ガンマナイフ治療
担当医
野村 竜太郎(非常勤講師・サイバーナイフ外来)
東京女子医科大学 ガンマナイフユニットの特徴
1993年5月に全国で10番目として開設して以来、これまで29年超の臨床実績があります。 治療症例総数は8300例を超え、現在年間約200症例超の治療を行っております。 2012年5月より「最新モデル:レクセルガンマナイフ“PERFEXTION(パーフェクション)”」を全国大学病院において先駆けて導入し、 0.1mm(100μ) レベルの照射位置精度にて、がん脳転移などの多発性脳病変および脳内に限らず頭蓋顔面頸椎移行部の治療も可能です。 2021年11月からは「ガンマナイフIcon」にアップグレードを行い、従来のフレームでの頭部を固定する方法に加え、マスク固定で治療を行うことが可能になりました。 日帰り照射や1回の治療負担軽減のための短期間での複数回照射も施行しております。
標準的な治療適応である脳腫瘍や脳動静脈奇形の治療だけではなく、 機能的脳疾患(三叉神経痛などの難治性疼痛・てんかん・本態性振戦など)や他科領域疾患(耳鼻科・眼科・口腔外科ほか)の治療への応用にも積極的に取り組んでいます。
本学ガンマナイフ治療における学術的実績も豊富であり、 今まで250を超える学術論文、200を超える国際学会基調講演・シンポジウムなどの招聘を受け、常に世の中へ発信し世界と闘いリードして参りました。 その一つの結果として、2003年および2015年6月には当該分野で最も権威ある国際学術会議(第6回国際定位放射線治療学会学術大会(京都/大会長:高倉公朋)、 第12回国際定位放射線治療学会学術大会(横浜/大会長:林 基弘) を本学にて主催をさせて頂く機会を得ました。 とくに2015年横浜大会においては国内外より600名近くのきわめて専門性の高い医療従事者(脳神経外科医・放射線治療医・医学物理士など)が集まり盛会で終わりました。 今後も、患者さん一人一人に、それぞれにあったより良い治療を提供できるよう、チーム一丸となって精進してまいります。いつでもお気軽にご相談ください。
ガンマナイフとは
ガンマ線(放射線)を用いて、まるでナイフで病巣を切り取るような治療法です。開頭手術をしなくても、頭蓋内・脳内病変もしくは機能的脳疾患の治療・コントロールを可能とした、きわめて低侵襲な脳外科治療の一つです
ガンマナイフの装置の中には、192個のコバルト(Co60)が同心円状かつ半円球状に敷き詰められており、それぞれからガンマ線が常時放出されています。192本のガンマ線は一箇所に集中するよう設計されており、標的病変に高線量一括照射が可能となっています。このため、周囲正常組織への被曝は少なく、標的脳内病変のみに高エネルギー照射が行えます。また、術後に皮膚炎・脱毛・骨髄機能抑制を起こすことはほとんどありません。この点が、通常の放射線療法と大きく異なります。
CT・MRI・脳血管撮影など画像技術も進歩しており、治療成績の向上に大きく貢献しています。Perfexion (Full Automatic Positioning System:自動照射位置設定システム) の使用で、以前より安全・精密かつ快適に治療が受けられるように設計されています。
治療適応
脳神経外科疾患のうち、脳腫瘍や脳血管奇形、機能的脳疾患が主な治療適応となっています(下表)。
転移性脳腫瘍 (肺癌・乳癌・消化器癌ほか全ての組織型) |
良性脳腫瘍 (髄膜腫、聴神経腫瘍、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など) |
非良性脳腫瘍 (一部の神経膠腫、悪性リンパ腫など) |
脳動静脈奇形 |
一部の海綿状血管腫 |
機能的脳疾患 |
薬剤抵抗性の特発性三叉神経痛(2015年7月1日より保険適応) |
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眼疾患:眼窩内腫瘍、眼内腫瘍など |
治療可能病変は、最大径で30mmまでとされますが、病変の形状や患者さんの全身状態などあわせ、総合的に判断します。外来受診後必要に応じて画像検査(専用詳細MRI、たとえば造影剤を使用して腫瘍を染めるのでなく、腫瘍を透かして周りの細かな正常脳神経を描出するテクニックなど)など追加し、治療適応決定致します。
