズム詳細は分かっていません。その髄液の産生と吸収のバランスが崩れた時、頭の中に溜まった髄液が正常脳組織を圧迫し、頭痛や吐き気等の症状が出現します。
水頭症という病態は、多様・複雑であり小児期だけの病態ではなく、成人まで幅広い年齢層で起こりえます。しかし、胎児期から水頭症を合併して生まれてくるお子様が少なくないこと、それに先に述べた小児脳腫瘍は、成人と比較して髄液の通り道に発生することが多く水頭症を来し易いことなどから、小児脳外科疾患において「水頭症」を合併することは多いのです。
水頭症の治療には大きく分けて脳室と腹腔を細いチューブで繋ぐ(シャント術)と神経内視鏡(頭蓋内に用いるカメラ)を用いて第三脳室の底に小さな穴を開ける(開窓術)があり、それぞれの病態に併せて治療法を選択します。
シャント術は多くの施設で行われている手技ではありますが、身体の中に異物を留置してくるため閉塞や感染などトラブルも少なくありません。小児脳神経領域では特に、お子様の成長に伴いチューブがお腹の中に外れたり、チューブが閉塞したりして再び水頭症になって受診する例も少なくありません。当施設では、小児水頭症に対するシャント術を行う際には、安全性を高める目的にて小児外科と合同で手術を行っております。
神経内視鏡を用いた第三脳室底開窓術は非交通性水頭症(髄液の通り道が閉塞することに伴う水頭症)に適応があります。中脳水道狭窄症は髄液の通り道である中脳水道が先天的あるいは後天的(髄膜炎、出血後等の影響)な原因により狭窄してしまうため、頭痛の精査で発見されることもあります。頭痛は息みで増悪したり視力が低下したりすることもありますが、手術を行うことでこれらの症状の改善が期待できます。
水頭症は緊急を要する場合も多々あり、当施設では神経内視鏡治療は24時間体制で乳幼児から成人まで小児班が治療対応にあたります。
小児もやもや病
小児脳腫瘍と同様に他施設から非常に多くの患者様を御紹介いただき、当施設での治療にあたっています。
小児もやもや病の典型的な症状として、激しく泣いたときやピアニカ・リコーダーの演奏後、あるいは熱い蕎麦やスープをすする際に息を吹きかける動作に(過呼吸によって)誘発される脳卒中症状(構音障害、麻痺、しびれなどがあります。実際に当施設に来院されるもやもや病のお子様の具体的な症状は、前記の症状の他に朝方に多い頭痛で発見されることもあります。
もやもや病の診断はMRI/MRA検査にて行い、特徴的な所見として頭蓋内主幹血管の狭窄・もやもや血管(タバコの煙の様な細かい血管の形成)があります。もやもや病と診断されたお子様には抗血小板薬(血液を固まりにくくするお薬)の内服を開始していただき、適切な時期に外科的な治療を行います。当施設では小児班と脳血管班との合同治療チームで治療方針を決定します。その外科的治療法としては、直接バイパス(頭の外の血管を頭の中に直接つなぎます)と間接バイパス(血管を有する組織を頭の中に敷くことで、時間をかけて血管が新生して血流を補います)が挙げられます。
当施設では小児もやもや病症例に対しては、全例に直接バイパスと間接バイパスを併せ行うことを特徴としています。理由は、小児もやもや病症例では非常に急速に進行する場合があり、間接バイパスが形成されるまでの期間において脳血流の不足に対応できない可能性があるからです。急性期の脳血流不足に対しては直接バイパスによって脳血流の補充を行い、間接バイパスを併用することで時間をかけて間接バイパスの成長を待つのです。手術後に退院・通院されても一定期間、抗血小板薬は継続して内服していただき、外来通院中に中止していきます。また術前・後には専任の心理士が患児の知能・心理面評価を行い、小児脳神経外科医としてお子様の成長発達のフォローと学校復帰に向けたサポートを行っています。
脊髄髄膜瘤・脊髄脂肪腫
脊髄髄膜瘤の典型的なお子様は、腰の部分に皮膚の欠損と髄膜瘤(膜に包まれた袋)の突出を認め、髄膜瘤の中には脊髄披裂を伴う脊髄を認めます。妊娠前からの葉酸の摂取は脊髄髄膜瘤の発生のリスクを低下させるというデータに基づき、日本産婦人科学会では1日4mgの葉酸摂取の必要性を勧告しています。妊娠中の胎児エコーで脊髄髄膜瘤を認めた場合には、産科より連絡を受けた新生児科医・脳神経外科医・形成外科医師が出産時待機します。出産後は感染を回避する目的でも生後48時間以内に手術を行います。症状は脊髄髄膜瘤のできる腰の位置によっても異なりますが、下肢の動きの異常・膀胱直腸障害(おしっこやうんちがしにくいあるいは頻回である)などがあります。また、治療前後、高頻度に水頭症を合併することがあり脳室腹腔短絡術の治療が必要になります。脊髄髄膜瘤の修復術で難しいことは、大きく欠損した皮膚の形成であり当院では形成外科と合同で手術を行います。
