脳血管内治療
担当医
脳血管内治療とは
脳血管内治療とは、マイクロカテーテルと呼ばれる細い管を脳内の血管に挿入して、血管の内側から病変を治療する方法です。従来は開頭手術で対応していた疾患や治療が困難であった様々な疾患が、この方法によって治療が可能となりました。本治療法は、カテーテルや塞栓物質など治療機器の開発・進歩、手技の向上に伴い、その安全性・有効性が高まり、まさに日進月歩の感があります。
脳血管内治療のエビデンス
近年では、破裂脳動脈瘤(クモ膜下出血)に対する脳血管内治療の治療成績が開頭術にくらべ良好であることや、頚動脈狭窄症に対するステント留置術が頚動脈内膜剥離術と同等の成績であることなどが報告されています。未破裂脳動脈瘤においては、開頭術と脳血管内治療の選択に関して結論がでておらず、治療方針決定には十分な検討な必要な状況です。しかしながら、血管内治療の普及・進歩によって、徐々に脳血管内治療の割合が増大しているのが現状です。また、今後新たな治療機器(フローダイバーター、WEB)の導入により、今後治療方針が大きく転換する可能性があるとされています。急性脳主幹動脈閉塞症に対する治療では、点滴治療(プラスミノーゲンアクチベーター静注)に加え、24時間までは経皮的血栓回収療法を併用した治療が予後を改善させることが報告されました。
当院で対応可能な脳血管内治療の対象と術式
- 未破裂脳動脈瘤:コイル塞栓術、バルーンアシストコイル塞栓術、ステントアシストコイル塞栓術、各種フローダイバーター、WEB、母血管塞栓術、バルーンオクルージョンテスト
- 破裂脳動脈瘤(クモ膜下出血):コイル塞栓術、バルーンアシストコイル塞栓術
- クモ膜下出血後の脳血管攣縮:血管形成術、血管拡張物質動注療法
- 脳動静脈奇形:経動脈的塞栓術(オニキス、NBCA)、ガンマナイフや開頭術を組み合わせての集学的治療
- 硬膜動静脈瘻:経動脈的塞栓術(オニキス、NBCA)、経静脈的塞栓術、ガンマナイフを組み合わせての集学的治療
- 脳腫瘍:経動脈的塞栓術、選択的試料採取、言語・記憶機能検査(Wada テスト)
- 急性頭蓋内動脈閉塞:局所線溶療法、経皮的血管形成術、経皮的脳血栓回収療法
- 頭蓋内動脈狭窄症:経皮的血管形成術、ステント留置術(ウイングスパン)
- 頚動脈狭窄症:頚動脈ステント留置術(CAS)
- 鎖骨下動脈、椎骨動脈狭窄:経皮的血管形成術、ステント留置術
未破裂脳動脈瘤の治療
血管内手術では日本脳神経血管内治療学会専門医および指導医により、脳動脈瘤に対するコイル塞栓術やフローダイバーター留置術を行っています。近年では脳動脈瘤の部位に関わらず、脳血管内治療を選択するケースが増えています。治療は、ハイパースコット手術室で、3次元ローテーションアンギオグラフィーを行い、脳血管内治療を安全に行うための角度(ワーキングアングル)を決定して行います。バルーンと呼ばれる風船や各種ステントを併用したコイル塞栓術とフローダイバーター留置術を主に行っており、各種バルーンやステント、各種フローダイバーター、WEBを全て使用できる体制が整っています。治療は、主に全身麻酔で行っています。フローダイバーター留置術には、抗血小板剤の効果を判定することが重要であり、当院では血小板凝集能測定やVerifyNowを活用して詳細な検討を行っています。
コイル塞栓術
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A:3次元ローテーションアンギオグラフィーでworking angleを決定
B:バルーンとマイクロカテーテルを脳動脈瘤部へ誘導
C:コイル3本を使用して脳動脈瘤を塞栓
D:脳動脈瘤の良好な塞栓を確認
大型・巨大脳動脈瘤の治療
通常の方法では治療が困難な大型・巨大な脳動脈瘤に対しては、フローダイバーター留置術を中心に各種治療機器(パルスライダー、WEB)を利用した治療を検討します。フローダイバーターの留置が困難な場合は、ステントを併用したコイル塞栓術や血管吻合術を併用した開頭術を行います。血管吻合術は頭部皮膚の血管(浅側頭動脈)や下肢の静脈(大伏在静脈)を利用して行います。当院では、小児もやもや病に対しても血管吻合術を行っており、血管吻合に関して高い技術力を誇っています。
各種ステント