とくに手術による根治が難しいとされている頭蓋底腫瘍(聴神経腫瘍・髄膜腫・海綿静脈洞内腫瘍・脳幹近接腫瘍など)に対して、良性腫瘍グループ(川俣教授ほか)と徹底したカンファレンスを通して外科手術・ガンマナイフ・他の定位放射線治療(サイバーナイフ:野村非常勤講師)の適応およびコンビネーション(外科手術+ガンマナイフなど)を専門外来にてわかりやすく説明できるよう心掛けております。
脳動静脈奇形(AVM)に対する治療方針は当科血管障害グループとともに、定例AVMカンファレンスを開催し、外科手術(山口講師・石川助教)・血管内治療(石川助教・船津助教・茂木助教)・ガンマナイフ治療のいずれか、もしくはコンビネーションなど当科症例経験数に基づく独自の治療戦略をそれぞれの症例ごとに話し合い治療方針を決めております。全国大学病院の中でも各専門班すべてが豊富な経験と高い専門性を持つ屈指の施設であり、決して偏りのない患者さんにとってのベストウエイを模索し提供していきたいと考えております。 2021年11月からは、Iconシステム導入によって原則痛みのないマスク固定で治療が可能となりました。また、2021年10月からのBrainlab Elements導入によって、他院や以前に施行した脳血管撮影検査を使用しての治療も可能となっております。
機能的脳疾患(難治性疼痛、とくに薬剤抵抗性難治性三叉神経痛・てんかん・不随意運動など)に対する治療の是非と可否に関しては、治療の前に厳密な精査や評価を必要とし、治療効果を得るために重要となります。難しい疾患群であることから、ガンマナイフによる治療適応の有無を必要に応じて専門チーム(機能脳神経外科グループ:平孝臣臨床教授・堀澤助教)とともに検討します。
全身合併症(心筋梗塞・重症喘息・がん治療中など)や高齢者の場合は、全身麻酔下での外科的手術の危険性も高く、ガンマナイフ治療が優先されます。医療上QOL(生活の質的内容)が尊重される場合もガンマナイフ治療を優先することがあります。
小児治療においては、当科小児脳神経外科グループ(藍原准教授・千葉助教)および麻酔科と連携し、2泊3日での短期入院にて全身麻酔下でのガンマナイフ治療を行っています。全国に先駆けて患児の精神的肉体的苦痛を少しでも排除し、安全かつ最大限の効果が得られる治療を目指し、最近では適応症例に限って非挿管麻酔下(全身麻酔のときの気管挿管チューブを入れずに)麻酔(MAC)を実施しております。ここ2-3年で小児ガンマナイフ症例数は倍増し、全国・世界各地からお子さん患者さんがいらしています。大事なお子さんの将来を共に守り、語り、叶えてあげたいと考えています。
治療
原則日帰りでの治療が可能です。入院希望の場合には、入院期間は2泊3日もしくは1泊2日で、治療は一日~三日で行います。
治療の行程は1) フレーム装着もしくはマスク固定、2) 画像検査、3) 治療計画、4)治療、以上4つで構成されています。
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1.フレーム(ステレオタクティックフレーム)装着
フレーム(ステレオタクティックフレーム)装着
安全・精密かつ快適に治療が受けられる安全・精密かつ快適に治療が受けられる頭部へのフレーム装着は治療で最も大切な行程です。 このフレームを装着するからこそ、各種検査(CT /MRI/血管撮影)の位置情報を専用コンピュータへ正確に認識させ、脳内病変への安全で正確な治療を可能にするからです。 また、ガンマナイフ装置そのものへ頭部を固定するときにも、このフレームを用いて固定させます。 フレーム装着は局所麻酔下(基本的に前頭部に2箇所、後頭部に2箇所の計4箇所:歯科治療時のものと同様です)にて行います。 全国で一番痛みのない施設であるという自負を持っております。誠心誠意痛みのない処置を目指しております。 どうぞご心配なくお受けください。マスク固定
治療当日に専用のマスクを治療台で作成します。マスクは複数回使用可能です。痛みのある処置は不要で、麻酔などの投薬も必要ないため、非常に負担が少なく治療を受けることができます。 -
2.ガンマナイフ治療用画像検査
事前に高性能MRI(1.5T)を用いて高解像度で処理し、ガンマナイフ治療専用画像を作成します。 症例ごとに疾患・病態・病状に応じた専用詳細MRIを施し、0.1ミリ単位の照射計画に応え得る画像を提供しております。前述しましたが造影剤は通常腫瘍を染めて病巣を明らかにするのが目的ですが、当科では世界に先駆け逆に腫瘍を透かして周りの細かな正常脳神経を浮き彫りにする画像提供が可能となっており、後述の治療計画上かなり有益な画像情報が得られるようになりました。