同様に、腰にできる疾患として脊髄脂肪腫があります。本来、皮膚の下にあるべき脂肪組織が何らかの原因で脊髄まで入り込み、脊髄の成長(係留)により上記の様な症状を来します。診断は腰のMRIを施行して行います。治療としては脂肪と脊髄の分離(係留の解除)と脂肪腫の摘出を行いますが、脊髄と脂肪との位置関係から手術の難易度は異なります。手術による神経症状の悪化避ける為にも適応に関しては、御両親と医療従事者とで良く相談の後に治療方針を決定します。
当科では、上記疾患については小児班と脊髄班が合同で治療にあたらせていただいております。小児神経外科外来にて診察だけでなく、セカンドオピニオンを受け付けておりますので御相談ください。
頭蓋変形外来
頭蓋骨を構成している縫合線の一部が早期に癒合してしまう、頭蓋骨縫合早期癒合症という病気があります。この病気は、赤ちゃんの頭の形が成長とともに変形が進行するのですが、単なる寝癖からくる2次的な頭蓋骨変形とは鑑別することが困難です。まずは、頭部レントゲンにて早期発見することが大切です。 それに加えて、頭蓋骨変形矯正ヘルメット治療をご存知ですか?これは、先ほど述べた頭蓋骨縫合早期癒合症以外の赤ちゃんの頭の変形をヘルメットを使って矯正する治療方法のことです。当院の頭蓋変形外来では、2007-2011年の期間においてアメリカ製矯正ヘルメットを用いて矯正治療を行ってきましたが、日本の気候や日本人の赤ちゃんに適したさまざまな工夫を凝らしたメイドインジャパンのヘルメット治療を2013年から開始いたしました。
出産の時に、お母さんの産道を通るために赤ちゃんの頭蓋骨は柔らかく分かれた状態になっています。出産後、頭蓋骨は繋がりながら成長し、徐々に大人の頭蓋骨の状態に近づいてきますが、胎内で身に付いた寝癖(寝る時の方向癖)で寝転ぼうとします。そして、いつも同じ頭の部位が接地して平らに変形していってしまうのです。これが、斜頭症・短頭症の主な原因となります。
斜頭症、短頭症は、頭に付ける装具(メガネや帽子など)が合わせづらい、髪型によっては他の人の目が気になる、重度になると顎のかみ合わせが悪くなるなど、私生活への影響は少なくありません。アメリカでは、頭部変形に関して古くから研究が行われ、さまざまな矯正方法が試されましたが基本的に赤ちゃんの寝癖をなおすことは不可能という結論に達し、寝癖はそのままでも矯正が行える方法として、ヘルメット治療が生み出されました。
ヘルメット治療は決して必ず行わなければならない治療ではありませんが、もしお子様の頭の形が気になられるのであれば、どうぞお気軽に当院頭蓋変形外来にてご相談ください。(http://aimet-neo.sakura.ne.jp/)
以下のリンクからメール相談も可能です。
PCST
PCST (Pediatric Care Support Team)は、東京女子医科大学病院において緊急かつ重症なご病気のお子様に対する治療を行う際に、小児を担当する各診療科が協力して集中治療にあたる為の院内小児チーム医療体制の名称です。小児科を主体として、小児の診療を行う科(新生児、循環器、腎臓、外科、心臓外科、脳神経外科)で構成されます。様々な科が協力することによって、重症なお子様や急変したお子様の健康を守り、お子様も御両親も安心して医療を受けられる院内環境の整備育成を目的としております。より専門性の高い小児医療を求められる大学病院だからこそ、多くのスタッフの協力が必要となります。東京女子医科大病院では、病院全体としてより良い小児医療技術・体制・環境を目指しております。
わかまつ学級
わかまつ学級は、東京女子医科大学病院における院内学級名であり、平成25年に新宿区余丁町小学校の分級として開級いたしました。院内学級設立に当たり、非常に多くの方々に御尽力いただきましたこと、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。