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脳動脈瘤塞栓用ステント
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フローダイバーター
フローダイバーター留置術
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A:3次元ローテーションアンギオグラフィーで脳動脈瘤を確認(矢印)
B:フローダイバーターを留置
C:治療前:大型脳動脈瘤(矢印)を認める
D:治療後:脳動脈瘤は消失している
クモ膜下出血の治療
破裂脳動脈瘤が原因であるクモ膜下出血に対しては、開頭術と血管内手術のどちらも対応が可能で、脳動脈瘤の部位や患者さんの状態により適切な方法を選択しています。脳血管攣縮に対しては、マイクロカテーテルを使用した血管拡張物質(エリル)動注療法で対応しています。治療後は、集中治療室(ICU)やストロークケアユニット(SCU)で全身治療を継続します。
脳動静脈奇形の治療
血管内治療(塞栓術)単独治療による脳動静脈奇形の完全消失率は6~40%とされており、本邦では外科的手術または定位放射線治療(ガンマナイフ)前後の流入動脈閉塞またはナイダス体積減少を目的として脳血管内治療が施行されています。塞栓物質としては、液体塞栓物質である①オニキスと②NBCA(N-butil cyanoacrylate)を使用します。また適宜、プラチナコイルを併用します。当院ではガンマナイフの治療を多く行っており、ガンマナイフの効果向上を目的とした脳血管内治療やそれぞれのメリットを生かした集学的治療を行っております。
脳動静脈奇形術前塞栓術
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塞栓術前
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塞栓術後
A:左内頚動脈撮影でナイダスを確認できる
B:Onyxによる塞栓術により、ナイダスの大部分が塞栓されている
硬膜動静脈瘻の治療
硬膜動静脈瘻は、脳や脊髄を覆う膜(硬膜)を栄養する動脈から、毛細血管を介さず直接静脈へ血流が流れ込む病気です。脳や脊髄の様々な部位に発生し、静脈血の流れるスピードや流れる方向により多彩な症状を引き起こします。時に脳出血を併発することがあります。関連する症状がある場合や出血を併発した場合は、血管内治療、定位放射線治療(ガンマナイフ)または外科治療の単独または組み合わせによる治療を行います。血管内治療では、硬膜動静脈瘻の病変部に対して①オニキスや②NBCA(N-butil cyanoacrylate)などの液体塞栓物質やプラチナコイルで塞栓を行います。当院では、院内にガンマナイフの装置を備えており、脳血管内治療とガンマナイフのそれぞれのメリットを生かした併用による集学的治療も行っています。
硬膜動静脈瘻塞栓術
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A:硬膜を栄養する動脈(赤、オレンジ矢印)から静脈(青矢頭)への異常血流
B:マイクロカテーテル(赤)を誘導
C:オニキス(白矢印)を挿入して塞栓
D:治療後:硬膜動静脈瘻は消失
脳腫瘍の治療
脳腫瘍では、髄膜腫などの血流が豊富な腫瘍を中心に、術前の塞栓術を行っています。塞栓術を行うことにより、手術中の出血量を減少させることが可能となり、また腫瘍が柔らかくなるため、より安全に摘出することが可能となります。塞栓物質としては、プラチナコイルや粒子塞栓物質(エンボスフィア)、液体塞栓物質であるNBCA(N-butil cyanoacrylate)を必要に応じて使用しております。
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塞栓術前
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塞栓術後
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塞栓術を行うことにより、腫瘍内部が造影されなくなっています。
頚動脈狭窄症の治療