そして、フレーム装着後もしくはマスク固定後に疾患に合わせて必ずCTを行います。AVM治療に際しては一部の症例を除き事前に脳血管撮影を行います。治療が無事に完遂できることを主目的としているので、治療当日検査は造影剤使用有無も含めて厳重に検討し安全にお受けいただけるよう心掛けております。
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3.治療計画
機械的精度はきわめて高いすべての画像情報を専用コンピュータ (Gamma plan)へ送信し、専門医師がそのデータを解析しながら治療計画を立てます。 画像は一人あたり、400-600枚枚に及び、より多くの情報をもとに、正確な脳構造の把握と病巣描出を行います。 病巣に対して、直径 4、8、16ミリの合計3種類の球状照射野(焦点)を組み合わせて照射野を決定していきます。 その際、病変周囲の脳組織の正常構造物を避け安全かつ正確な治療計画を立てます。 最終的に位置補正を行い、3次元の立体イメージなどを駆使して治療計画を完成させます。
治療計画こそが外科手術手技そのものに相当するところで、術者の経験・知識・技術すべてが要求されるところです。外来における事前説明および治療後説明にてもただ放射線を当てるということでなく、顕微鏡下手術のごとく微小解剖を意識した治療計画にご納得いただけるよう心掛けております。治療そのものの生命線に当たるところなので、疑問に思うところはとことんお聴きください。必ずお答えし納得・満足頂けるようにいたします。
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4.治療
療用ベッドの上に寝た状態で、装置内金属製ヘルメットに頭部を固定します。 これにより、頭部の動きを止めて標的となる病巣へ確実に治療を行います。 ベッドが自動的に装置の中へと移動し、止まった時点から照射が始まります。 自動照射位置設定システムにより、すべての照射位置が自動的に設定されます。 ベッドに横たわっている間にロボットシステムがすべて行うことが可能で、より快適に治療を受けていただくことが可能です。
各照射位置による一回の照射時間は治療計画によります。 総治療時間はものの15分から2時間半ほどまでで、腫瘍の個数・大きさ・こだわりなどで大きく時間が異なります。照射中は変な光も、音も、臭いも一切しません。途中でお話もできますし、好きな音楽もお聴きになれます。トイレ休憩もお声掛け一つで可能です。閉所恐怖症の方でも安心して行える治療空間です。照射がすべて終わると自動的にベッドは外へと出てきます。
治療後
治療終了後もしくは退院前に、治療内容に関して詳しく説明をいたします。 次回外来受診に関しては、当院で行う場合と紹介元の医療機関で行う場合があります。 疾患にもよりますが、だいたい3~6ヶ月に一度の割合で行っています(悪性腫瘍は3か月毎、良性疾患・AVMは6か月毎のMRIフォローをお願いしております)。疾患・病態・病状・居住地などでフォローの仕方はそれぞれですので、治療終了後担当医師の指示をよくお聞きください。
ガンマナイフは一部の疾患を除いて、治療したその日に結果がでるものではありません。また、てんかん発作や頭痛などが、ガンマナイフ治療の直接的な影響ですぐにでることもありません。数ヶ月から数年の単位での経過を診て、評価を行っていく必要があります。これまでの膨大な臨床経験から、疾患によっては予測も立てられます。そのためにも、定期的な外来での経過観察を勧めています。このことは、将来ガンマナイフを受ける方々へのフィードバックともなっているのです。
治療効果
脳腫瘍やAVMに関しては腫瘍抑制効果と栄養血管閉塞が中心です。 強い放射線で治療をすることにより、腫瘍細胞を破壊したり、増殖する能力に障害を与えたりします。 また、腫瘍を栄養する血管を障害させて、徐々に塞いでしまう効果もみられます。 一方で、機能性脳疾患治療応用に関してはまだ明らかな効果メカニズムが明らかとなっておらず、今後も基礎および臨床研究を重ね明らかとされていく分野であります。
危険性
