本研究所では細胞シート工学を用いた立体組織や臓器の再生を追及しています。これまでに、酸素・栄養の透過性や老廃物の除去に起因する作成組織の厚みの限界を克服するためにin vivoで細胞シートの段階的移植法を考案し三次元組織の再生に成功させました。また、さらなる目標であるin vivoでの血管付き三次元心筋組織の再生を目的として、血管床と組織灌流バイオリアクターによる血管網付与システムの開発を進めています。さらに、次世代の心筋再生医療を目指して心臓を補助するポンプとなり得る管状心筋組織の構築も試みています。今後は、より生体内環境を模倣したバイオリアクターを開発し収縮力が増強された厚い管状心筋組織の構築を目指します。管状心筋組織を心不全モデルへ移植し血行動態を改善することができれば新たな治療法となると期待できます。
立体組織の移植はバラバラの細胞の移植に比べ、高い治療効果が得られます。細胞同士は接着たんぱく質の働きで強く結合するため、細胞を集めることで生体外でも生体組織様立体組織を作製できます。私たちは遠心力を利用することで細胞同士の接着を加速でき、そして速やかに立体組織を作製できるのではないかと考えました。また、低温環境下よりも37℃の方が細胞間接着も迅速に成立すると考えられます。そこで私たちは温調機能付き遠心機を開発し、立体組織を速やかに作成する方法の開発を目指した新たな研究を開始しました。これまでの研究で、37℃で遠心を行う事で細胞シートの積層化時間の大幅な短縮を実現しました。
組織ファクトリー ~再生医療製品製造のための自動化製造システム~
高品質の細胞シートを作成するためには、大きな無菌施設や訓練された培養士が必要とされます。これは、より多くの患者さんに細胞シート製品を届けるための足かせとなっています。そこで、私たちは工業用ロボット技術とアイソレーター技術を応用し、完全に自動化された再生医療製品の全く新しい製造設備であるフレキシブル・モジュラー・プラットフォーム(fMP)の開発を行っています。fMPの構成単位であるモジュールは「細胞を播種する」など比較的単純な一つの機能しか持っていませんが、モジュールをいくつか組み合わせることで様々な複雑な工程を実現することができます。岡野光夫教授をリーダーとしたFIRSTプログラム(内閣府最先端研究開発支援プログラム「再生慰労産業化に向けたシステムインテグレーション-臓器ファクトリーの創生-」)では、このfMPの設計思想に基づき、大阪大学の紀ノ岡正博教授やエイブル株式会社、株式会社日立製作所、株式会社セルシード、日本電工株式会社、澁谷工業株式会社の方々と協力し、世界初の積層化骨格筋芽細胞シートの自動製造システム“組織ファクトリー(Tissue Factor)”を開発しました。さらに現在、私たちはfMPを利用して、ヒトiPS細胞を用いた再生医療製品の製造設備の開発にも取り組んでいます。