頚動脈狭窄症に対する頚動脈ステント留置術は、頚動脈内膜剥離術と同等の治療効果を得られることが知られています。当院では、全身麻酔による負担軽減の観点から、局所麻酔で治療を行っています。治療は、全身麻酔にも対応できるハイパースコット手術室を使用しており、全身麻酔での対応も可能です。バルーンやフィルター(FilterWire, Spider)による遠位塞栓防止器材や近位部の塞栓防止器材(Mo.Ma Ultra)の選択、様々なステント(Precise, Protege, Wallstent, Casper)の選択が可能です。当院では、遠位塞栓防止機材として、血流遮断を必要としないフィルターを主に使用しており、近赤外分光法で血中の酸素化や脳血流の変化をモニタリングしております。脳神経内科と協力体制を構築しており、全身的な治療を行うことを心がけています。
頚動脈ステント留置術
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A:治療前、右内頚動脈に著明な狭窄を認める
B:治療後、ステント留置により内頚動脈が良好に拡張している
C:治療前、右内頚動脈撮影、頚動脈狭窄によって頭蓋内の血流が弱い
D:治療後、右内頚動脈撮影、頭蓋内の血流が改善している
当院の方針
当院では、脳神経外科専用の脳血管内治療装置を有しており、365日24時間治療可能な体制を整えています。脳動脈瘤に関しては、国内トップレベルの治療数を誇っており、脳動脈瘤の形状やできた場所、治療を受ける方の希望を総合的に判断し、治療の選択をおこなっており、近年ではコイル塞栓術を選択する方が増えております。ステント併用のコイル塞栓術のみならず、フローダイバーターやWEBによる治療も行っており、各種デバイスを全て使用できる体制が整っています。
クモ膜下出血後の脳血管攣縮に対しては、適応であればマイクロカテーテルを使用した局所動注療法やバルーンを使用した血管形成術で対応しています。
また、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍(髄膜腫など)の治療件数が多く、それらに対する液体塞栓物質(オニキスなど)、固形塞栓物質、コイルによる塞栓術をバランス良く行っております。ガンマナイフが活用できるメリットがあり、治療を組み合わせることにより、安全で確実な治療を提供することを心がけております。ハイパースコット手術室のみならず、手術室での開頭術とカテーテル治療が同時に対応できるハイブリッド手術室を備えており、より安全性の高い治療の選択が可能です。
頚動脈狭窄症は、頚動脈内膜剥離術と頚動脈ステント留置術の選択が可能で、どちらも数多くの治療を行っています。近年では、内服薬による予防や治療後の再発予防が重要であることが知られており、脳神経内科と協力して治療対応をしています。
急性期脳梗塞に関しては、日本脳卒中学会の一次脳卒中センターおよび血栓回収センターに認定されており、来院4.5時間以内に方にはプラスミノーゲンアクチベーター(rt-PA)による静注療法を行い、経皮的血栓回収療法にも対応しております。治療後は、ストロークケアユニット(SCU)で脳神経内科と協力して治療を行っています。血栓回収機器として、吸引型血栓回収機器(Penumbra、Catalyst、SOFIAFLOW、REACT、Vecta、EMBOVAC)、ステント型血栓回収機器(Trevo、Solitaire、REVIVE、TRON、EmboTrap)など様々な機器に対応しています。
頭蓋内動脈狭窄に対する治療後の血管解離や再発に対してはステント(ウイングスパン)による治療が可能です。
2020年より最新鋭脳血管内治療装置を併設した次世代手術室「ハイパースコット手術室;Hyper smart cyber operating theater (Hyper SCOT)」が稼働し、今まで以上に安全で質の高い治療の施行が可能となりました。
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ハイブリッド手術室
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急性期血栓回収用治療室
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