脳浮腫と放射線障害が代表的です。放射線障害はきわめて早期(数週から数ヶ月)から起こるものと時間がたってから(晩期:6-18ヶ月)起こるものに大別され、症状は病巣の状態や存在部位によって異なります。定期的な外来での経過観察にて十分に予防できるものがほとんどです。その他、各疾患には特有の合併症がありますので、治療前および後に必ず担当医にご確認ください。
診療予約(ガンマナイフ外来)- 予約センタ ー
毎週月、水にガンマナイフ外来を行っており、ガンマナイフ一般初診外来は水曜午前午後で受け付けております(医師指名・主治医性は取っておりません)。さらに第二木曜午前に野村非常勤講師によるサイバーナイフ外来を行っております。また、林教授指名のセカンドオピニオン・特別診察ご希望ある方は、毎週月曜午後に特別診察外来予約が可能となっております。
紹介状と最近の画像検査などを貸し出しもしくはコピーでご持参ください。治療適応の診断から治療日予約までの日程を少しでも早くするために重要となります。ご理解とご協力をお願いいたします。
研究活動
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES) 先端生命工学外科との共同研究にて下記疾患に対する前向き研究を行っております。
- 本態性三叉神経痛
- 転移性脳腫瘍
- 本態性振戦
- 内側部側頭葉てんかん(MTLE)
臨床と基礎が互いにコラボレーションできる大学病院ならではのガンマナイフ治療を皆様に提供いたします。
他科との連携も進んでおり、脳以外の頭蓋頭頚部疾患、眼科領域の悪性腫瘍(メラノーマ・転移性網膜腫瘍など)や、耳鼻科領域の悪性腫瘍などにも場合により治療しています。
さらに令和2年度より国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構へ林教授が客員研究員として招聘され、ガンマナイフを超えたスーパーガンマナイフとも言うべき「量子メスマイクロサージェリーシステム(仮称/カーボンナイフ)」開発プロジェクトに加わります。近い将来における完成と実用性を目指し、「脳疾患根治100%時代」を目指して当科一同精進して参ります。
最後に
ガンマナイフスタッフ一同、最初の外来受診から、治療後までの全経過にわたり、安心して治療を受けていただくために最大限努力いたしております。特に治療自体に関しては、なるべく肉体的・精神的苦痛を負わせないよう努力するとともに、治療技術に関しては常に世界トップレベルの医療を意識し、心掛けております。最新の知識と技術を用いることで、新たな治療の可能性を探求しつつ最終的にはすべての患者様に還元していけることが目標であります。ご意見などがありましたら、遠慮なくお伝えいただきたく存じます。皆様の声を生かし、より良い治療の提供を目指します。
そして、どのような病気・病態・疾患であっても、治療方法に対して科としてこうすべきとこだわるというより、患者さんの人生や希望を最大限に考慮しながら、かつ科学的にメリット・デメリットをすり合わせ共に解決方法を模索したいと心掛けております。とにかく治療は納得と満足。治すべきは病気のみではなく、人生そのもの。完治を超えた「治癒(治してこころの底から癒される状態)」を100%すべての患者さんに提供できるよう精進していく所存です。とくに医師指名でゆっくりと時間をかけてお話を聴かれたい方(セカンドオピニオン含む)には外来センター5階特別診察室を用意しておりますのでお気軽にご予約ご相談ください。
林ガンマナイフ室長よりのメッセージ!
私も46歳の時に心筋梗塞を患い患者をいまでも経験しています。患者にとってと医師にとっての医学のゴールの違いを本当に感じています。だからこそ、患者さんに寄り添う医療でなく、患者さんに成りきる医療を目指し、未来が見えなくなってしまった患者さんにまず一条の光を届けたい。そしてともに考えともに叶えたい未来を創るお手伝いをさせて頂きたいと真に思っております。ですので、なんでも聴いて頂きたいですし、言って欲しいです。患者力あふれる患者さんは必ずより良い人生をリセットできます。多くの患者さんは医療者こそがリスペクトすべき存在ばかりです。私の部下たちもママさん脳外科医やママさん看護師たちで、子育て・先端医療を両立させています(?)。お子さんのご病気、もしくは小さなお子さんを家に残して治療を受けられる患者さんのお気持ちなど十分に理解し親身に相談してくれています。われわれと一緒に「治しきる医療」を目指していきませんか?世界屈指の医療を大きな笑顔でお届けしたいと思っております。