院内学級設立に至った経緯として、当院で治療を行う小児疾患には手術、化学療法、放射線治療を必要とし、長期にわたる入院生活(長い場合には6ヶ月~1年になることもあります)を余儀なくされるお子様が、学業面を心配することなく安心して治療を受けて頂ければとお願い、わかまつ学級が発足しました。(現在は小学部のみとなります)
当院に入院中の小学部のこども達は、皆さん(原籍の小学校からの転籍手続き終了後)わかまつ教室まで登校し、授業を受けることができます。体調が優れない時や治療によって感染症が心配な時期には病室には、担任の先生に病室まで訪問していただいて、継続的に授業を受けることも可能となります。入院期間が中長期(2週間以上)となることが予想される場合、元々通っていた小学校とわかまつ学級の教諭が事前に情報を共有した後、一時転校(転籍)をしていただきます。無事に治療が終わり退院の際には、再度情報の共有(原籍校教諭・わかまつ学級教諭・主治医・ご家族を含め)を行った後、もともとの小学校へ再度転籍となります。わかまつ学級での授業はもともと通っていた小学校と同じ授業を受けたことになりますので、治療中も学校を欠席したことにはなりません。
わかまつ学級(小学部)には疾患・学年問わず全員が同じ教室で、学年に併せた授業を受けることが可能となります。日々病気と闘う子供たちにとって、治療と同じ位、勉強や学校という社会生活環境の整備が大切だと我々は考えております。
毎朝病棟から元気に「いってきます」とランドセルを持って笑顔で登校できる病院を、そして体調が悪いときでも「今日はこんなことをわかまつ学級で勉強したよ」とこども達がお話しできる小児医療環境を目指しております。
以上、東京女子医科大学病院・脳神経外科における小児班治療体制をご紹介いたしました。ご相談のある方は、毎週木曜日の頭蓋変形外来もしくは、毎週土曜日(第三土曜日を除く)の小児脳神経外科・専門外来を御受診ください。
難治性脳腫瘍に対する新しい治療
「光線力学的療法(Photodynamic Therapy: PDT)」
2018年度より、お子さん(20歳以下)の難治性脳腫瘍に対する新しい治療法「光線力学的療法(Photodynamic Therapy: PDT)」が倫理委員会の審査・承認を得て、東京女子医科大学脳神経外科において施行できることとなりました。当院ではこれまでにも成人の難治性脳腫瘍に対しては、既に多くのPDT経験があり、今後はその治療経験を活かし、難治性脳腫瘍のお子さんにも適応を広げられることになりました。
PDTは光感受性物質(レザフィリン®)を投与後に特定波形のレーザを照射することで光感受性物質にエネルギーを付与し腫瘍細胞を攻撃します。レザフィリンは正常組織からは速やかに排泄され腫瘍細胞には残る性質を有するため、腫瘍細胞内に残った光感受性物質にレーザを照射することで正常細胞を障害することなく腫瘍細胞だけを選択的に治療することを可能にします。
お子さんの難治性脳腫瘍では手術で最大限に摘出しても、その周囲にはまだ細胞レベルで腫瘍細胞が残っているといわれています(周囲の組織への浸潤性)。また、重要な構造物(手足の動き、感覚、見え方などを担う領域)近くの脳腫瘍では、手術で腫瘍を摘出することに伴って、お子さんの生活の質を著しく低下させる可能性があるために、摘出制限を余儀なくされる場合があります。しかし、残った腫瘍細胞はやがて増大し「再発」という形でお子さんの生命を脅かすリスクがあるのが現状です。PDTはこのような細胞レベルで周囲に残る腫瘍細胞を選択的に治療する方法です。
PDTでは手術の前の日にレザフィリンを投与します。手術の当日に脳腫瘍を可能な限り外科的に摘出したあと、頭を開けた状態で腫瘍細胞が残っている可能性がある部位に対して手術中にレーザ照射を行います。術後2週間は光に対して過敏な状態が続きますので光を落とした状態で入院を継続していただきます。光過敏性試験(光に対して皮膚の発赤が出現しないかを確認する試験)がクリアされればその後は日常生活に戻ります。
PDTを併用しても、標準治療(手術の後に引き続いて行われる放射線・化学療法など)は影響なく行うことが可能です。
PDTはお子様の生活の質の維持をしながら、現在の治療に抵抗性をもった難治性腫瘍に対する新しい治療法として期待されています。
以下のリンクからメール相談も可能です。