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2015年03月10日交換留学で見聞を広めグローバルな医師をめざす
交換留学で見聞を広めグローバルな医師をめざす
2014年10月、日本列島を台風が襲ったその日、東京女子医科大学は終日、休講となった。
だが、台風が去って秋晴れとなった午後には学生の姿もチラリホラリ。
それらの中には白衣をまとった外国人学生もいた。
<女子医大病院で学ぶ留学生>
その日の夕刻、女子医大1号館にある形成外科の医局では、櫻井裕之教授が
若い女性3人とテーブルを囲んでしばし談笑していた。女性の1人はトルコの国立
ハジェテペ大学、あとの2人は台湾の台北医学大学の学生である。彼女らは交換
留学生として来日し、女子医大病院で臨床実習を行っていたのである。
彼女らが滞在したのは約1か月。その間、朝のカンファレンスへの出席に始まり、
回診や外来での診察、病棟での治療、手術などに立ち会い、夕方のカンファレン
スにも臨むという毎日を送った。「彼女らをはじめ外国人留学生は皆、まじめで
勉強熱心です。医学教育は世界共通の部分が多いため、留学生個々の医学的
知識に大きな差はなく、優秀な学生ばかりです」と櫻井教授。
形成外科にはバングラデシュから研修に来ている若いドクターもいるが、「留学
生を含め、優秀な外国人を受け入れることは我々にとっても大きな刺激になります」
ともいう。
<効率の良い日本の医療を高評価>
同じ時期、アメリカのマウントサイナイ医科大学からも交換留学生が来ていた。高血圧内分泌内科で実習していた女子学生は、「アメリカでは採血や採尿などをすると、患者さんはその結果を聞くために日をあらためて病院を訪れなければなりません。でも、女子医大病院ではその日のうちに検査結果が分かりますから、患者さんの負担がとても軽いですね」と、日本の病院の良さを指摘する。
もう1人の男子学生も、「日本の外来では患者さんが順番に診察室に入ってドクターに診てもらいますが、アメリカではいくつかのブースに患者さんが待機していて、ドクターがそれらのブースを回りながら診察します。また、アメリカにはいろいろな医療保険がありますが、日本には誰もが平等に診療を受けられるすばらしい国民医療保険制度があります」と、日本の医療の効率の良さを高評価。
そして、2人そろって「珍しい症例をたくさん目にする機会を得てとても勉強になりました。週末には浅草や鎌倉などを観光し、おいしいスシやラーメンも堪能しました。すべての経験が将来に役立つと思います」と語ってくれた。
女子医大では昨年、こうした交換留学生を海外10大学から29人受け入れ、女子医大からは海外9大学へ19人の医学部学生を派遣し、国際交流を深めている。
キャンパスの談話室で女子医大生と交流する留学生
<私立医大の交換留学のパイオニア>
女子医大の国際交流は、学内に国際交流委員会が設置された1997年に本格的なスタートを切った。この年、イギリスのカーディフ大学(旧ウェールズ医科大学)と国際交流協定を締結し、女子医大の学生2人が交換留学生の第一号としてイギリスへ渡った。当時、私立の医科大学が海外交換留学プログラムを導入したのは画期的なことだった。
その後、1999年にベルギー・ブリュッセル自由大学、2002年にアメリカ・ハワイ大学および中国・上海交通大学医学院(旧上海第二医科大学)と国際交流協定を結び、以後毎年のように協定校を増やしてきた。現在、協定校は世界9か国・地域に14校を数え、これまでに250人以上の学生をこれらの協定校へ派遣するとともに、受入学生数も優に200人以上にのぼっている。
女子医大からの派遣留学生は、臨床実習が始まる5学年生を対象としており、留学先での病院実習は女子医大での病院実習の単位として振り替えられる。つまり、単位認定されるわけだ。受入留学生の単位付与については、女子医大での病院実習を選択科目の単位として協定校が認定することになる。
派遣留学生は毎年20人前後を数えるが、これは5学年生全体の約2割に相当し、留学する学生の割合が比較的高いといえる。もともと海外留学に前向きな学生が少なくないが、中には交換留学制度を活用するために女子医大に入学するという目的意識のはっきりした学生もいる。ちなみに、女子医大の海外交換留学プログラムは文部科学省の留学生交流支援制度に採択されており、特に高い評価を受けた特色のあるプログラムとして広く紹介されている。
女子医大は2012年10月、日本で初めて国際外部評価団に医学部の評価を依頼し、「世界医学教育連盟のグローバルスタンダードを満たしている」との評価を得ている。交換留学を中心としたこれまでの国際交流の実績が、そうした評価につながる要因の一つになっていることはいうまでもない。
<日本食パーティーで交流を深める>
では、留学を経験した女子医大の学生たちは具体的にどのような成果を上げているのだろうか。昨年派遣された学生たちの声を拾ってみよう。
イギリス・カーディフ大学に留学したY.K.さんは、「イギリスでは医学部の学生の60%が女性だと聞いて驚きました。GP(ホームドクター)制度に興味があってイギリス留学を選びましたが、地域住民の健康状態を把握しているGPは、住民にとって非常に安心できる存在だと感じました」と、本場のホームドクターに接した感想を述べる。
ベルギー・ブリュッセル自由大学に留学したM.E.さんは、「ベルギーの学生が日本の研修医と同等の役割を担っていることにまず驚きました。学生が患者さんを受け持ち、毎日診察するという繰り返しの中から実践的に医療を学んでいました」という。また、「患者さんの出身地がベルギーのみならず、国境を越えて医療がなされていたり、安楽死が合法であるなど、新しい発見の毎日でした」と振り返る。
M.E.さんは一緒に留学したK.S.さん、M.S.さんとともにアパートで自炊生活をしたが、現地の先生や学生から食事に誘われるケースも多く、ベルギー文化を肌で感じることができたという。3人は逆にベルギーの学生をアパートに招き、ちらし寿司や肉じゃが、そばなどの日本食パーティーを開くなどして交流を深めた。
カーディフ大学の教授と学生たち ブリュッセル自由大学でのプレゼンテーション ブリュッセル自由大学のキャンパス風景
<自分に足りないものが見えてくる>
部活の先輩からアメリカ・コロンビア大学への留学体験談を聞き、自分もコロンビア大学へ留学したいとの思いを強くしていたY.S.さん。その念願がかない、憧れのコロンビア大学に留学した彼女は、「英語の環境下で2か月過ごしたことにより、精神的に成長することができました。日々出会いが多く、先生や患者さん、学生など新しく出会った人と話すのがとても楽しく感じられ、自分が何を学びたいかをきちんと考えて主張することができるようになりました」という。
そして、「毎日通っていたメディカルセンターの入口に掲げられている“Amazing things are happening here”という文字を目にし、本当にすばらしいことがここで起きていたのだと実感しました」と述懐する。
アメリカ・マウントサイナイ医科大学に留学したR.Y.さんは、「私たちはアメリカのアグレッシブさを見習うべきだと痛感しました。言語の壁や医学の知識以上に、病棟における医学生の役割の大きさやその姿勢に感銘を受けました」と、自分に足りないものが見えてきたことが大きな収穫だったと語る。
彼女は一緒に留学したM.I.さんやコロンビア大学に留学した学生らとともに、ボストン周辺に在住している女子医大出身の先輩たちが留学生のために毎年開催している“Boston会”にも出席。「アメリカで働くことのメリットなど、先輩方の経験談はとても参考になりました」と、Boston会が有意義だったことを強調する。
海外留学を経験した彼女たちは、こうした国際交流を契機にひと回り大きく成長していくのである。
留学生の学生を招いて日本食パーティー コロンビア大学メディカルセンターのメインゲート マウントサイナイ医科大学でのカンファレンス
「広報誌 sincere3号より」